第四九話 「残酷な会長」
遅くなった申し訳ない
――キン。
乾いた音が静かに響く。
その一音だけだった。
「……え?」
先頭にいた組員が足を止める。
次の瞬間。
胸元から赤い線が走った。
「がっ……!」
鮮血が噴き出し、その場へ崩れ落ちる。
「なっ……!」
周囲の組員達が目を見開く。
見えなかった。
誰一人として。
五条真人が刀を抜いた瞬間すら。
「怯むな!」
「囲めぇぇぇ!!」
怒号と共に、一ノ瀬組の組員達が四方から斬り掛かる。
だが。
真人は一歩も退かない。
静かに前へ踏み出す。
「遅い。」
その一言と同時に。
白鞘から刃が閃いた。
一人。
また一人。
組員達が血飛沫を上げながら倒れていく。
「ぐぁぁぁ!」
「た、助け――」
最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。
首元へ一閃。
そのまま崩れ落ちる。
「ば、化け物だ……!」
誰かが震える声を漏らした。
残酷な会長。
昼花を失ってから、五条真人は変わった。
情けは捨てた。
容赦も捨てた。
敵には、一切の慈悲を与えない。
それが今の五条会会長だった。
「撃て!」
一人の組員が拳銃を構える。
乾いた銃声が屋敷に響いた。
しかし。
真人の姿はそこにはなかった。
「な――」
気付いた時には。
背後に立っていた。
「終わりだ。」
一閃。
組員は声を上げることもなく倒れる。
静寂。
そして。
再び血だけが畳を濡らした。
「……」
雪影は静かにその光景を見つめる。
予想通りだった。
この程度で倒れる男ではない。
だからこそ。
自分が来た。
「下がれ。」
雪影が低く告げる。
組員達は迷いながらも距離を取った。
真人はゆっくりと雪影を見る。
「ようやくか。」
「ああ。」
雪影も静かに刀を抜いた。
「最初から、お前と斬り合うために来た。」
真人は僅かに目を細める。
「そうか。」
白鞘を構える。
屋敷に張り詰める空気。
誰も動かない。
動けない。
二人だけが、互いを見据えていた。
五条会会長。
五条真人。
一ノ瀬組組長。
一ノ瀬雪影。
長年続いた因縁。
その決着が、今まさに始まろうとしていた。




