黒竜様の心の広さ編
Web拍手から転載。
モーリオンと透流くん。
「モーリオンてさ、心が広いよね!」
ある日、透流が何の前置きもなくいきなりそう言った。
透流が突然何の脈絡もないことを話し始めるのは常のこと、モーリオンは透流のキラキラ光る黒曜石の瞳を見つめ返し、可愛いものだ・・・と密かに微笑んだ。
――どうした、いきなり――
そう聞くと、
「俺がわがまま言っても笑って許してくれるし、失敗しても・・・そりゃ、危ないことしたら怒るけどさ、失敗しても最初に俺のこと心配してくれるし、お願いだって聞いてくれる」
ニコニコとそれは嬉しそうに笑い、
「俺、優しいモーリオンが大好きだ!」
モーリオンに抱きついた。
――そうか、ありがとう。我も透流が好きだ。・・・で、今度は何がしたい?――
こんなことをいきなり言う時は何か失敗したときかお願いがあるときだ。
モーリオンの言葉を聞き、透流はさらににこぱぁぁーと満面に笑みを浮かべる。
こんな顔を見せられたらどんな頑固者でも何でもお願いを聞いてあげたくなるだろう。
「俺ね、長に名前を付けたいんだ!長もね、付けてもいいって言って・・・」
――ダメだ――
即却下。
「えー、なんでー?」
――ダメなものはダメだ――
にべも無い。
あまり聞かないモーリオンの冷ややかな声に透流は言葉に詰まる。
――長は長だ。それ以上でもそれ以下でもない――
「う・・・」
――長と呼べばよいであろう?――
「でも、長って呼びにくいし」
――透流、長には名など必要ない――
「でも!名前って言うのは個人を表す大切なものなんだよ!・・・いいよ、モーリオンの許可なんて要らない!俺、かってに長に名前付けるから!」
透流がそう言い放ちその場を去ろうとすると、
――透流・・・――
モーリオンがその巨体を起こし透流の前に回る。
「なんだよ!」
――透流、行くな・・・――
そう言うと、透流に顔を寄せ鼻先でそっと頬を撫でる。
――透流・・・――
その優しく甘い声に透流の腰が砕けた。
へたり込む透流を前足で抱き込み、やんわりと押さえつける。
――今日はどこへも行くな、ここにいればいい――
「あぅぅ・・・」
透流は首まで赤くし、
「モーリオンの意地悪・・・・・・」
顔の、全身のほてりを冷やすかのようにひんやりとしたモーリオンの体に擦り寄った。
ほてりが収まった頃、
「何で長に名前付けちゃダメなんだよ・・・」
透流が拗ねたように問うと、
――お前が名を付けるのは、名を呼ぶのは我だけでいい――
モーリオンがきっぱりと、
――我以外の名を呼ぶな。我の名だけを呼べばいい――
でも、どこか甘く囁いた。
「独占欲強すぎだよ・・・」
透流は溜息をつき、
「でも、それが嬉しいて思う俺って、終わっちゃってるよね」
少し笑いながら、
「うん、今日はずっとモーリオンの名前だけ呼びながらここにいるよ」
甘く囁き返したのだった。
「ねぇ、モーリオン」
――何だ、透流?――
「ちょっと出てもいい?」
――ダメだ。ここにいると言ったであろう?――
「うん・・・言ったけどさ・・・」
――どうした?――
「トイレくらいは外に行かせて?」
――・・・・・・・・・・・・まぁ、それくらいは・・・だが、すぐに戻って来い――
「すぐ戻るよ」
――長には会うな――
「わかってるよ!」
――・・・やはり心配だ、ついて・・・――
「モーリオン!!」
前言撤回。
モーリオンの心は狭い。
ただのイチャコラでした。