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第三十六話 「過ぎていく日常」

文化祭準備が始まってから数日。


天女学院はいつも以上に活気に満ちていた。


「千夜さん、その飾り付けこっちで大丈夫?」


「はい。問題ありませんわ。」


雪音は手際よく作業を進める。


料理、裁縫、飾り付け。


何でも完璧にこなす雪音に、クラスメイトたちは感心していた。


「千夜さんって本当に何でもできるね。」


「羨ましいなぁ。」


雪音は微笑む。


「そんなことはありませんわ。」


だが。


それは本当の意味で謙遜ではなかった。


雪音にとって、できないことが許されなかっただけ。


幼い頃から。


強くなるため。


誰かに認めてもらうため。


ただ必死に努力してきた。


⸻


放課後。


女子寮。


「雪音さん。」


輝夜が部屋へ訪ねてくる。


「少しいい?」


「はい。」


「文化祭が終わったらさ。」


輝夜は少し照れながら笑う。


「またみんなで遊びに行こうよ。」


雪音は一瞬、言葉を失った。


「……。」


「雪音さん?」


「いえ。」


雪音は小さく笑う。


「楽しみですわ。」


その言葉は本心だった。


以前の雪音なら、そんな未来を考えることすらなかった。


⸻


その頃。


五条家。


「今年も天女学院の文化祭か。」


五条真人は招待状を眺めていた。


「真昼。」


「はい。」


「行ってこい。」


「……分かった。」


真昼は懐かしそうに笑う。


かつて自分が過ごした学院。


そこには今。


一人の後輩がいる。


まだ知らない。


その後輩が。


自分と刃を交えることになることを。


⸻


そして。


一ノ瀬組本部。


「報告します。」


幹部が頭を下げる。


雪影は静かに聞いていた。


「予定通り進めろ。」


「はい。」


それだけだった。


雪音には何も伝えない。


息子には。


最後まで学院での日常を過ごさせる。


それが雪影の考えだった。


⸻


夜。


雪音は部屋でバイオリンを弾く。


ヴィヴァルディ『四季』――冬。


静かな音色が響く。


学院で出会った人たち。


初めて感じる温かさ。


それを守りたいと思う気持ち。


しかし。


その日常が壊れる日は。


少しずつ近づいていた。

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