33:現在地の正体
シュンスイの話を聞いていく内に、あることを思い出した。ケントが日本からこの場所に来た以上、私たち以外にも過去に日本人が訪れていたことになるからそれについて尋ねようと思ってたんだった。ひょっとするとこの世界から日本に戻れる方法を聞き出せるかもしれないから。
「あの、もう一つ聞きたいことがあるんですがよろしいでしょうか…?」そう尋ねると、シュンスイはいいよと言ってくれた。
「私、どうにかして日本に戻りたいのですが戻る方法ってありますか?」
シュンスイは質問を聞いて少し目線を上にずらしたのち、難しそうな顔をした。もしかして、知らないパターン?
「悪いけど、そこまで知らないんだ。じいちゃんも、二ホンから来たとだけ言っててどうやってここに来たのかまでは考えたこと無かったんだよな」
「じゃあ、私はどうすれば…」
私はこのままずっとこの世界に暮らすことになるの?遺跡のせいでここに飛ばされたことを言おうとしたが、恐らくシュンスイは遺跡のことを聞いても知らないとまた言いそうな気がするからやめた。
それにしてもあの遺跡、別の世界の入り口だったりするのだろうか。でも、自然とか空の感じとかは地球と全く変わらないんだよね。もしかして、遥か遠くの未来にタイムスリップしちゃったのかな…
しばらく部屋に沈黙が流れていたが、シュンスイはその沈黙を破るように軽く溜息を吐くとちょっといいか、と一声かけた。「提案がある」
「この世界にはカルナト以外にもいくつか国があるんだ。もしかしたら、二ホンに戻る方法が他の国で見つかるかもしれない。国家主席の俺が言うのもあれだが外国のことは表面的なことしか知らないからな」
シュンスイは自虐を交えながらそう提案した。そして続けざまに机の上に地図のようなものを広げると、ある箇所に指を差した。
「かなり古い地図で悪いがこれを見てくれ。まず、ここがカルナトだ」
「え?」
その地図を見た途端、私の常識が崩壊した。カルナトは未来の世界にある国だと思っていたがそんなことはなかった。
確信した。この世界は地球じゃない。今思い返すと、太陽らしき星から降り注いでいた光はオレンジ色っぽいし何かおかしいと思ったんだよね。やっぱり違う世界に飛ばされたんだ…
地図には全く馴染みのない地形が広がっている。大小五つの大陸が広がっているのは地球と一緒だが、その形状は似ても似つかない。
さらに、大陸に囲まれた海域には島が集まるようにして点在しているのが奇妙だった。一際目を引くのは北側(多分)に広がっている巨大な大陸だった。面積どれぐらいあるんだろう?
地図には地名を記しているのであろう文字が書かれているが、その文字は見たことがないやつで当然読めず、今どこにいるのかも分からない。しかも、よく見ると雪原地帯や荒野、渓流、火山島など細かく描かれていた。なんか、ゲームのマップでありそう。
カルナトは地図上だと北側の巨大大陸の、北北東あたりの森林と山と隣接した平原地帯であることが分かった。
地図を眺め続けていると、急におーい、と声をかけられた。
「続けていいか?」シュンスイは、私の反応に困っていたのか説明のタイミングをうかがってきた。私は慌ててお願いします、と頼んだ。
「この地図は王政時代に描かれたものらしくてな、正確性は落ちてるが一番頼りになるのはこれだ。さっきも言ったようにカルナトはここにある。ちなみにこの大陸はドロメウス大陸って言って、隣国のファーズ公国から大陸横断鉄道が走っている。3日後にカルナトを経由するからそれに乗っていくといい」
ドロメウスにファーズ、どれも初めて聞く地名だ…
「教えてくださりありがとうございます」
列車走ってるんだ!でも列車が来るまでは2日間ここで過ごさなきゃいけないのね……
「それまでどうしたらいいですか?」とりあえず聞いてみた。
「住まいと生活費はこっちが出しとくよ。列車が到着するまでにここの連中が迎えに来るだろうから心配すんな。あと、切符もちゃんと用意しとく」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
お金とか全部援助してくれるとか控えめに言ってこの国最高じゃん!レクターが言ったように誰も取り残さない社会って伊達じゃないんだ。
「こっちからも一個聞きたいんだけど、ユイカってエヴォルバーか?」シュンスイはふと何か思い出した様子で聞いてきた。
「……はい。何かあるのですか?」急に聞かれたけどどうしたんだろう?
「それなら、ランジュ連邦って国では降りない方がいいぜ」
「どうしてですか?」
「あそこは天界因子を色々研究してるんだ。噂によれば人体実験も躊躇なくやってるらしい。特にエヴォルバーは狙われやすそうな気がしたから一応忠告しといた」シュンスイはさらっと物騒なことを言った。
「そうなんですね。でしたらどこで降りるべきでしょうか?」
「うーん、ランジュ連邦以外の国なら大丈夫だと思う。…お前の直感次第だな」
とにかく、ランジュ連邦ってところで降りない方がいいのは分かった。日本に戻るための手がかりは、今のところ列車に乗ってみるしかないみたい。
私が地図から顔を遠ざけると、シュンスイはその地図をそっと回収して引き出しの中にしまいこんだ。
「ユイカ、他に聞きたいことはない?」彼にそう聞かれたが気になることは今のところなかったので、大丈夫です、と返事した。
「そっか。じゃあそろそろ面談はここで終わりにしようか。正直、別世界の人間と話せて楽しかったぜ」
「それなら良かったです。色々教えていただき助かりましたので」
面談が終わるとシュンスイは扉へと向かい、終わったから入って来ていいぜーと言ったのち、レクターと側近たちが部屋に戻ってきた。
「来てくれてありがとうな。残り3日間楽しんでくれ」
「こちらこそ、お話できて光栄です。今日はありがとうございました」
正直、シュンスイよりも側近たちがいるという状況の方が緊張する。なるべく丁寧に返事して頭を下げておいた。
「…それでは戻りましょうか」隣にやってきたレクターはそっと声をかけた。そしてシュンスイに頭を下げると、私を連れて部屋から出た。
宮殿の通路を再び歩いているが、国家主席であるシュンスイとさっきまで話していたためか最初と比べて緊張感が全く感じない。私とレクターは無言のまま車に乗り込んだ。車の窓から振り返って外を眺めると宮殿が次第に遠ざかっていく。
「あの、どこへ向かうんですか?」
「とりあえず、ユイカさんが泊まったホテルに戻ります。それと、主席との面談はどうでしたか?」
「最初は緊張しましたよ。でも、話してみるとかなり気さくな方で安心してお話できました」
それなら良かったです、とだけレクターは言うと、これ以上深堀りしてこなかった。個人的な話題だと思ってるのか分からないけど遠慮してくれてるのかな?
しばらくして、私が泊まったホテルに到着した。
「お疲れ様でした。今日もここでお休みください。また政府から伝令が来ると思うのでその都度参ります。何か困ったことがあれば助けになりますのですぐにお知らせください」
「ありがとうございます!」
車に乗って仕事に戻るレクターを見届けると、ホテルの部屋に戻って休むことにした。
列車が来るのを待つまでこのまま何もしないのはもったいない気がする。正直、ちょっと観光したくなってきたなあ。




