答07:私の逝きたい場所がそこなのです。愚かでしょう?
永禄7(1564)年11月下旬、越前国敦賀郡 河野屋見世屋敷
「殿!馬廻り衆伝令!!寺田采女にござる!!お目通りを!!!」
相変わらずデカい声ですねぇ。それなりに大きい屋敷の外から、耳を押さえたくなる程の大音声を響かせるとは。
まぁこの声のお陰でスムーズに道があいて私の眼前にすぐ現れた訳で、良い面もありますがね。
「殿!大宮司殿への助太刀経過を報告いたします!」
下馬して跪いた采女が、自身の前にひとつ桶を置きました。
「殿の読みどおりにございます!
神宮にて大宮司様と合流した直後に我等に手続きがどうの・しきたりがどうのと文句をたれる者どもが現れました!
その振る舞い、正に殿のおっしゃるとおり高師直の如き増上慢なものでございました!」
なんか私の智略に感心するように言っていますが、人の家にアポなし突撃なんかしたら当然家主は怒るでしょう。
誰でも想像できることでしょうに、神の権威に酔って自分の家と勘違いする輩であれば危機感が無かったと。
ノコノコ顔出してくれて良かった。隠れられた場合の対応策も考えていましたが、こちらの方が後の対応が楽ですからね。
「そこでご命令どおり先頭の者を斬首、同時に退路を封鎖し残りの者は縄を打ちましてござる!!」
「そうですか。それで首はそこの桶の中ですか?大宮司殿の実検は終えましたか?」
「ははっ!大宮司様より氣比神宮執当・角鹿検校兼正禰宜散位であると実検頂いております!」
おお、想定していたうちの最も大物じゃないですか。運が良いですねぇ、日頃の行いが良かったのでしょうか?心当たりはありませんが。
「ば・・馬鹿な!角鹿執当様だと!!」
驚愕に染まる刀禰の元へ首桶を持っていきよく見えるように蓋を外してあげます。
「刀禰殿、ご確認を・・・して、誰が黙っていないのでしたっけ」
「ひっ・・・なんという畏れおおい事を!!貴様の地獄行きはもう避けられぬぞ!!」
「ええ、そのとおりでしょう。地獄行きかは兎も角、神職僧侶を数多殺生なさしめた者がたどり着く世界に逝くのでしょう、私は」
何の科学的根拠もない話ではありますが、ふふ、それが本当だったらそれはそれで楽しみですねぇ。
「ヒィッ・・・な、なぜ嗤う!?事の道理も分からぬ愚か者でもあるまいに!!」
「あぁ、簡単な話です。私の逝きたい場所がそこなのです。愚かでしょう?」
私の言葉に、周りがしんと静まり返る。
「な・・・にを言っている?・・・」
「ですから、私の人生を駆け抜けた後はそこへ向かいたい。と言っています。已む無く、というわけではありませんよ?」
心底から理解できないって顔はちょっと傷つきますねぇ・・・刀禰だけでなく、加介君はじめ周囲の者たちも、だとねぇ。
「まぁ聴いて下さい。そもそも生前の徳に応じて行き先が決まるのであれば、地獄にはさぞかし悪人が集っているのでしょう。
そして、悪人というのは実に多種多様です。私のような神職殺しを働いた者、盗みを働いた者、人を騙して利益を得た者、親殺し、主君殺し、等々」
「そ、そうじゃ・・そやつ等と同じ苦しみを味わうのだぞ!!」
「そうですね。聞くところによると嘘をつく者も地獄落ちだそうで・・・ともすれば極楽に行った者というのはさぞかし品行方正だったのでしょうね?まるで型にはめ込んだような、同じような人間で溢れている訳です」
「・・・」
そんなこと考えたこと無かったって顔しないで下さいよ。あなた禰宜でしょう?
「その上、そんな正しい生き方を貫き通せる方が大多数だとは思えません。
よって、地獄には個性豊かな人材が豊富に存在するわけです。例えば、西光法師を拷問、虐殺した平相国や比叡山を焼き討ちした悪御所、九州で寺社を相手に大暴れした鎮西八郎などがね」
「それで、豊富にいる錚々たるお歴々がですよ、観念して自らの悪行を悔いておとなしく地獄の責め苦を受けていると思いますか?」
あ、十兵衛が苦笑いしてますね。これは私と同じ感想ですか。
「私はそうは思いません。どう考えても閻魔相手に地獄の国盗りやってるさまが目に浮かびますよ。」
まぁ成功しているかは別としてですが。
「で、あれば私のような者にとって地獄とは極楽よりずっと学ぶことの多い有意義な環境だと思いませんか?」
「ヒッ・・・ば、馬鹿なことを!地獄が良いと嘯くのは止めよ!」
嘘じゃ無いんですがねぇ。
「では一寸話を変えましょう。ご先祖様は大事に敬う事。この意見に異論はありませんね?」
「突然何を・・・まぁそのとおりだが」
「私のご先祖様に一際傑物がいらっしゃいます。朝倉金吾宗滴といって、私の祖父にあたる方です。」
周りの反応を見てもお祖父さまが傑物というのは異論無さそうですね。
「朝倉家の屋台骨を支え続けた巨星、類い希なる戦術眼、誰しもが薫陶を受けたいと望むでしょう・・・まして敬うべき先祖であればなおさらのこと」
ここまでは異論無さそうですね。
「では、そのお祖父さまは何処にいらっしゃるのでしょう?『犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つのが本にて候』とまで嘯いた、九頭竜川で数多の一向宗坊主共を極楽とやらに送って差し上げた稀代の悪党は」
「・・・」
「まぁ極楽ではあり得ませんよねぇ・・・で、あれば、どうすれば同じ処に逝けると思います?」
やっと本気だということが理解できたのか、禰宜殿の顔を恐怖と驚愕が占めてきました。
「ま、まさか真に!真に極楽より地獄を望むと!?」
「さっきからそう言ってるじゃありませんか・・・加介君、あなたの心配事は無くなりましたか?」
「は、はい敦賀様!もう大丈夫です」
では、展開を先に進めましょう。
「よろしい・・・では改めて、加介、この禰宜の首を獲りなさい」
「はっ!」
加介君の大太刀が禰宜の首へ向けて一閃。
「ま、まて・・・ぶげぇっ!!」
おー、綺麗に首が飛びましたねぇ。後で使うんでなるべく丁寧に扱って下さいね。
「さて・・・ではまず雪之丞。河野屋の財産接収作業を開始して下さい」
「はい・・・もうちょっとやさしめに討ち入って欲しかったんですけど・・・だいぶ壊れたり燃えたりしましたよぅ・・・」
それは申し訳ない。文句は真柄兄弟にお願いします。
しかしゆきの言う『酷いこと』とは主に財物に対しての所感ですか、意外にも鉄火場は大丈夫そうですねぇ、肝の据わった娘さんですこと。
「次に、真柄兄弟。助太刀感謝します。加介君の初陣祝儀含め、報酬は追って真柄庄へ贈りましょう。あぁ、加介君には私から感状を出しますのでご承知おき下さいね」
「おう!倅にゃ丁度いい按配の鉄火場だったぜ!また面白そうなことやるときには呼んでくれよな!」
そう言うなり、あっさりとこの場から立ち去り出しました。
「あ・・ちょっと!飯と酒ぐらい出しますよ!」
「その分も後で頼まぁ!かあちゃんに黙って来たんだ!早く帰らねぇとな!」
言いながら凄い速度で歩き?去って行きました。
「なんとまぁ・・・気を取り直して、采女」
「はっ!!」
「執当と禰宜の首を持って原隊に復帰。その後大宮司殿と共に金ヶ崎城にて私の帰還を待ちなさい」
「伝令復唱します!!『大宮司様を連れ金ヶ崎城にて待機』!!」
「よろしい。行きなさい」
「御前失礼仕る!!」
馬廻り衆は規律がしっかりしていますので、会話も若干硬い感じですが、その分命令遂行能力が高くて重宝します。
「最後に、十兵衛。雪之丞が接収した財物・帳簿類を金ヶ崎城まで運び出して下さい。私は雪之丞の接収作業完了を待って帰還します」
「承知致しました。供回りはいかほどに?」
「十兵衛、加介、雪之丞と後4、5人護衛を見繕って下さい」
「手配いたします・・・その前にひとつよろしいですか?」
イタズラのネタばらしする時みたいな顔してますねぇ。
「確認ですか?良いですよ」
「されば、徳の溜まり場にかかる仏陀の教えの事にござる。拙者、寡聞にしてそのような話を存じ上げませぬ。いずれの書物に記されておるのです?」
ははっw分かってて聞いてますねコレ。
「分かっている癖に・・・方便・武略編八百巻ですよ。そのつもりで取り扱って下さいね」
「えぇ、心得ておりますとも」
イイ笑顔してますね。ま、私が頭でっかちの融通が利かない阿呆では無さそうと判断してくれたと思っておきましょう。
実際の私は割といい加減で出たとこ勝負のユルい方の阿呆な訳で、神輿として担ぐには丁度いい軽さなんですよ。だから本能寺は勘弁して下さいね。
え?ゆきさんのキャラが答01と違う?
そりゃあ13歳と19歳(数え)では別人と言っても良いぐらい変わりますよ。
思春期を経て、いろんな体験を積めば人格から変わりますからね。
皆さんも心当たりあるでしょう?
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読んでいただきありがとうございます。
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・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。
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