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第四十六話 「名を知る者」

学園祭最終日。


天女学院には、まだ多くの人が残っていた。


表向きは、いつもと変わらない祭りの時間。


しかし。


その裏では、少しずつ何かが動き始めていた。


⸻


「千夜さん」


呼ばれて、雪音は振り返る。


「どうされましたの?」


「さっきのお客様……知り合いなんですか?」


雪音は一瞬だけ固まる。


「……いいえ」


すぐに笑顔を作る。


「ただの卒業生の方ですわ」


嘘ではない。


だが。


あの男の存在は、どうしても頭から離れなかった。


黒髪。


蒼い瞳。


そして、周囲から向けられる特別な視線。


まるで。


この場所そのものが、あの男を覚えているようだった。


⸻


「月夜様!」


廊下を歩いていた真昼に、在校生が声を掛ける。


真昼は振り返る。


「まあ……皆さん、お元気そうで何よりですわ」


柔らかな笑顔。


学院で過ごしていた頃の顔。


月夜真昼。


母、昼花の旧姓を名乗っていた時の姿。


「また学院に来てくださって嬉しいです」


「ありがとうございますわ」


生徒達が離れていく。


その瞬間。


真昼の表情が戻る。


「……疲れるな」


「でも、嫌いではないでしょう?」


紫雲が微笑む。


「……ああ」


短い返事。


ここで過ごした時間は、偽物ではない。


⸻


少し離れた場所。


その様子を見ていた雪音。


「月夜真昼……」


その名前。


学院で伝説のように語られる存在。


しかし。


それだけではない。


父が何度も口にした名前。


「五条の毘沙門天」


「五条真昼」


雪音の脳裏で二つの名前が重なる。


「……」


まさか。


そんな偶然があるのか。


だが。


思い返せば、全て繋がる。


あの蒼い瞳。


あの立ち振る舞い。


そして。


隠しきれない圧倒的な存在感。


「あなたが……」


雪音は拳を握る。


「五条真昼……」


⸻


その時。


学院の外。


一ノ瀬組の車両が静かに動く。


「配置につきました」


連絡を受け、雪影は目を閉じる。


「そうか」


長年待ち続けた日。


五条会を超える日。


そして。


息子に証明させる日。


「始めろ」


静かな命令。


同時刻。


五条会本部にも異変が起き始めていた。


⸻


学院内。


真昼は突然、足を止める。


「……」


空気が変わった。


騒がしい学園祭の中。


誰にも気付けないほど僅かな変化。


しかし。


五条真昼だけは気付いた。


「真昼?」


紫雲が尋ねる。


「……何か起きている」


その言葉に、紫雲の表情が変わる。


そして。


少し離れた場所で。


雪音もまた同じ方向を見る。


白夜叉。


毘沙門天。


まだ互いの全てを知らない二人。


だが。


運命は、確実に二人を戦いの場所へ向かわせていた。

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