第五十八話 「届かない背中」
――キィンッ!!
刃がぶつかる。
雪音の短刀が、真昼の刀を弾く。
「……!」
真昼は一歩下がる。
雪音は間髪入れずに追いかけた。
「逃げるな!」
「逃げているわけじゃない。」
真昼が刀を返す。
――ガキィン!!
今度は雪音の短刀が大きく弾かれた。
「っ!」
雪音の手が痺れる。
それでも。
離さない。
「まだ……!」
再び踏み込む。
真昼はその動きを見ていた。
速い。
技術もある。
だが。
何より異常なのは――。
「……無茶だ。」
「何?」
「お前、自分の身体を全然守ってない。」
雪音の表情が険しくなる。
「そんなもの……。」
「どうでもいい。」
「……。」
真昼の目が細くなる。
「よくない。」
「お前がどうなってもいいみたいな戦い方をするな。」
「お前に何が分かる!」
雪音が叫ぶ。
「俺は……!」
短刀を握り直す。
「俺は、お前に追いつかなきゃいけなかった!」
「父上に認めてもらうために!」
「一ノ瀬の名を背負うために!」
「だから――!」
雪音が踏み込む。
――キィン!!
真昼は受け止める。
「だから、自分を捨てるのか。」
「……!」
「それがお前の強さなのか?」
雪音の瞳が揺れる。
「違う……。」
「俺は……。」
言葉が続かない。
真昼は刀を引く。
雪音も距離を取る。
二人の間に、僅かな沈黙が生まれた。
その時。
雪音の袖から、赤いものが落ちる。
――ポタッ。
血だった。
短刀を握り続けていた手から、血が流れている。
「……。」
真昼がそれを見る。
「手を怪我してる。」
「これくらい……。」
雪音は手を隠す。
「問題ない。」
「問題ある。」
真昼の声が強くなる。
「お前は昔からそうだったのか。」
「……。」
「痛くても我慢する。」
「辛くても誰にも言わない。」
「自分が壊れるまで、一人でやる。」
雪音の表情が固まる。
「……何も知らないくせに。」
「だったら教えてくれ。」
真昼は刀を下げた。
「お前が何を背負ってきたのか。」
雪音は唇を噛む。
「……嫌だ。」
「どうして。」
「お前にだけは……。」
その声が震えた。
「お前にだけは、弱いところを見られたくない。」
真昼は何も言わなかった。
その時。
「おいおい。」
一輝の声が響く。
「何をしている?」
一輝が二人へ近づく。
「殺し合いなんだろ?」
刀を抜く。
「だったら、もっと楽しませてくれよ。」
一輝の兵達も一斉に動き始める。
真昼が一輝を睨む。
「……邪魔をするな。」
「邪魔?」
一輝は笑った。
「違う。」
「俺も混ざるんだよ。」
一輝が刀を構える。
その瞬間。
雪音が真昼の横へ並んだ。
短刀を握り直す。
「……こいつは俺がやる。」
真昼が雪音を見る。
「一人でやるつもりか。」
「ああ。」
「無理だ。」
「……何だと?」
真昼は一輝を見据える。
「今のお前じゃ、一輝と兵を相手にするのは無理だ。」
雪音の紅い瞳が真昼を睨む。
「だったら――。」
短刀を構える。
「証明してやる。」
その瞬間。
一輝が笑った。
「そうだ。」
「それでいい。」
「二人とも――。」
「俺を楽しませろ。」
学園祭の空気が、完全に戦場へと変わった。




