↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/15

秋の日はつるべ落とし



「にゃーこ」

「……俺はにゃーこじゃない」


危機に立っていた。


小さな少女がつぶらな瞳でこっちをじいっと見て来る。

口をとがらせて、頬を膨らませる。

最近馴れて来たのか、(ねこ)を持つ手はしっかりしている。

ただ、俺の落下地点に水たまりがあるのはなぜなのだろう。いやがらせか。

「じゃあ、なんてよべばいいの?」

「……別に、好きなように」

「なら、にゃーこ」

「それは無しで」

「やあああっ」

毎回毎回、自分をにゃーこなんて呼んで来るセリスは、どうしてもそう呼びたいらしい。

「どーしてにゃーこはダメなの?」

「なんとなく嫌だからだ」

「むううっ」

ぷっくりと膨れ上がった頬は、突けば破裂しそうだ。

セリスはどうしてもにゃーこと呼びたいらしい。

「だいたい、俺はねこじゃねぇ」

「にゃーこじゃないの?」

「魔族だ」

「あぞく?」

「まぞく……」

ダメだこりゃ。

舌足らずな発音で、セリスは聞き返して来る。

「あぞく?」

「まだ、『ま』」

「あ?」

なんとなく、『ま』に聞こえるような聞こえないような……。

微妙だ。

「とにかく、にゃーこはダメだ」

「ううぅ」

そんな、言葉とも言えない唸り声を出しながら、セリスは地面に俺を落すと走って行ってしまう。

どこに行くのだか。でもって、水たまりにダイブする事になった俺を少しは気にしてくれ……。

とてとてと、まだまだ頼りなく、いつ転ぶのかと気が気じゃない。

はらはらと見守っていると、自然と真剣になってセリスを見ていた。

……いつの間にやら心配症になってしまった自分に苦笑しながら、彼女の後を追った。


「ままー、にゃーこがにゃーこ、やー。だって」

「あら、にゃーこって呼ばれたくないって言ったの?」

「うん!」

主語述語があるようなないような言葉がなんですぐに解るのだろう。

セリスとセシリアの会話を聞きながら、そう思う。

「じゃあ、ナナシで」

「やーっ」

「なら、どんな名前にしようか?」

「えっと、あかちゃん?」

「ダメだ! 赤いからってそれだけはダメだ!」

静かに聞くだけにしようと思っていたのに、思わず叫んでいた。

さすがにそれはない。

「えーっ。なんで?」

「ダメだからだっ!」

「なんで、なんでっ?」

「ダメったらダメ!」

まるで子どもの言い争いだ。なんてセシリアに微笑ましそうに見られていることなど気づかず、ひたすら否定する。

「むぅ、じゃあなにがいいのよ」

最近、妙に大人っぽい言葉を使いたがるセリスは、腕を組んで口をとがらせて聞いて来た。

「いや、だから……」

助けを求めてセシリアを見ると、何を思いついたのか彼女は愉しそうに口を開く。

「なら、会議を開きましょう」

「は?」




「第三十八回、ソルディア家家族会議を開きたいと思います」

何やら拳をつけて力説するようにセシリアが宣言する。

それにやんややんやとあいの手を入れるのは、セリスだ。

侍女やら庭師やら屋敷に居る者すべてが広間に呼ばれたと思った途端に、これ。

しかも、たまたま遊びに来たスピレルだかスッピーだか知らんがちっちゃいのも参加。

どうしたっていうんだ。

しかも、三十八回もやったことがあるのかよっ。

「と、当主! 一体何事ですか!」

そう言ったのは、つい先日説教をしてきた庭師のジャリスだ。

あのゲンコツは痛かった……。

その横の弟子もその威力に怯えていたし。

「それがね。最近思い出したのだけれど、この子の名前、無いのよ。なんて呼べばいいのか、決めようと思って」

「いたずら小僧」

「却下。小僧じゃねーしっ! 俺、見た目に関わらず、結構生きてるし!」

半眼のジャリスは、どうやらこの前、庭の木を燃やしかけた事に対して根に持っているらしい。

「えっと、赤猫さん?」

「そのままね。もうちょっとこう、人間らしい名前で」

執事の言葉にセシリアが首を振る。

もう、赤猫でもなんでもいいから、早くこの会議終わって欲しい。

セリスが船をこいで、スッピーが暇すぎてセリスに悪戯をしようとしてミツヤに口に出すのもはばかれるようなことをされている。

見ていて哀れだ。

「じゃあ、猫さん?」

「いや、だから……」

「では、レッドリンクスで!」

「呼びにくいわ!」

「それに、レッドリンクスって山猫っていういみじゃあ……」

「猫……キャット……」

「猫から離れろよ! どんだけ猫好きなんだよっ!?」

名前はまだ、決まりそうにない。

と、思いきや、意外とまともな候補が出て来る。

「しょうま……なんてどうかしら。小さい魔族って事で漢字を当てはめて、小魔」

「なるほど。チビネコってことかっ!」

「おい、チビネコって言った変態、ちょっと待て」

「しょーま? あかちゃんじゃなくて、しょーま?」

「セリスちゃん……赤ちゃんネタはもういいから」







「さて、今日と言う今日は、赦さない……そのセリスの腕からさっさと出て行け! 羨ましいんだよこの野郎!」

「うっせえ! こっちは息が出来なくて苦しいんだよ!」

「なんだとっ……今日こそ、今日こそてめぇをっ!」

燃え上がる炎。そして吹き荒れる風。あたりに暴風を起こしながらその二つがぶつかる。

ソルディアの魔術師だか何だか知らないが、ミツヤは無演唱の魔術を得意としているらしい。人間のくせに。

こちらはと言うと、無演唱なんて出来ない。つか、そもそも魔術なんて使えない。ので、下級魔法の詠唱破棄をどうにか行って同じように魔術を発動している、ように見せかけている状況だ。

長々詠唱なんてやってたら、絶対笑われる。

驚いたらしいセリスの腕からするりと抜けると、猫から元の姿に戻る。

こっちの方が楽だからだ。

「ふん。本気でこい、猫」

「猫じゃねーよ、変態」

さらに炎を創る。と、ミツヤは同じく炎を創りだす。

馬鹿め。そんな事を想いながらさらに炎を増やしていく。

こっちは元々火の魔法を得意としているのだ。

少しずつ増えて行く炎はやがて繋がり、一つになり、龍の様な姿に変わっていく。それに対して、ミツヤは鳥のような姿へと変わっていく。

「丸こげにしてやる!」

「てめぇこそ、黒こげだ!」

二つの魔術と魔法が、ぶつか――

「やめなしゃーいっ!」

ぶつかろうとした時、世界は凍った。





「貴方達ね……毎度毎度、魔術合戦をして、なに庭を壊しているのかしら?」

セシリアが怒っていた。

場所は庭。さっきまで魔術合戦をしていた場所だ。

が、そこは冬の庭に様変わりしていた。

あたり一面が凍りつき、見事な龍と鳥のオブジェの様な氷がある。

……炎ごと、凍らされたのだ。

「ご、ごめんなさい……」

「お、おれは、別にその、こいつが突っかかって来ただけで」

「って、おい! お前だって突っかかってきただろ!」

「俺が何時お前に突っかかったんだって言うんだよ! むしろ、変な言いがかりをつけてきたのはお前だろ!」

「だ、か、ら、やめなさーい! 今度は貴方たち事凍らせるわよ!」

それはさすがに恐ろしい。

絶対俺のせいじゃない、と心の中で反発しながら、セシリアの後ろで寝ている少女を見ていた。

末恐ろしい一族だ。

この庭の現状を創ったのはセシリアではなくセリス。

たぶん、母親のまねをしようとしたらこんな事になったんじゃないか、なんてセシリアは言っていた。

「お前ら一族って……ほんと意味わからねぇわ」

母親は魔王と普通に会ってるし、兄貴は変態だし、妹は恐ろしい魔術を無意識に使うし。






そんなかんじで、時は進む。

ミツヤと馬鹿騒ぎをしながら。

セリスにもみくちゃにされて遊ばれながら。

セシリアに殺されかけたりしながらも使い魔としてこき使われながら。

それでも、楽しかった。初めてだったから。こんな生活は。

長くは続かなかったけれど。


やがて、セリスの五つの誕生日が訪れる。

セリスを驚かすためなんて言って、俺とセリスはお使いに行って、ミツヤ達は家でパーティーの準備をしていた、はずだったその日。屋敷は燃え、ソルディア家は亡くなった。

セシリアとセリスを除き、ソルディアの血脈は途絶えた。

そう、ミツヤたちは死んだ。

そして、セシリア達は絶対凍土の氷の世界に送られる。

云われない罪を問われて。







「ショーマっ? ほら、授業終わったよ?」

ぼんやりとして居たら、いつの間にか授業が終わっていたらしい。

不思議そうに首をかしげるセリスは、日に日にセシリアに似て来ている。

性格は似ないようにと願ってきたおかげかまったく似ていない。

自分も変わったなぁ、なんて思いながらも一つだけ、言っておく。

「セリス、お前だけは俺が絶対護るから」

「? うん? あ、ありがとう?」


彼女だけは。


もう、自分が愛したあの場所は失われてしまったけれど、彼女だけは護ろう。

そう、あの日に決めたから。

全部燃えてしまった、あの日に。










これは、紡がれた物語のほんのわずかなお話しの一部……ちょっとした小話。


ちょっとしたこぼれ話なのですが、実はショーマの名前の由来は【聖魔】で、小さな魔族ではなかったり


ここまでお読み下さり、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。