第二十一話 「父からの呼び出し」
金曜日。
放課後。
「雪音さん、また明日ね!」
「はい。また明日。」
輝夜、美羽と別れた雪音は、一人で女子寮へ戻っていた。
すると、部屋の前で十六夜冥亜が待っていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
「冥亜。」
学院では人目を避けるため、冥亜も「お嬢様」と呼んでいる。
「どうかしましたか?」
冥亜の表情はいつになく真剣だった。
「組長がお呼びです。」
「……父上が。」
「はい。」
「今夜、お屋敷へ戻るようにと。」
雪音は静かに目を閉じた。
「分かりました。」
⸻
夜。
一ノ瀬組本部。
学院とはまるで別世界。
重苦しい空気が流れる屋敷の廊下を、雪音は静かに歩く。
襖の前で足を止めた。
「雪音です。」
「入れ。」
低い声が返ってくる。
雪音は襖を開けた。
部屋の奥には、一ノ瀬雪影が座っていた。
「久しぶりですね、父上。」
「学院生活はどうだ。」
「問題ありません。」
「そうか。」
短いやり取り。
雪影は雪音を見据える。
「学院へ行かせた理由は覚えているな。」
「……はい。」
「答えろ。」
「強くなるためです。」
「違う。」
雪影の声が鋭くなる。
「五条を超えるためだ。」
雪音は静かに頭を下げた。
「はい。」
「そのために、お前を天女学院へ入れた。」
「そこで何を学び、何を得ようと構わん。」
「だが。」
雪影の目が細くなる。
「学院ごっこをするためではない。」
部屋の空気がさらに重くなる。
「報告では随分楽しそうじゃないか。」
「友人と買い物。」
「料理。」
「休日のお出掛け。」
「……。」
雪音は何も言えない。
雪影は立ち上がる。
「勘違いするな。」
「お前に友人など必要ない。」
「必要なのは力だけだ。」
その言葉は、雪音の胸に深く突き刺さった。
⸻
帰り道。
車の窓から夜景を眺める雪音。
隣には冥亜が座っている。
「お嬢様。」
「……。」
「無理はなさらないでください。」
雪音は小さく笑った。
「私は大丈夫です。」
「昔から、そう言いますね。」
冥亜は少し寂しそうだった。
「本当に大丈夫な人は、そんな顔をしません。」
雪音は窓の外へ視線を戻す。
学院での日々。
父の命令。
どちらも、自分にとっては本物だった。
だからこそ。
雪音の心は、少しずつ揺れ始めていた。




