第五十四話 「迫る狂気」
天女学院。
学園祭最終日。
祭りの熱気は、まだ冷めていなかった。
校庭では歓声が上がり、屋台には長い列ができている。
生徒達は笑い合い、来場者も最後の学園祭を楽しんでいた。
誰一人として知らない。
その平穏が、あと僅かで終わることを。
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「月夜様!」
在校生の一人が真昼へ駆け寄る。
“「お久しぶりですわ。」”
真昼は学院にいた頃と同じように、穏やかな笑みを浮かべる。
“「皆さん、お元気そうで何よりですわ。」”
「また学院へ来てくださって嬉しいです!」
“「ありがとうございますわ。」”
短い会話を終え、生徒達が去っていく。
その笑顔を見送りながら、真昼は小さく息を吐いた。
「……やっぱり疲れるな。」
隣で紫雲が微笑む。
「でも、少し楽しそうだったわ。」
「否定はしない。」
真昼は校舎の方へ視線を向ける。
そこには、和装喫茶の手伝いをする雪音の姿があった。
「……」
雪音もまた、真昼へ気付く。
学院では月夜真昼。
五条会では毘沙門天。
その二つの名が頭の中で重なる。
「五条真昼……。」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
⸻
その頃。
学院から少し離れた道路。
何台もの黒塗りの車が列をなして走っていた。
先頭車両。
後部座席に座る一輝は、窓の外を眺めていた。
「もうすぐです。」
運転席の男が告げる。
「天女学院まで、あと数分。」
一輝は静かに笑う。
「ようやく会える。」
「五条真昼。」
その瞳には、狂気にも似た喜びが宿っていた。
「兵は。」
「全員配置につけ。」
「学園へ入ったら、生徒には手を出すな。」
部下が驚いたように振り返る。
「……え?」
一輝は笑みを崩さない。
「俺が欲しいのは真昼だけだ。」
「邪魔をする奴だけ斬れ。」
「それ以外はどうでもいい。」
「……はっ!」
車列は速度を落とさず走り続ける。
その先には。
昼花が愛した場所。
天女学院。
そして。
運命の再会が待っていた。
一輝は静かに刀へ手を添える。
「待ってろ。」
「真昼。」
「今度こそ、お前を俺が殺す。」
いや。
その口元は嬉しそうに歪む。
「……愛してる。」
黒塗りの車列は、ゆっくりと学院正門へ近付いていった。




