答06:初陣は必ず勝てる相手とやる出来レースなのです
永禄7(1564)年11月下旬、越前国敦賀郡 河野屋見世屋敷
「ようさ・・・じゃなかった。とのさまぁ・・・こんな酷いことしなきゃダメなの?」
「駄目なのです雪之丞。武士とはね、舐められたら殺さないといけないのですよ」
足利学校の教本にもそう書いてあります。武士は面子商売なのです。
「この場合大事なことは2点、相手によって対応を変えないことと、己が何者かを舐めた行為をしたことにより殺されても文句を言わないこと」
相手が強大だろうがカタギさんだろうが関係ありません。
景鏡?当然殺します。だが私は奴を舐めてはいません。短慮な行動で失敗してさらなる恥を晒さぬよう確実に殺せる策を練っているのです。
「河野屋は相場より遙かに高い価格でぼったくっていました。武士に適正な価格など理解できまいと高をくくってね」
まぁ確かに、雪之丞の目を持ってでもなければ発覚はしなかったでしょうがね。
「けど・・・けど!こんなお屋敷が消し飛ぶような大暴れするなんて・・・」
あー・・・それは・・・まぁ・・・そうねぇ・・・
河野屋の主人および客人はボコボコにされた上、捕縛されて我等の目の前です。
手代・番頭らにいたっては既に首桶の中ときました。
破落戸や博徒上がりの用心棒共は散り散りに逃げ惑っていて、とっくに決着はついています。
私の初陣であることから必ず勝てる相手とやる出来レースなのだし、この結果は当然・・・なんですけどねぇ・・・
「ヒャッハー!!追い首だ~」
「兄者ぁ!!あっちから殺気!!まだヤル気ある奴がいるぞぉ!!」
「よっしゃ!直澄ぃ!倅連れてけ!しっかりと遊ばせろよ!」
「任せろ!オラオラァ!死にたい奴は何処だぁ!!」
・・・7尺の巨人が三体。いつまで暴れてるんでしょーねー・・・
いやまぁ一体は分からなくもないですよ。初陣だし、気負いもあるでしょう、真柄加介恒隆君(14歳・213センチ)。
十兵衛が先駆けとして召し抱えた事ですし、その十兵衛がまだ止めていませんからね。
・・・だが残り二体!君らただの陣借りですよねぇ!?
「「息子(甥子)が初陣と聞いて」」
とか宣ってしれっと先駆けの中に混じって何をやってるのかな真柄兄弟は!?
そもそも迅速に事を運ぶため、陣ぶれなどは行わず明智党を中心に少数を個別に集めての作戦だったのです。
確かに加介君が初陣の旨、文を送っていましたが、それが真柄庄(越前市味真野近辺)に届いたのは早くても昨日の朝だったはずです。
そこから一昼夜で敦賀まで徒歩で駆け抜けた上で休みなしで先陣を切るとか・・・バケモノですか!?あぁバケモノでしたねぇ!
・・・まぁアレ等は好きに暴れさせておくとして、そろそろ締めに入るとしましょう。
十兵衛に目線を送ると、それだけで手勢に仕舞いの指示を出しました。やっぱ有能ですねコイツ、面子や報酬には十分注意しましょう。
仮に私が本能寺されたとしたらなすすべも無く殺られる光景しか見えません。
まぁそうなったらそれまでです。私には十兵衛をこき使うしか生きのこる道は無さそうですし、これからもブラック社畜道を邁進して貰いましょう。
「さて、河野屋・・・あー名はなんと言いましたか・・・まあいい、どうせ死ぬ身です、覚えておく価値もありません」
「なっ・・・敦賀様!!この、この所業は如何なる・・・」
突然の凶行に抗議の声を上げる河野屋。
仕方ないですねぇ。簡単に説明しましょうか。
「あぁ、端的に言えば『敦賀郡司を舐めた商家・代官を成敗した』のです、武士は面子を重んじる故、目こぼし出来る限度を超えてしまったのですよあなたは」
まぁ時代劇の悪役を成敗するような物です。
・・・違いは悪役の資産を世のため人のためでは無く、私のために活用する所ぐらいですかね。
「先の加賀攻めの際に調達した兵糧に矢弾、あなたの担当分は他に比べ単価にして5割は高かったですからね。
『他に比べ量が多い故に値段も相応に高くなります』でしたか?その割にはあなたが仕入れていた庄屋や職人・馬借には大口故と値引きを強制していたようですが」
各村・郷・浦の荷動きや金の動きを把握していなければバレることはないやり口ですね。
さらに村長なりその上の代官なりを賄賂で抱き込んでおけば我等まで詐術を訴える者が出ることもありません、と。
敦賀郡司家子飼いの志能便、氣比神宮の白拍子、賭場の寺銭坊主等から上がってくる断片的な人・物・金の動きをつなぎ合わせて全体像が見えるゆきの目が無ければ気が付くことも無かったでしょう。
河野屋がどれだけ私腹を肥やして溜め込んでるかもね!
「とはいえ、商売上の話です。あなた個人にケジメつけるか、商家として手打ちできればばそれで済む話だったんですよ・・・そこのお客人と悪だくみをしていなければ」
同じくボコボコにされて捕縛されているお客人に目を向けます。
「ねぇ・・・江良浦刀禰、彦太郎殿?」
敦賀湾の北東部に位置する漁村、江良浦は氣比神宮の社領のひとつでした。今までは。
故にその地を治める代官は氣比神宮が所属する神職の中から直接任命し、地頭職も兼ねることで守護の干渉を防いでいます。いわゆる守護不入の地というやつです。
「あなたの管轄下にある江良、五幡の領民は、よく一家まとめて病にかかるそうですが、その後彼らは何処にいったのです?」
涅槃ではないことは調べがついているのですよ。病(破落戸に攫われる)の上で隔離しているのもね。
「何の話でしょうなぁ!そもそも江良浦は社領!守護の手の者が関わる筋はありませぬぞ!」
縛られて身動きとれないながらも、この仕打ちは理不尽だとばかりに吠えかかってきますねぇ。
確かに氣比神宮の社領に不用意に首を突っ込んだら神宮の面子が潰れますし、タダではすまないでしょう。
しかし、今後の敦賀でそれは認められないのです。可及的速やかに総力戦体制を構築するためにはね。
そのための手札はしっかり切ってあります。
「あぁ、敦賀郡内に限っての事ですが、氣比神宮の社領は守護に寄贈されました。
当面、代官・地頭は引き続き刀禰であった者としますが、実質の管理は我等が行います。
無論、氣比大宮司殿と協議・調整した上での決定です。悪しからずご了承下さい」
氣比神宮に限らず、全ての守護不入地をなくす方針ですからね。相手により、滅ぼすか取り込むかの違いがありますが。
勿論、取り込む予定の氣比神宮に理不尽な真似は出来ませんから、ちゃんと彼等の利益も確保してありますよ。
氣比大宮司憲直殿の利益を、ね。
「馬鹿な!そのような無法、認められぬ!そもそも大宮司と協議だと!?角鹿執当様がお認めになるはずが無い!!」
それが当然の公理だと言わんばかりの口ぶり、氣比神宮の病巣も根深い物ですねぇ・・・
「はぁ、その執当とやらは大宮司より偉いのですか?神宮の方針は執当が決めると?」
「ぐっ・・・神宮の舵取りは代々角鹿様が執り行ってきた!お飾りの大宮司ではない!」
刀禰職にあるものがこんな認知でいるとは、大宮司殿の苦労が窺えますねぇ。頭が複数有るようなものだと考えれば、前例踏襲以外の行動が起こせなかったとしても不思議ではありません。
とっとと意思決定経路を一本化して頂くように助力しておいて正解でした。
さておき、この方々にはさっさと退場して頂きましょう。
「仮にあなたの主張が正しかったとして、我等がそれに付き合う義理は有りません。我等からみてあなたは領民に害を為す悪代官でしかないのですよ。十兵衛」
「はっ!加介にやらせまする。直接御下知を!」
今の問答のあいだにちゃっかり加介君連れてきているとか、今後のための教育をここでやる腹ですか。しごできな家臣は重宝しますねぇ。
「いいでしょう。加介、この二人を殺しなさい」
「ひぃっ!お、お許しをぉぉ・・・ぶべらっ!!」
「なっ!斬るか!?神人を!やれるものか!神罰がくだろうぞ!!」
河野屋はあっさり斬り殺したのに、刀禰には手が出せないようですね。
まぁ無理もありません。科学の発達が未熟な戦国の世では生活習慣の大部分に迷信が入り込んでいます。それも公衆衛生に寄与したり、危険を回避する類の有用なものが多くね。
そんな中、信じることを司る存在の言葉は私が考える以上に大きいのでしょう。主命に抵抗を覚えるくらいには。
「加介、神職を斬る事に躊躇いがありますか?」
「敦賀様・・・申し訳・・・」
言葉にこそしていませんが、充分に伝わってきますよ。怖い、ってことがね。
まぁ父親似の怪物といえどもまだ数え14の少年ですからね。純真な分、畏れも一入でしょうし。
純朴な者を教え導くのも私の務めです。
「加介君、まぁ聴いて下さい。確かに神職に手を掛けるというのは畏れ多いことです。そんなことをすればつぎは修羅か畜生、はたまた地獄のいずれかでしょう」
「つ・・敦賀様ぁ・・・」
「その通りじゃ!だから早う解放せい!!」
まぁ続きを聴いて下さい。
「ところで私も以前は僧籍にありましてね、その時に面白い書物を目にしたのですよ。仏陀と弟子の問答を記したもので、『善行・悪行の徳・因は何処に生ずるものか』という論題についてでした」
当事者だけでなく、十兵衛や雪之丞といった周囲の者も聴く体制になっていますね。そんな大した話をするつもりは無いのですが。
「ある王侯が、自身の保有する奴隷に修行僧の世話をさせていたそうです。さて、この善行により天上に昇るのは王か奴隷か?」
「ど、奴隷・・・ですか?」
「いえ、仏陀曰く王侯の徳となるそうです」
周囲含め驚きが大きいようですね。驚いていないのは十兵衛のみですか、流石ですね。
「理不尽に見えますが、行動により徳が生成され、行動に導いた決断を行った魂に徳が積まれるそうですよ。」
善行だけだと理不尽に見えるんですよねぇ。
「またとある戦にて、ある将が率いる手勢が町を攻め落とした際、将の命にて女子供含め全てを鏖にしたそうです。これにより地獄に堕ちるのは?」
「・・あ・・将ひとりのみ・・・ですか?」
「その通りです。善くできました」
身体に似合わず飲み込みのいい子ですね。
「それを踏まえて聴いて下さいね。この場であなたが刀禰殿の首を落としたとして、その酬いを受けるのは?命を下したのは誰です?」
「つ・・・敦賀様・・・です・・・」
「ええ、だからあなたが畏れる事は何もないのです」
加介君がやっと落ち着いた顔を見せてくれました。しかし、その顔がまたすぐに曇ってしまいましたね。これはいらん事に気を回しましたか。
「でも、それでは敦賀様が・・・」
「然り!下人に手を汚させようが、その罪業は過たず貴様に酬いよう!来世が修羅・餓鬼・畜生いずれとなるかな!?」
やはりそこが気になりますか。仕方ないですねぇ。厳密に言えば加介君は陪臣であって彼の主君は私ではないので気にする必要は無いのですが。
「あぁ・・・私のことを心配する必要はありませんよ。理由を騙る前に・・・刀禰殿?」
「ひっ・・・な、なんじゃ!?」
そんなに怯えなくとも・・・ちょっと微笑みかけただけじゃないですか。
「刀禰殿、この場にいる手勢は明智党といいまして、最近召し抱えた者の一党なんです。つまり、ここにいる私の家臣は小姓・護衛を除けば明智十兵衛ただひとり」
なんか変な陣借りが2体混じってますが、それはそれとして。
「そ、それがなんだというのだ!」
「小規模ながらも戦です。私はそう認識しています。であるなら、私の家臣はいま、何をしているのでしょう?特に猛将、朝倉宗滴と共に戦場を駆けた馬廻り衆は」
半田の爺様曰く、アイツら代替わりはしても、衆のノリというのでしょうか、雰囲気は九頭竜川の戦いの頃から変わっていないそうですよ。薄ら寒くなるほどの訓練漬けの日々とか。
「私がこの場にいるのは、あなた方刀禰に今後舐められないようにする為です。あなたの死をもって他の刀禰達に警告する、一罰百戒が狙いなのです。そしてそのための戦力は明智党で十分でした。」
「・・・・」
「では残りの戦力は?数は多くないですが明智党以上に機動力のある兵を無為に遊ばせておくほど無能でも酔狂でもない・・・と自分では思っています」
実際の所、私が有能か無能かはこれからの結末で判定されるでしょう。
「実を言うと、私も一杯一杯なのですよ。河野屋の家財の接収、氣比神宮社領の引き継ぎならびに領民の慰撫、刀禰殿の粛清・・・そして大宮司殿への助太刀。やることが多いですから」
雪之丞、勝手方、新参、古参と、すぐに動かせる駒は全て使っています。
「大宮司への助太刀だと・・・何を企む!」
「神宮が正しい形となるお手伝いですよ。鎌倉の世のごとく執権・執当の越権甚だしい組織は身を滅ぼしてしまいますからね。それも盛大に周りを巻き込みながら」
まぁ守護代とかの下剋上を考えれば我々も人のこと言えないんですけどねぇ。
長話しているうちに駆け込んでくる馬の足音が数騎分聞こえてきました。神宮の助太刀を行っている馬廻り衆からの伝令でしょう。
さて、私の想定の範囲に収まってくれていればいいのですが。
真柄直隆:越前が誇る戦国陸戦型モンスター。
多分、元来は普通の体躯で古めかしい大太刀を振るう武人だったんだろう。
しかし!講談やら下駄やら草履やらの影響でどんどんデカくなっていき・・・
真柄直澄:兄(直隆)と通称同じ。経歴っつーか死亡場所も同じ。
普通に考えれば同一人物でしょ。
でも拙作では別人にしました。常に二人一緒に行動しており、「十郎左衛門の弟」と呼ばれていたため周囲は誰も直澄の通称を知らなかったってことでw
真柄加介:直隆亡き後の真柄庄を治めたと思しき人物(丹羽長秀の所領安堵状より)
経歴一切不明の謎の人物なのをいいことに、拙作では直隆の庶子にしました。
え?計算が合わない?・・・バケモノが初めて青春のケダモノになった際にお手伝いさん(村娘)を襲っちゃったら一発必中したってことで・・・
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読んでいただきありがとうございます。
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・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。
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