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第五十六話 「白い鬼」

「……五条真昼」


一輝の声が、学園祭で賑わっていた学院に響き渡った。


それまで聞こえていた笑い声が、少しずつ消えていく。


生徒達も。


来場者達も。


誰もが、突然現れた大勢の男達を見つめていた。


真昼は一輝から目を離さない。


「……桐生院一輝。」


その名を口にする。


一輝は嬉しそうに笑った。


「覚えていてくれたか。」


「忘れるわけがない。」


真昼の声は冷静だった。


「漢江会の人間が、何の用だ。」


「決まっているだろ。」


一輝はゆっくりと刀へ手を添える。


「お前に会いに来た。」


「五条真昼。」


その瞳には、異様なほどの執着が宿っていた。


「俺はずっと、お前と殺し合いたかった。」


真昼の表情が僅かに険しくなる。


「ここは学院だ。」


「関係ない。」


一輝は笑う。


「俺にとってはな。」


「……。」


真昼は周囲を見る。


一輝の兵達が、既に学院内へ入り込んでいる。


「紫雲。」


「ええ。」


「生徒達を下がらせろ。」


紫雲はすぐに動き出す。


「みんな、こっちへ!」


生徒達が次々と避難していく。


しかし。


その途中。


一輝の兵の一人が、生徒の前へ立ちはだかった。


「動くな。」


刀へ手を掛ける。


「邪魔をするなら――」


その瞬間。


「……おやめなさい。」


静かな声が響いた。


兵が振り返る。


そこに立っていたのは、千夜雪音だった。


「お嬢様は……下がっていろ!」


兵が怒鳴る。


雪音は動かない。


「その方々に手を出すのは、おやめくださいませ。」


「うるさい!」


男が刀を抜こうとする。


その瞬間。


雪音の袖から、小さな刃が閃いた。


――キンッ!


兵の刀が弾き飛ばされる。


「なっ……!」


雪音は短刀を構えた。


長い白髪が静かに揺れる。


「……これ以上は、許しませんわ。」


男が後退する。


「こ、この女……!」


周囲の兵達も雪音へ視線を向ける。


真昼もまた。


その姿を見ていた。


白い髪。


紅い瞳。


そして。


一瞬だけ見えた、異様な身のこなし。


「……。」


真昼の目が細くなる。


雪音は短刀を握ったまま、真昼へ視線を向けた。


その瞬間。


二人の視線が交差する。


「……君。」


真昼が呟く。


雪音は何も答えない。


ただ。


胸の奥が激しく鳴っていた。


目の前にいる男。


幼い頃から父に比べられ続けた男。


自分が追い続けてきた男。


――五条真昼。


「……君さえいなければ……!」


思わず、声が漏れる。


真昼の表情が変わる。


「……その言葉。」


雪音の持つ短刀。


白い髪。


紅い瞳。


そして。


その圧倒的な殺気。


真昼は、ようやく理解した。


「……白夜叉。」


その言葉を聞いた瞬間。


雪音の身体が僅かに強張った。


「……!」


一輝も目を細める。


「白夜叉……?」


兵達がざわめき始める。


「まさか……。」


「一ノ瀬の白夜叉……。」


真昼は雪音を見つめたまま、静かに呟く。


「一ノ瀬雪音……。」


その名前が。


学院祭の喧騒の中に落ちた。


雪音は答えない。


ただ。


短刀を握り直す。


もう。


隠し通すことはできない。


目の前にいる男だけには。


自分の正体を知られてしまった。

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