第十四話 「休日の料理」
土曜日。
午前十時。
女子寮の共同キッチン。
「雪音さん!」
エプロン姿の輝夜が元気よく手を振る。
「今日はよろしくね!」
「はい。」
雪音もエプロンを身につけ、微笑んだ。
今日は以前約束した料理を教える日だった。
「まずは包丁の持ち方からですね。」
「う、うん!」
輝夜はぎこちなく包丁を握る。
雪音は隣に立ち、優しく教え始めた。
「力を入れすぎないように。」
「猫の手を意識してください。」
「こ、こう?」
「はい。そのままで大丈夫です。」
少しずつ野菜を切っていく輝夜。
形は少し不揃いだったが、一生懸命だった。
「できた!」
嬉しそうな笑顔を見て、雪音も自然と微笑む。
「お上手です。」
「本当?」
「はい。」
「やった!」
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その頃。
「失礼します……。」
共同キッチンに美羽がやって来た。
「あっ、美羽ちゃん!」
「こんにちは。」
「こんにちは、美羽さん。」
美羽は二人の手元を見て微笑む。
「お料理ですか?」
「うん!」
「雪音先生に教えてもらってる!」
「先生ではありません。」
雪音は少し困ったように笑う。
その様子を見て、美羽も小さく笑った。
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一時間後。
料理が完成する。
「いただきます!」
三人はテーブルを囲んだ。
「……おいしい!」
輝夜が目を輝かせる。
「今までで一番上手にできた!」
「西ノ宮さんが頑張った結果です。」
雪音は素直にそう答えた。
「えへへ。」
褒められた輝夜は照れくさそうに笑う。
美羽も料理を口に運ぶ。
「本当に美味しいです。」
「また教えてください。」
「もちろんです。」
雪音は静かに頷いた。
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食後。
共同キッチンの片付けを終え、三人は寮のラウンジで休憩していた。
「雪音さん。」
輝夜が温かいお茶を飲みながら尋ねる。
「学院へ来て、一番楽しかったことって何?」
突然の質問だった。
雪音は少し考える。
「……まだ分かりません。」
「ですが。」
「皆様とこうして過ごす時間は、嫌いではありません。」
その言葉に。
輝夜と美羽は顔を見合わせる。
そして同時に笑った。
「それならよかった!」
雪音は二人の笑顔を見て、小さく微笑んだ。
その笑顔は。
入学した頃より、ずっと自然なものになっていた。
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夜。
自室。
雪音は机の上に置かれたバイオリンケースへ視線を向ける。
「……。」
学院での日々は穏やかだった。
だからこそ。
時折、不安になる。
(このままで、本当にいいのでしょうか。)
父の命令。
自分の使命。
それらを忘れかけている自分がいる。
雪音は静かに目を閉じた。
まだ知らない。
この穏やかな日々が、長くは続かないことを。




