第二話 「寮生活」
放課後。
入学式を終えた雪音は、荷物を持って女子寮へ向かっていた。
「ここが……」
天女学院の女子寮。
三年間を過ごす場所だ。
雪音は静かに玄関をくぐる。
「失礼いたします。」
靴を脱ぎ、受付へ向かう。
「今日から入寮する千夜雪音と申します。」
寮母は優しく微笑んだ。
「お待ちしていました。お部屋はこちらですよ。」
雪音は一礼する。
「ありがとうございます。」
⸻
部屋の前。
「ここですね。」
扉を開ける。
綺麗に掃除された個室。
机。
本棚。
ベッド。
必要な物は一通り揃っている。
雪音は無駄のない動きで荷物を整理し始めた。
十分もしないうちに部屋は片付く。
「終わりました。」
その時だった。
コンコン。
扉がノックされる。
「雪音さん!」
聞き覚えのある声。
扉を開けると、西ノ宮輝夜が立っていた。
「やっぱり隣の部屋だった!」
「そうだったのですね。」
「よかったぁ!」
輝夜は嬉しそうに笑う。
「寮を案内するね!」
「ありがとうございます。」
⸻
廊下を歩く二人。
「ここがお風呂!」
「食堂は一階!」
「門限は九時だから気を付けてね!」
輝夜は楽しそうに説明する。
雪音は一つひとつ頷いた。
「覚えました。」
「早っ!」
思わず輝夜が笑う。
「まだ全部見てないよ?」
「十分です。」
「えぇ……。」
苦笑する輝夜。
その時。
「輝夜先輩。」
後ろから小さな声がした。
振り返ると、小柄な少女が立っている。
「こんにちは。」
「美羽ちゃん!」
輝夜が手を振る。
「紹介するね。」
「一年生の天海美羽ちゃん。」
美羽は雪音へ頭を下げる。
「初めまして。」
「天海美羽です。」
雪音も丁寧に一礼した。
「千夜雪音と申します。」
「よろしくお願いいたします。」
美羽は少し安心したように笑う。
「綺麗な方ですね。」
「ありがとうございます。」
短いやり取り。
その雰囲気に輝夜は微笑んだ。
「二人とも話し方が落ち着いてるね。」
⸻
夕方。
食堂。
多くの寮生が食事をしていた。
雪音は静かに席へ座る。
「いただきます。」
その所作は美しかった。
「すごい……。」
輝夜が見惚れる。
「どうかされましたか?」
「食べ方がお嬢様そのもの。」
雪音は少しだけ困ったように笑う。
「幼い頃から教わりましたので。」
その言葉に嘘はない。
食事作法。
礼儀。
家事。
戦い。
雪音は幼い頃から全て叩き込まれてきた。
だからこそ。
「美味しい!」
と笑う輝夜を見ていると。
少しだけ羨ましいと思った。
⸻
夜。
自室。
荷物の整理を終えた雪音は、静かにバイオリンケースを開く。
愛用の一本を取り出す。
窓を少しだけ開ける。
そして奏でる。
ヴィヴァルディ。
『四季』――冬。
澄んだ音色が夜の寮へ流れていく。
廊下を歩いていた輝夜は足を止めた。
「……綺麗。」
その音色は。
どこか寂しそうだった。
雪音は目を閉じたまま弾き続ける。
胸の奥にある孤独を。
誰にも知られないように。
静かに音へ乗せながら。




