第四十一話 「一本の電話」
和風喫茶。
「ごちそうさまでした。」
紫雲が微笑みながら手を合わせる。
「とても美味しかったです。」
「本当に。」
茜も小さく頷く。
「在校生の皆さん、頑張っていますね。」
「私たちも三年の時は必死だったわね。」
赤城が懐かしそうに店内を見回す。
「赤城は厳しかったもんね~。」
乃亜が笑う。
「生徒会長なんだから当然よ。」
「真昼なんて何回注意されたっけ?」
「……覚えてない。」
「覚えてないじゃなくて、多すぎてでしょ?」
「否定はしない。」
五人は笑い合う。
その時だった。
――ブルルルッ。
静かな店内に、携帯電話の振動音が響く。
真昼は懐から携帯を取り出す。
画面に表示された名前を見た瞬間。
その表情が変わった。
『父』
「……。」
紫雲が真昼の様子に気付く。
「真昼さん?」
「少し外す。」
短くそう言い、真昼は席を立った。
⸻
人気のない廊下。
真昼は電話に出る。
「俺だ。」
『真昼。』
聞こえてきたのは、父・真人の低い声だった。
『今、どこにいる。』
「文化祭だ。」
『そうか。』
数秒の沈黙。
『今日は、そのまま学院にいろ。』
「……何かあったのか。」
『いや。』
真人は短く答える。
『念のためだ。』
「……分かった。」
電話は切れた。
真昼は携帯を見つめる。
(父さんが”念のため”なんて言葉を使う……。)
違和感だけが胸に残る。
⸻
「真昼さん。」
廊下へ出てきた紫雲が声を掛ける。
「お義父様でしたか?」
「ああ。」
「何かございましたか?」
「いや。」
真昼は首を横に振る。
「学院にいろ、と。」
「……そうですか。」
紫雲も少しだけ表情を曇らせる。
真人は、必要のないことを口にする人ではない。
だからこそ。
その一言が気になった。
「戻ろう。」
「あまり皆を待たせるのも悪い。」
「はい。」
二人は再び和風喫茶へ戻っていく。
その頃――。
一ノ瀬組本部。
雪影は静かに立ち上がった。
「時間だ。」
その一言だけだった。
幹部たちは黙って頭を下げる。
静寂の中。
一ノ瀬組が動き出した。




