第四十二話 「開戦」
一ノ瀬組本部。
広間には幹部たちが整列していた。
誰一人として私語はない。
雪影は静かに立ち上がると、床の間に置かれた刀を手に取る。
鞘から数センチだけ刀身を覗かせる。
鈍く光る刃。
再び静かに納刀した。
「行くぞ。」
その一言だけだった。
「はっ!」
幹部たちは一斉に頭を下げる。
待ち続けた日。
一ノ瀬組が長年描いてきた計画が、今まさに始まろうとしていた。
⸻
同時刻。
五条会本部。
一人の若い組員が勢いよく襖を開けた。
「会長!」
「一ノ瀬組が動きました!」
部屋の空気が張り詰める。
五条真人は静かに目を開いた。
「……そうか。」
驚きはない。
まるで、この報告を待っていたかのようだった。
「各支部へ連絡。」
「迎え撃て。」
「ですが会長、一ノ瀬組は各地で同時に——」
「聞こえなかったか。」
真人の低い声に、組員は息を呑む。
「迎え撃て。」
「……はっ!」
組員は慌てて部屋を飛び出した。
真人はゆっくりと白鞘の刀を手に取る。
「昼花……。」
静かに呟く。
「どうやら、お前との約束を守るのは難しそうだ。」
その瞳には、覚悟だけが宿っていた。
⸻
天女学院。
文化祭は変わらず賑わっていた。
笑い声。
拍手。
子どもたちのはしゃぐ声。
誰も外で起き始めている出来事を知らない。
「雪音さん!」
輝夜が駆け寄る。
「次のお客様だよ!」
「はい。」
雪音は笑顔で頷く。
「いらっしゃいませ。」
その笑顔の裏で。
雪影の命令を受けた一ノ瀬組は、各地で五条会への襲撃を開始していた。
血で血を洗う戦いが始まる。
だが。
学院だけは、まだ静かな時間が流れていた。
嵐が訪れるまで、あとわずかだった。




