第十話 「音色」
月曜日。
放課後。
授業を終えた雪音は、静かに教室を後にした。
「雪音さん!」
後ろから輝夜が駆け寄る。
「今日はもう寮に帰るの?」
「はい。その予定です。」
「そっか。」
輝夜は少し考えたあと、笑顔で言った。
「ねえ、その前に音楽室に行かない?」
「音楽室、ですか?」
「美羽ちゃんがピアノの練習してるんだって。」
「聴きに行こうよ!」
雪音は頷いた。
「分かりました。」
⸻
音楽室。
中から優しいピアノの音色が聞こえてくる。
そっと扉を開けると、美羽がグランドピアノに向かっていた。
演奏が終わり、美羽が二人に気付く。
「あっ、輝夜先輩、雪音さん。」
「練習中に失礼しました。」
雪音が頭を下げる。
「いえ、大丈夫です。」
美羽は微笑んだ。
「少し文化祭に向けて練習していて……。」
「文化祭?」
雪音が首を傾げる。
「はい。」
輝夜が説明する。
「毎年、秋にある学院の行事だよ。」
「音楽発表もあるんだ。」
雪音は静かに頷いた。
「そうなのですね。」
⸻
「雪音さんも弾いてみませんか?」
美羽が尋ねる。
雪音は少し迷った。
「……少しだけ。」
ケースから愛用のバイオリンを取り出す。
静かに構える。
演奏が始まる。
ヴィヴァルディ。
『四季』――冬。
音楽室が澄んだ音色に包まれる。
演奏が終わると、部屋は静まり返っていた。
「……すごい。」
輝夜が思わず呟く。
美羽も感動した様子で拍手を送る。
「本当に綺麗です。」
雪音は照れたように目を伏せた。
「ありがとうございます。」
⸻
寮へ帰る道。
「雪音さん。」
輝夜が笑う。
「文化祭、一緒に楽しもうね。」
「はい。」
雪音は穏やかに答えた。
その時はまだ。
この学院祭が、自分の運命を大きく変えることになるとは思ってもいなかった。




