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第三十一話 「揺れる心」

日曜日。


朝。


女子寮のロビー。


「雪音さん、お待たせ!」


輝夜が明るく手を振る。


「お待たせしました。」


今日は約束していた水族館へ出掛ける日だった。


美羽と皐月も合流し、四人は電車へ乗り込む。


⸻


水族館。


「すごーい!」


輝夜が大きな水槽へ駆け寄る。


無数の魚がゆったりと泳いでいた。


「綺麗ですね……。」


美羽も見入っている。


雪音も静かに水槽を眺めた。


「雪音さん?」


「何か考え事?」


輝夜が隣に立つ。


「いえ。」


「ただ……。」


雪音は泳ぐ魚を見つめたまま呟く。


「自由というものは、どんな気持ちなのでしょう。」


その一言に。


輝夜は少しだけ表情を変えた。


「雪音さんって。」


「時々、すごく寂しそうなこと言うよね。」


「……。」


雪音は答えられなかった。


⸻


昼食。


四人でテーブルを囲む。


「はい、雪音さん!」


輝夜が自分のデザートを差し出す。


「一口あげる!」


「え?」


「美味しいよ!」


雪音は少し戸惑いながら口にする。


「……甘いですね。」


「でしょ!」


四人は笑い合う。


そんな時間を。


雪音はどこか不思議に感じていた。


(こんな時間を過ごしたことは……。)


(今まで一度もありませんでした。)


⸻


その頃。


一ノ瀬組本部。


「組長。」


「若頭は学院の方々と外出されております。」


雪影は静かに報告を聞く。


「そうか。」


怒ることもなく。


笑うこともない。


「好きにさせておけ。」


「今は、まだな。」


その「まだ」の意味を知る者はいなかった。


⸻


夕方。


帰り道。


「今日は楽しかった!」


「また行こうね!」


輝夜が笑う。


「はい。」


雪音も自然と笑みを浮かべる。


その姿を見て。


美羽は小さく微笑んだ。


「雪音さん、最初の頃より本当によく笑うようになりましたね。」


「そうでしょうか。」


「うん!」


輝夜が即答する。


「今の雪音さんの方が好き!」


その言葉に。


雪音の胸が少しだけ温かくなった。


しかし同時に。


父の言葉が脳裏をよぎる。


『友人など必要ない。』


雪音は空を見上げる。


学院で得た大切なもの。


そして。


父から託された使命。


その二つが、少しずつ雪音の心を揺らし始めていた。

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