第三十二話 「父の命」
月曜日。
放課後。
「お嬢様。」
教室を出た雪音の前に、冥亜が恭しく一礼した。
「組長がお呼びです。」
雪音は小さく頷く。
「分かりました。」
その様子を見た輝夜が首を傾げる。
「雪音さん、その人は?」
「実家でお世話になっている方ですわ。」
雪音はいつもどおり穏やかに微笑む。
「少し家の用事がありますので、本日は失礼いたします。」
「そっか!」
「また明日ね!」
「ええ。また明日。」
雪音は一礼し、冥亜と共に学院を後にした。
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学院から離れた車内。
ドアが閉まる。
それと同時に、雪音は小さく息をついた。
「……父上が呼ぶなんて珍しいね。」
学院でのお嬢様口調は消え、本来の穏やかな口調に戻る。
「申し訳ありません、若頭。」
冥亜が頭を下げる。
「組長が至急戻るように、と。」
「そう。」
雪音は窓の外を眺めた。
「何かあったのかな。」
「詳しいことは私も聞かされておりません。」
車は静かに一ノ瀬組本部へ向かう。
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一ノ瀬組本部。
「若頭、お帰りなさいませ。」
組員たちが一斉に頭を下げる。
雪音は軽く頷き、組長室へ向かった。
「失礼します。」
「入れ。」
雪影の前には数名の幹部が集まっていた。
机の上には地図と資料が広げられている。
雪音は雪影の前へ座った。
「雪音。」
「はい。」
「準備は順調に進んでいる。」
雪影が静かに口を開く。
「各支部への連絡も終わり、兵の配置も進んでいる。」
雪音は黙って聞いていた。
「お前は学院へ通い続けろ。」
「今までどおり生活しろ。」
「僕は動かなくていいの?」
雪影は頷く。
「まだだ。」
「その時が来れば、お前には最も重要な役目を任せる。」
雪音はゆっくり頭を下げた。
「分かった。」
「父上の命令に従うよ。」
「それでいい。」
雪影は静かに目を閉じた。
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帰りの車内。
「若頭。」
冥亜が静かに口を開く。
「組長は、本当に決起なさるおつもりなのでしょうか。」
雪音はしばらく黙っていた。
「……分からない。」
「でも。」
「父上が決めたことなら、僕は従う。」
その言葉を口にしながらも。
雪音の胸には、小さな迷いが芽生え始めていた。
学院で過ごす穏やかな毎日。
父が目指す一ノ瀬の未来。
その二つが交わる日は、確実に近づいていた。




