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第二十六話 「残された影」

月曜日。


放課後。


「雪音さん。」


帰ろうとしていた雪音を、宮里蘭が呼び止めた。


「理事長がお呼びですよ。」


「承知いたしました。」


雪音は一礼し、理事長室へ向かった。


⸻


「失礼いたします。」


「どうぞ。」


春野薫は穏やかな笑みを浮かべていた。


「突然呼び出してごめんなさいね。」


「いえ。」


「実はね、来月のオープンスクールで在校生代表のお手伝いをお願いしたいの。」


「私が、ですか?」


「ええ。」


「礼儀正しいし、成績も優秀。それに寮生活でも評判がいいと聞いているわ。」


雪音は少し考えたあと、小さく頭を下げた。


「私でよろしければ、お引き受けいたします。」


「ありがとう。」


薫は嬉しそうに微笑んだ。


⸻


夕方。


女子寮へ戻る途中。


「雪音さん!」


輝夜と美羽が待っていた。


「理事長室って何だったの?」


「来月のオープンスクールのお手伝いを頼まれました。」


「えぇ!?すごい!」


輝夜は目を輝かせる。


「やっぱり雪音さんって頼りになるんだね!」


雪音は照れたように微笑んだ。


「期待に応えられるよう努めます。」


「応援してる!」


⸻


その頃――。


一ノ瀬組本部。


「組長。」


部下が静かに頭を下げる。


「先日の襲撃ですが……。」


「一人だけ逃走しております。」


雪影は表情を変えない。


「顔は見られたか。」


「暗闇でしたので断定はできません。」


「ですが、『白い髪の女』がいたと証言しております。」


「……そうか。」


雪影は静かに立ち上がる。


「放っておけ。」


「若頭の正体に辿り着けるほど、相手も愚かではあるまい。」


「はっ。」


部下は部屋を後にした。


しかし。


雪影は窓の外を眺めながら、小さく呟く。


「もし辿り着く者が現れたなら……。」


「その時は消すだけだ。」


⸻


夜。


女子寮。


雪音はバイオリンを静かに弾いていた。


ヴィヴァルディ『四季』――冬。


澄んだ音色が部屋に響く。


だが、その演奏とは対照的に、雪音の脳裏には倉庫街での出来事が浮かんでいた。


(あの男は逃げた……。)


(次は、どう動くのでしょう。)


その時だった。


コンコン。


扉がノックされる。


「雪音さん?」


輝夜の声だった。


雪音はすぐに表情を戻す。


「はい。今、開けます。」


学院では”千夜雪音”。


一歩外へ出れば、一ノ瀬組若頭”白夜叉”。


二つの世界はまだ交わらない。


だが、その境界は少しずつ揺らぎ始めていた。

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