第四十五話 「白夜叉の名」
学園祭最終日。
天女学院には、まだ多くの人が残っていた。
普段は見ることのできないほどの賑わい。
生徒達の笑顔。
来客達の楽しそうな声。
その中を、五条真昼達は歩いていた。
「本当に変わらないですね」
紫雲が校舎を見上げる。
「昔と同じ空気がしますわ」
赤城も周囲を見渡す。
真昼は何も言わず、静かに学院を眺めていた。
ここは母、昼花が自分に残した場所。
自分が初めて、人として過ごした場所。
昔の自分なら理解できなかった。
だが今なら少し分かる。
母がなぜ、この場所を選んだのか。
「真昼、少しは楽しんだら?」
紫雲が笑う。
「……努力する」
その返事に、紫雲は少し驚いたように笑った。
昔なら、そんな言葉すら返さなかったから。
⸻
一方。
和風喫茶。
千夜雪音は片付けをしていた。
「千夜さん、本当に助かりました」
「いえ、当然のことをしたまでですわ」
いつもの笑顔。
いつものお嬢様言葉。
学院での自分。
千夜雪音。
しかし。
先ほど接客した客の姿が、頭から離れなかった。
黒髪。
蒼い瞳。
そして。
あの目。
「……」
雪音は胸元に手を当てる。
なぜか分からない。
だが、あの男を見た瞬間。
心の奥が騒いだ。
まるで。
ずっと探していた何かを見つけたような。
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「次はどこに行きます?」
乃亜が楽しそうに尋ねる。
「私は甘味がいいですわ」
「乃亜先輩は本当に変わりませんね」
茜が笑う。
その時。
真昼はふと足を止めた。
廊下の先。
白髪の少女がいる。
先ほど和風喫茶で接客をしていた少女。
千夜雪音。
「……」
なぜか気になった。
ただの生徒ではない。
立ち振る舞い。
視線。
隠している何か。
自分と似たものを感じる。
「真昼?」
紫雲が声を掛ける。
「いや……何でもない」
そう答える。
⸻
その頃。
雪音もまた、真昼を見る。
先ほどの客。
ただの卒業生ではない。
周囲の反応。
紫雲の態度。
そして。
あの圧倒的な存在感。
「……」
頭の中に、一つの名前が浮かぶ。
五条真昼。
幼い頃から聞かされ続けた名前。
「まさか……」
しかし。
まだ確信はない。
⸻
その時。
学院の外。
一台の車が止まる。
「予定通りだ」
一ノ瀬雪影が呟く。
学園祭。
多くの人間が集まる日。
五条会の中枢が薄くなる日。
全ては計画通り。
「行くぞ」
一ノ瀬組が動き出す。
祭りの裏側で。
静かに戦いの幕が上がろうとしていた。




