第四十三話 「異変」
天女学院。
文化祭は終盤を迎えていた。
校内にはまだ多くの生徒や来場者が残っている。
「楽しかったですね。」
五条紫雲が微笑む。
「久しぶりに来ましたが、やはりこの場所は落ち着きます。」
「そうだな。」
真昼は校舎を眺める。
ここは母・昼花が自分を託した場所。
ただ強さだけを求める存在ではなく、人として生きてほしいと願った場所。
「真昼。」
紫雲が優しく声を掛ける。
「少しは楽しめましたか?」
「……ああ。」
真昼は少しだけ笑った。
「悪くなかった。」
その言葉に、乃亜が驚く。
「え、真昼が素直に楽しかったって言った?」
「言ってない。」
「今言ったじゃん!」
「気のせいだ。」
「絶対言った!」
赤城が呆れたようにため息をつく。
「本当に昔から変わらないわね。」
茜はその様子を見て、小さく笑った。
⸻
その時。
真昼の携帯が震える。
再び。
父からだった。
「……。」
真昼は画面を見る。
今度は、すぐに出た。
「俺だ。」
『真昼。』
真人の声はいつも通り低い。
しかし。
わずかに違う。
「何があった。」
真昼が聞く。
『一ノ瀬組が本格的に動いた。』
その瞬間。
真昼の表情が変わる。
「……そうか。」
『まだ学院にいるな。』
「ああ。」
『なら、そのままいろ。』
「父さん。」
真昼の声が少し低くなる。
「俺に何もしなくていいと言うのか?」
沈黙。
そして。
『……昼花なら、そう言うだろうな。』
真人の言葉に、真昼は目を伏せる。
『お前はもう、昔のように刀だけを振るう人間ではない。』
『それを忘れるな。』
電話が切れる。
⸻
「真昼さん。」
紫雲が心配そうに見る。
「一ノ瀬組ですね。」
「ああ。」
真昼は頷く。
乃亜たちの表情も変わる。
「戦いになるの?」
乃亜が聞く。
「分からない。」
真昼は答える。
「だが……。」
窓の外を見る。
楽しそうに笑う生徒たち。
かつての自分にはなかった光景。
「守るべきものはある。」
紫雲は静かに真昼の隣へ立つ。
「なら、私も共にいます。」
「紫雲。」
「あなたが一人で背負う必要はありません。」
真昼は少し黙った。
そして。
小さく頷く。
「……ありがとう。」
⸻
その頃。
学院の外。
黒い車が一台、静かに停車した。
車内には一ノ瀬組の人間。
「確認しました。」
「五条真昼は学院内にいます。」
男は笑う。
「なら話は早い。」
「五条の毘沙門天を……。」
「ここで終わらせる。」
文化祭の終わり。
静かな学院に。
戦いの影が迫っていた。




