第四十七話 「包囲」
学園祭最終日。
天女学院では、祭りの熱気が未だ冷めることなく、多くの来客と生徒達で賑わっていた。
誰も知らない。
この平穏が、あと僅かで終わりを迎えようとしていることを。
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その頃。
日本有数のヤクザ組織――五条会本家。
重厚な門構え。
長い石畳。
昼間とは思えないほど静まり返った屋敷を、無数の車がゆっくりと取り囲んでいく。
エンジンを切る音だけが静寂に響いた。
車の扉が開く。
次々と降り立つ一ノ瀬組の組員達。
刀を腰に差す者。
拳銃を懐へ忍ばせる者。
誰一人として無駄口は叩かない。
長年、この日のためだけに鍛えられてきた者達だった。
「東側、配置完了。」
「西側、異常なし。」
「裏門制圧完了。」
「逃走経路、全て封鎖しました。」
無線から次々と報告が流れる。
やがて。
一台の黒塗りの車の前で、その全てが止まった。
静かに後部座席の扉が開く。
一ノ瀬雪影がゆっくりと姿を現した。
黒い着物。
腰には一本の刀。
その鋭い眼差しは、真っ直ぐ五条会本家を見据えていた。
「……長かったな。」
誰に言うでもない呟き。
その視線の先にいるのは、一人だけ。
五条真人。
かつて五条の両翼とまで呼ばれた組。一ノ瀬組。
だが、その座に満足した日は一度もなかった。
「今日で終わりだ。」
雪影は静かに歩き出す。
組員達が左右へ道を開けた。
「組長。」
側近の一人が頭を下げる。
「各支部への襲撃部隊も、予定通り動いております。」
「ああ。」
「五条会は必ず対応に追われます。」
「本家の戦力も分散するかと。」
雪影は僅かに笑った。
「それでいい。」
「俺の目的は最初から一つだ。」
ゆっくりと屋敷を見上げる。
「五条真人。」
その名を口にした瞬間。
周囲の空気が張り詰めた。
「お前を越え。」
「一ノ瀬が頂点に立つ。」
静かな宣言だった。
だが、その声には長年積み重ねた執念が滲んでいた。
組員達は誰一人として口を開かない。
ただ黙って、組長の背中を見つめていた。
雪影は腰の刀へ手を添える。
「……始めるぞ。」
その一言で。
一ノ瀬組の組員達が、一斉に前へ踏み出した。
長年続いた主従関係。
その全てを断ち切る反乱が、今、幕を開けようとしていた。




