第五十二話 「守るべき場所」
五条会本家。
静まり返った屋敷。
五条真人と五条真昼。
その親子を前に、一ノ瀬雪影は静かに刀を構えていた。
「……親子で来るとはな。」
雪影が口元を歪める。
「都合がいい。」
真昼は雪影を真っ直ぐ見据える。
「一ノ瀬雪影。」
「ここで終わらせる。」
そう言って刀へ手を添えた、その時だった。
「待て。」
真人の低い声が響く。
真昼が目を向ける。
「父さん?」
真人は雪影から目を離さないまま口を開いた。
「真昼。」
「お前は学園へ戻れ。」
一瞬、場が静まり返る。
「……何?」
真昼は眉をひそめる。
「本家が襲われているんだぞ。」
「それでもだ。」
真人は迷いなく言い切った。
「ここは俺が引き受ける。」
「だが――」
「命令だ。」
真昼は言葉を失う。
幼い頃から知っている。
父がこの口調になった時は、決して考えを変えない。
しかし。
「なぜだ。」
真昼は静かに問う。
「俺も戦力になる。」
真人はゆっくりと息を吐いた。
「雪影。」
真人は視線を雪影へ向ける。
「お前の狙いは、本当にこの屋敷だけか。」
雪影は何も答えない。
だが。
その沈黙だけで十分だった。
「……やはりな。」
真人は静かに呟く。
「真昼。」
「昼花が命を懸けて守ろうとした場所を覚えているか。」
その言葉に、真昼の瞳が揺れる。
天女学院。
母が愛した場所。
母が自分を人として育てようとした場所。
「学園……。」
真人は頷く。
「嫌な予感がする。」
「もし雪影が他にも手を打っているなら、お前が守れるのはあそこだけだ。」
真昼は黙った。
雪影は小さく笑う。
「さすがだな、真人。」
「そこまで読んでいたか。」
真人は答えない。
「……。」
真昼は静かに目を閉じる。
父を残して行くことになる。
それでも。
父は命令した。
守るべき場所へ行けと。
「……分かった。」
短く答える。
真人は小さく頷いた。
「行け。」
真昼は踵を返す。
屋敷を出る直前、一度だけ振り返った。
「父さん。」
「死ぬな。」
真人は背を向けたまま答える。
「誰に言っている。」
その声に、迷いはなかった。
真昼は屋敷を後にする。
向かう先は――。
天女学院。
そこで待ち受ける運命を、まだ誰も知らなかった。




