第五十五話 「来訪者」
天女学院。
学園祭最終日。
正門付近は、多くの来場者で賑わっていた。
「ありがとうございました!」
「また来年も来ます!」
笑顔が溢れる。
生徒達も最後の時間を楽しんでいた。
その時だった。
学院の前へ、黒塗りの車が一台、また一台と静かに停車する。
十台。
二十台。
三十台――。
異様な光景に、周囲の空気が変わった。
「……何?」
「関係者の車?」
来場者達が不思議そうに眺める。
しかし。
次の瞬間。
一斉に車の扉が開いた。
黒いスーツ姿の男達が、無言で降り立つ。
その人数は百を優に超えていた。
誰も笑っていない。
誰も口を開かない。
ただ、静かに学院の正門へ向かって歩き始める。
「お、お客様……ですか?」
受付をしていた生徒が戸惑いながら声を掛ける。
男達は答えない。
そのまま学院へ足を踏み入れる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
制止の声。
しかし。
男達は歩みを止めなかった。
やがて。
最後尾の車の扉がゆっくりと開く。
黒い着物。
腰には一本の刀。
桐生院一輝。
ゆっくりと地面へ降り立つ。
「ここか。」
一輝は学院を見上げた。
口元が自然と緩む。
「昼花さんが愛した場所。」
「なるほど。」
「悪くない。」
静かに呟き、校内へ足を踏み入れる。
⸻
校舎内。
「……」
真昼は歩みを止めた。
「どうしたの?」
紫雲が尋ねる。
真昼は正門の方を見る。
「来た。」
その一言だけだった。
しかし。
声には確かな緊張があった。
「真昼?」
「敵だ。」
短く告げる。
その瞬間。
雪音もまた、同じ方向へ顔を向けていた。
「この気配……。」
背筋を冷たいものが走る。
父ではない。
雪影でもない。
だが。
知っている。
この禍々しい気配を。
⸻
正門。
一輝はゆっくりと歩く。
兵達が左右へ道を開ける。
来場者達は何事かと距離を取り始めていた。
学院中の視線が、一人の男へ集まる。
一輝は立ち止まった。
そして。
校舎の前に立つ真昼を見つける。
口元が、大きく歪んだ。
「――見つけた。」
狂気にも似た笑み。
愛おしそうな瞳。
そして。
静かな声で、その名を呼ぶ。
「……五条真昼。」




