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第二十五話 「白夜叉」

夜。


港の倉庫街。


「やれッ!!」


敵対組織の男たちが一斉に雪音へ襲い掛かった。


雪音は静かに腰の刀へ手を添える。


――カチャッ。


桜色の刀が静かに鞘から抜かれた。


「……。」


最初の男が振り下ろした刃を、紙一重でかわす。


そのまま刀の腹で手首を打ち抜く。


「ぐぁっ!」


男が刃物を落とす。


間髪入れず、二人目。


雪音は身体を低く沈め、一歩踏み込む。


鞘で男の脇腹を打ち、勢いのまま足を払う。


男は地面へ倒れ込んだ。


「くっ……!」


残る男たちが距離を取る。


「若頭!」


背後では護衛対象の男が青ざめていた。


「ご安心ください。」


雪音は前を向いたまま答える。


「必ずお守りいたします。」


その一言だけで、男は大きく頷いた。


「囲め!」


リーダー格の号令で、十人近い男たちが雪音を包囲する。


雪音は目を閉じ、小さく息を吐いた。


「……。」


次の瞬間。


姿が消えた。


「なっ――」


気付いた時には、男の背後に立っていた。


峰打ち。


一撃。


二撃。


三撃。


一人、また一人と倒れていく。


「ば、化け物……!」


誰かが震えた声で呟く。


「こいつが……!」


「『白夜叉』か……!」


その異名を耳にしても、雪音の表情は変わらない。


ただ淡々と刀を振るう。


数分後。


最後の一人が地面へ倒れた。


雪音は静かに刀を納める。


「終わりました。」


護衛対象の男は震えながら頭を下げた。


「ありがとうございました……!」


「礼には及びません。」


「これが私の仕事です。」


⸻


一ノ瀬組本部。


「護衛任務、完了いたしました。」


雪音は雪影へ報告する。


「敵は?」


「全員、戦闘不能です。」


「そうか。」


雪影は短く答える。


「よくやった。」


褒め言葉は、それだけだった。


「ありがとうございます。」


雪音は深く頭を下げる。


「下がれ。」


「失礼いたします。」


部屋を出る雪音。


その背中を見送りながら、雪影は静かに呟く。


「……まだ甘い。」


「だが、その甘さがどう変わるか。」


「見ものだ。」


⸻


月曜日。


「雪音さん!」


いつものように輝夜が笑顔で駆け寄ってくる。


「おはよう!」


「おはようございます。」


その笑顔を見た雪音も、小さく微笑んだ。


二日前まで刀を振るっていた人物と、同じ人間だとは誰も思わない。


学院では優雅なお嬢様。


裏では、一ノ瀬組最強の若頭『白夜叉』。


二つの顔を持つ雪音の物語は、少しずつ動き始めていた。

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