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朱に交われば赤くなる




えー、セシリア・ソルディアさん(推定三十代後半)の使い魔になりました。

無理やりされました。

「……」

「なに嫌な顔をしているの? 変な場所言って、人間に殺されるよりましでしょ?」

「そうだけど、なんで……なんで猫として扱われるんだよ!!」


現在、セシリアの娘、セリス嬢の腕の仲です。

彼女、幸せそうに眠っています。

このまま永眠すれば良いの「猫の皮って、東の国では三味線と言う楽器に使われるらしいわ」

「恐ろしい事を言うなよっ!?」

ほんと、物騒な人だ。

いそいそとセリスの腕から抜け出す。

可愛らしい寝顔だ。起きると尻尾を掴んできたりひげを抜こうとしたり、水に落そうとしたり、川に落そうとしたり物騒この上ないが。

まあ、彼女なんて可愛い方だ。

セシリアに比べたら……いや、あのミツヤとやらに比べたら……。


「はぁ、セリスちゃん。今日も可愛い寝顔で……癒される。こうして見ているだけで癒される。そして、そこの猫、セリスに抱かれるなんてっ。クソ! どうせセリスの興味が亡くなればぽいっとゴミ箱に捨てられて焼却処分される運命のくせにっ!! 死ね!」

「黙れっ! 変態!」

いつの間にか、セリスの前に来ていた変態が一名。

こいつだ。

こいつが一番ヤバイ。気がする。

「セリスの寝顔をずっと見られるなんてっ、羨ましい奴めっ! くそっ、ひがんでなんていないからな!」

「……」

ただ、見ていて一番面白い奴だとも思う。

「でもって、お前みたいな正体不明の猫なんて、これっぽっちも信用してねぇからなっ。さっさと消えろ! そして死ね!」

ソルディア家の人間は、すっごく物騒なことしか言わない気がする。

セシリアも物騒だし、なんでこう、死ねとか言って来るんだ。

「お前こそ死ね!」

「なんだとっ、このブス猫っ!」

「はぁ?! てめぇこそキメェだよっ、シスコン!」

「それは僕に向かっての褒め言葉だっ、このクソ猫っ!」

「ねこねこ言うな、この変態ロリコンっ!」

「にゃーこのくせして生意気だっ!」

「やるかこんにゃろーっ!」

「おうおう、やってやろうじゃ――」

「なにやってるの? みつにい」

セリスの声。

その途端、物騒な顔だったミツヤはにっこりとスマイルになる。

気持ち悪い。

「え? 何もしてないよ、セリス」

変わり身の早い奴だ。

こいつの頭の中が見て見たい。あ、やっぱなし。頭の中はきっとお花畑だ。

「それより、猫で遊ぶのはいいけど、爪とかに変な病原菌とか持ってたら危ないから、近づいちゃダメだよ」

「だいじょうぶだよ! ままがいいっていってたもん!」

「っち」

「?」

舌打ちするミツヤ。それに首をかしげるセリス。

こんど、ミツヤに腹黒変態と呼ぼうと思った。







「我がうるわしのセルシアス嬢。君の為なら命だって惜しくない。だから笑っておくれっ」


腹黒変態が、言った。

「お前、ほんときもい」

なんでこんなやつが少女の兄なんだろう。家族じゃなければ通報してやったのに。

「だからどうした。僕の全てはセリスちゃんだ。可愛妹に迫る毒牙を粉砕するためなら、なんでもしよう」

「母親の使い魔を殺す事もか」

「おう」

こいつ、どうにかしてください。


セリスは猫が好きらしい。

俺を見ると、喜んで走って来る。逃げても、なぜか追って来る。

ものすごいスピードと勘をフル活用して。

こいつ、本当に人間の子どもなのか? そう思っていた時期もあったほどだ。

それはともかく、それがミツヤのお気に召さないらしい。

俺が人間みたいな姿……と言うか本来の姿なんだが……とにかくそれになれると解った途端、態度がものすごく変わった。

正体不明の危険物から、第一級危険物みたいに。

なにが言いたいのか分からない? 俺もわからない。

とりあえず、俺を毒へび扱いしたり、狼扱いしたりして来る。

俺は魔族だ。

「で、なんで俺について来るんだよ」

「世界平和のためだ」

「なんでオレについて来るのが世界平和の為なんだよ……」

「世界平和、すなわちセリスちゃんの安寧だからだ」

「おかしいよな。前々から思っていたけど、お前の思考回路おかしいよなっ?!」

「おかしくなどない。人々にとって、誰にでも至高の宝と言うモノがあるだろう。それが、僕に関してはセリスだったというだけさ」

「すっごくかっこいいようなセリフなんだが、その前のセリフが全てをぶち壊してるぞ」

馬鹿だ。ほんと、こいつは単純馬鹿だ。

「みつにい、あそぼー」

「おっと、セリス。いいよ。何して遊ぶ?」

「……こう言う時だけは、良い兄貴に見えるのにな」

兄達と言うと、全然いい思い出が無い。

だからだろう。こう言うミツヤの姿は、素直にいいななんて思ってしまう。

あ、やっぱ今の無しで。

こんな気持ち悪いのはいらんは。

「……」

「みつにい?」

とつぜん、変態は黙ってしまった。

こっちを無言で見て来る。

セリスもつられてこっちを見る。

「僕は良い兄貴に見えるか」

「は? えっと、まぁ?」

「……」

なんだろう。ずっと見て来る。

すっごく気持ち悪い。

あいつ、なんなんだ?

それに、セリスは痺れを切らしてしまったようだ。

「にゃーこっ、あそぼ!」

「え」

「なにしてあそぶー?」

そう聞いて来るセリス。

一応、こっちがしゃべれるのは知っているから、猫の姿でも普通に話しかけて来る。

「そうだな……」

追いかけっこは恐いからやだ。ままごとはミツヤがぎりぎりとこちらを睨みつけて来るので嫌だ。おいしゃさんごっこも同様。そのほか……。

突如頭上に水が降って来た。

「ぎやあああっ?!」

因みに、俺限定で。

「セリス、水遊びでもしようか!」

「さっきの言葉撤回! てめぇは残虐非道な猫の皮かぶった悪魔だ!」

猫は水に弱いのだ。







「あっはっはっはっ」

昼さがりの屋敷に、馬鹿笑いが響く。

「あの、セシリア様。セリス様が起きてしまいますよ?」

そう言って止めるのは、侍女のリオナだ。

いつも自分勝手な主に振り回されている可哀想な人、その一。

ちなみに、その二からその十七までいる。

さらに言うと、セリスは昼寝中。

寝る子は育つというらしいが、確かに面白いほど寝て、日に日に身長が伸びている……気がする。

まぁ、それは置いといて、今日の水びたし事件に文句を言っていると、セシリアがあまりにも笑ってくるのだが、なぜなのだろう。

そんな、笑う所あったか? それとも、この人間は魔族の不幸を喜ぶ奴だったのか……。

「いや、ちょっとね。……ミツヤはね、実は孤児なの。だからかしら。あの子、かぞくって言う言葉に敏感なのよね」

「……あっそう」

そうだったのかと思う反面、その割には思考回路とかセシリアに似ている気がするのはなぜだろう、なんて考えていた。

「良いお兄ちゃんねぇ」

「きもちがわるいときもあるが。むしろ、その時の方が多いが」

「……」

セシリアは何とも言えない表情をしていた。

そして、何かを思い出したのか、突然笑い始める。

「ところで、君は本当に戻らなくていいの?」

「なんだよ。また帰れって言うのか? あと、いきなり笑うのはちょっと……」

「いや、貴方のお父様とこの前会ってね。うちの愚息はどんな様子ですか。いつ帰りそうですか、と」

「へぇ……」

なんだ、おやじと会ったのか。

……。

…………え?


「はぁっ?! なんだってっ?! あのおやじが、なんで、いや、どうして会って、だって、どんなっ」

「まあまあ、そんな驚かないで」

「驚くわっ! つーか、なんでお前一体何もんなんだよっ、一応魔王に会ったとか、なんだよっ」

「いやぁ、それほどでも」

「褒めてない! でもって、答えを言え!」

話がよく呑み込めない。

なんでこいつがおやじと会ったんだよ。

でもって、どんな話をしたのか……嫌な予感しかない。

「ねぇ、どうして家出したの?」

「どうしてって……したかったからだよ」

「お父様に何も言わないで?」

「喧嘩したばっかなのに、顔を合わせられるか。でもって、なんで会ったんだよ」

話を逸らしてる。絶対この人、話を逸らしている。

半眼になりながら、セシリアを睨んでも、彼女はどこ吹く風でまったく堪えていない。

「やっぱり、お母様の事で?」

「ち、ちげーよっ」

「そうか……大変ね。でも、その事をきちんとお父様に言ったの?」

「いやだから……俺の問いに答えろよっ!!」

「そういえば、婚約者がいるらしいわね」

「なんでそんなことまでっ?!」

たぶん、自分は一生彼女に頭が上がらない。そんな気がした。



そんな事を考える彼を見るセシリアの心情は複雑だ。

単純に、素直な反応をしてくれるのでからかいがいがあって少々楽しい。

けれども、彼の此れからについて考えると頭が痛い。

聞いた話では、彼は魔族の中でも特に力を持った者の息子だという。そんな彼をすぐに保護できたのはいいが、これからどうするのか。

もしもまかり間違って死にましたなんて事になったら、今は良好な彼等(まぞく)との関係がこじれるかもしれないのだ。

さらにいえば、彼の母親は隣国の方のどこかの姫だったとかなんとか。

なんでそんな重要人物が家出して、魔族にとって住みにくいことこの上ないこちら側にやってくるのか。

ハタ迷惑この上ない。

彼の面倒を見ることにされてしまった彼女からすると、胃薬が幾つあっても足りない。

「まったく、あの馬鹿王。なんで私にばっかり面倒事押し付けるのかしら。こう言うのは国の方でなんとかしてほしいわ」

「は?」

面倒事を全て押し付けたイルローガの国王とは古い付き合いだが、だからと言ってこう言う問題は自分に押し付けないで欲しい。しかも、魔族の彼の父親は父親で、会ったらダメおやじ丸出しだったし。

なんて考えていた。

「はいはい。そんな感じでお話しはおわり。さぁ、行った行った。セリスの面倒でも見といてちょうだい」

「お、おう……って、違うだろ! 俺の質問は結局無視かよ!!」

一応、自分と同じかそれ以上くらいの年齢、らしい彼をさっさと部屋から出して、大げさなため息をついた。

「まったく、セリスが喜んでいるからいいけど、こう言う面倒はミツヤだけで十分よ」

こうして、セシリアはゆっくりとこの後の時間を過ごそうと……

「当主、シリング家のスピレル君が遊びにいらっしゃいました」

「セ、セシリアさん、じゃなかった、当主! ミツヤ君と猫さんがまた喧嘩をっ!!」

「……」

「セシリア様っ! スピレル君が喧嘩に巻き込まれて……」

「ま、魔術合戦に発展してしまったのですがっ、い、いかがしましょうっ?!」

「に、庭がっ。酷いありさまにっ」


ぷち


「あの子たちっ。こっちの気も知らないで……あぁ、もうっ、やめなさーいっ!!」




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