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第三十話 「それぞれの思惑」

六月。


梅雨入りを迎えた天女学院。


朝から雨が降り続いていた。


「おはよう、雪音さん!」


昇降口で輝夜が傘を畳みながら駆け寄ってくる。


「おはようございます。」


「雨、嫌だねぇ。」


「ですが、私は嫌いではありません。」


「え?」


「雨音を聞いていると、落ち着きますので。」


「雪音さんらしいなぁ。」


輝夜は苦笑しながら笑った。


⸻


昼休み。


教室。


「雪音さん、今度の日曜日って暇?」


「どうされましたか?」


「みんなで水族館に行かない?」


「美羽ちゃんも皐月さんも誘ってさ!」


雪音は少し考え、微笑む。


「予定を確認してみます。」


「やった!」


その笑顔を見ながら、雪音は心のどこかで思っていた。


(行けるでしょうか……。)


⸻


同じ頃。


一ノ瀬組本部。


「組長。」


幹部が頭を下げる。


「各支部への連絡は完了しました。」


「予定どおり兵を集められます。」


雪影は静かに頷く。


「まだ動くな。」


「時が来るまで、誰にも気付かれるな。」


「はっ。」


幹部が部屋を出る。


部屋には雪影だけが残った。


「五条……。」


「その座は、私がもらう。」


静かな言葉だった。


しかし、その瞳には長年積み重ねた野心が宿っていた。


⸻


一方――。


漢江会。


一輝は窓の外を眺めていた。


「親父。」


「まだ生きてるか。」


興味のないような口調で呟く。


部下が近づく。


「一ノ瀬組は兵を集め始めています。」


「そうか。」


一輝は笑う。


「面白くなってきた。」


「なら俺たちも準備だけはしておくか。」


「だが。」


一輝は部下を見た。


「今は何もするな。」


「俺が欲しいのは縄張りじゃない。」


「五条真昼との殺し合いだ。」


部下は静かに頭を下げた。


⸻


夜。


女子寮。


雪音は窓際に立ち、雨を眺めていた。


学院で過ごす穏やかな毎日。


一方で、父は着実に反乱の準備を進めている。


そのことを雪音は知らない。


知っているのは、父が「五条を超える」と口にしたことだけ。


雨音だけが静かに響く部屋で、雪音は目を閉じた。


嵐が訪れる日は、まだ少し先だった。

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