第五十一話 「五条の親子」
五条会本家。
静まり返った屋敷の中。
二人の男が刀を交えていた。
五条真人。
そして。
一ノ瀬雪影。
互いの刃がぶつかるたび、鋭い音が響き渡る。
「……相変わらずだな。」
雪影が呟く。
「お前もな。」
真人は短く返す。
長い付き合いだった。
一ノ瀬と五条。
共に歩んできた時間。
だが。
今、その関係は終わろうとしている。
真人は刀を構えたまま、雪影を見る。
「なぜだ。」
雪影の眉が僅かに動く。
「なぜ、そこまで一ノ瀬を頂点に押し上げようとする。」
雪影は黙る。
そして。
ゆっくりと口を開いた。
「決まっている。」
「一ノ瀬は、いつまでも五条の下にいるための一族ではない。」
「……。」
「力がある者が上に立つ。」
「それが、この世界の理だ。」
真人は静かに目を細める。
「だから息子まで利用したのか。」
その言葉に。
雪影の表情が僅かに変わる。
「雪音は利用などしていない。」
「強くしただけだ。」
「五条真昼を倒せる存在にな。」
真人は黙って雪影を見る。
「……あいつは、お前の道具じゃない。」
雪影の目が鋭くなる。
「分かっていないな。」
「この世界で生き残るには、強さが必要だ。」
「優しさなど何も守れない。」
「違う。」
真人は即座に否定する。
「守るものがあるから、人は強くなれる。」
二人の間に沈黙が落ちる。
⸻
その時。
屋敷の外。
一台の車が止まった。
扉が開く。
黒髪。
蒼い瞳。
五条会若頭。
五条真昼。
「……」
真昼は屋敷を見る。
感じる。
父の気配。
敵の気配。
そして。
戦いの跡。
「遅かったか。」
静かに呟き、屋敷へ入る。
⸻
「若頭……!」
一ノ瀬組の組員が息を呑む。
雪影も振り返る。
「……五条真昼。」
その名が響いた瞬間。
空気が変わる。
五条の毘沙門天。
一ノ瀬雪音が追い続けた存在。
真昼は真人の隣へ立った。
「父さん。」
「大丈夫か。」
真人は小さく笑う。
「誰に言っている。」
「まだ倒れるほど老いてはいない。」
真昼も僅かに笑う。
「そうか。」
短いやり取り。
だが。
それだけで十分だった。
父と息子。
二人が同じ戦場に立つ。
⸻
雪影はその姿を見つめる。
「……そうか。」
「これが五条の親子か。」
真人が刀を構える。
「雪影。」
「ここで終わらせる。」
雪影もまた刀を握り直す。
「ならば来い。」
「五条真人。」
「五条真昼。」
一ノ瀬の野望。
五条の覚悟。
二つの意志が、再びぶつかろうとしていた。




