第四十八話 「五条会会長」
五条会本家。
屋敷の外では、一ノ瀬組の組員達が静かに包囲を狭めていた。
張り詰めた空気。
誰も口を開かない。
雪影は門の前で足を止めた。
「……ここまで来たか。」
長年追い続けた背中。
今日、その男を越える。
そのためだけに生きてきた。
雪影は刀の柄へ手を添える。
「突入。」
短い命令だった。
「はっ!」
組員達が一斉に門へ駆け出す。
次の瞬間――。
轟音と共に門が破られた。
「行けぇぇぇ!!」
怒号が響き渡る。
一ノ瀬組の組員達が雪崩れ込む。
しかし。
屋敷の中は、異様なほど静かだった。
「……?」
先頭を走っていた組員が足を止める。
「誰も……いない?」
庭にも。
廊下にも。
人影がない。
「どういうことだ……。」
組員達がざわめく。
雪影はゆっくりと屋敷へ足を踏み入れた。
「慌てるな。」
低い声が響く。
その時だった。
「ぐあぁっ!!」
一人の悲鳴が上がる。
続いて。
「なっ……!」
鮮血が宙を舞った。
一ノ瀬組の組員が、何者かに一刀のもと斬り伏せられる。
「敵だ!」
「どこにいる!?」
次々と刀を構える組員達。
しかし。
姿が見えない。
ただ。
廊下の奥から、ゆっくりと足音だけが近付いてくる。
――コツ。
――コツ。
――コツ。
静かな足音。
それだけで、その場の誰もが息を呑んだ。
やがて。
一人の男が姿を現す。
黒い着物。
閉じられた右目。
左手には白鞘。
五条会会長。
五条真人。
「待っていたぞ。」
静かな一言。
それだけだった。
それなのに。
一ノ瀬組の組員達は、誰一人動けなかった。
圧倒的な威圧感。
ただ立っているだけで、その場の空気を支配している。
雪影は真人を真っ直ぐ見据える。
「……久しぶりだな。」
真人は白鞘を静かに握り直す。
「そうだな。」
「雪影。」
短い返事。
互いに笑みはない。
あるのは、長年積み重ねた因縁だけ。
「屋敷の者はどうした。」
雪影が問う。
真人は静かに答える。
「避難させた。」
「巻き込む理由がない。」
雪影は鼻で笑う。
「相変わらず甘い。」
「そうか。」
真人は表情を変えない。
白鞘が僅かに持ち上がる。
「俺だけで十分だ。」
その瞬間。
ゾクリ、と全員の背筋に悪寒が走った。
雪影は刀を抜く。
「総員。」
「五条真人を討ち取れ。」
「はっ!!」
一ノ瀬組の組員達が一斉に真人へ襲い掛かった。
だが。
次の瞬間だった。
白い鞘が静かに動く。
――キン。
乾いた音が、一度だけ響いた。




