第二十八話 「一ノ瀬の影」
数日後。
天女学院。
昼休み。
「最近、雪音さん忙しそうだね。」
輝夜が弁当を食べながら言った。
「そうでしょうか。」
「うん。」
「放課後すぐ帰る日が増えたし。」
雪音は少し黙る。
「家の用事です。」
「そうなんだ。」
輝夜はそれ以上聞かなかった。
雪音が話したくないことを無理に聞かない。
それが、少しずつ築いてきた関係だった。
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放課後。
雪音は一ノ瀬組本部へ向かっていた。
「若頭。」
組員が頭を下げる。
「報告があります。」
雪音は足を止める。
「先日の港の件ですが。」
「敵対組織の背後に、別の動きがあります。」
雪音は眉を僅かに動かす。
「別の動き?」
「はい。」
「単なる護衛対象への襲撃ではありませんでした。」
「目的は……若頭の確認だった可能性があります。」
雪音は黙って考える。
自分が狙われた。
つまり。
『白夜叉』の存在を探っている者がいる。
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組長室。
「父上。」
雪影は書類から顔を上げる。
「聞いたか。」
「はい。」
「敵は動き始めた。」
雪影は窓の外を見る。
「五条は今、表向きは何も変わっていない。」
「だが。」
「いつまでも頂点にいるつもりなら間違いだ。」
雪音は静かに聞いていた。
「一ノ瀬は五条の両翼と呼ばれてきた。」
「しかし。」
雪影は拳を握る。
「いつまでも下にいる理由はない。」
「……。」
「雪音。」
「お前には、そのための力を与えてきた。」
雪音は目を伏せる。
「承知しております。」
「必ず、一ノ瀬の名を頂点へ。」
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その夜。
雪音は一人、部屋でバイオリンを弾いていた。
ヴィヴァルディ『四季』。
冬。
冷たい旋律が部屋に響く。
だが。
演奏を終えた後。
雪音は窓の外を見る。
学院で笑う輝夜。
ピアノを弾く美羽。
声を掛けてくれる皐月。
そして。
父から与えられた使命。
「……。」
自分は何のために強くなるのか。
一瞬だけ、そんな疑問が浮かぶ。
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翌日。
一ノ瀬組へ一つの報告が届く。
「組長。」
「天女学院周辺で、不審な者を確認しました。」
雪影は静かに目を細める。
「そうか。」
「ならば、こちらも動く時期かもしれんな。」
その言葉を。
雪音はまだ知らなかった。
一ノ瀬の野望が。
少しずつ学院へ近づいていることを。




