答04:悪堕ちした古畑〇三郎みたいな奴ですねぇ
永禄7(1564)年9月下旬、越前国足羽郡 一乗谷朝倉館
「かくのごとき次第にて、拙者が兄・景垙の後を継ぐ事になり申した。願わくば引き続き敦賀郡司職を賜りますよう伏して願い奉る」
正面の主君・越前守護朝倉左衛門督義景を見据えながら宣言。その後土下座態勢に移行します。
礼法に則った行為ではありますが、まぁまぁの茶番です。
「許す。引き続き敦賀を差配せよ。」
「はっ!有難き幸せ。一層の奉公に励みまする!」
主君であっても家臣の利権を取り上げられない、たとえそれが必要なことであっても。
朝倉孝景条々?そんなものは守らせる力が無ければ無意味なのです。
今川はおろか甲斐武田ですら羨ましいですよねぇ。
これが一乗谷の、ひいては数多くの守護・戦国大名の限界であることはこの場にいる者は誰一人理解してはいないでしょう。
私が知る限り理解しているのは・・・
伊勢伊勢守
伊勢左京太夫
六角弾正少弼
今川治部大輔
三好修理太夫
織田上総介
とまぁこの位でしょうか。
しかしそれも殆どは既に故人・・・やはり脅威となるのは織田信長ですね。
それはさておき当家も中央集権化を進めたいところです。六年以内で効果の出る施策が有ればいいのですが。
「うむ、これからも一乗谷に尽くせよ。下がってよい」
「はっ!御前失礼致しまする」
さて大事なのはここからです。
まずは当評定における席次ですが・・・大野郡司朝倉景鏡、安居城主朝倉景隆に次ぐ同名衆第三席ですか。
加賀攻めの論功行賞である事を考えれば、やや好待遇過ぎますね?
当家は今遠征では兵站関連しか行っていないのですが。
あまつさえ兄上が陣中で自害したことを考えれば、もっと席次を低くされてもおかしくないのですが・・・これは何かありますねぇ。
「えー皆様、これより先の加賀攻めの総括を開催しますー。んー、司会はソレガシ、朝倉孫八郎景鏡が務めさせていただきまするー」
ヒョロッとしたいでたちの胡散臭そうな優男が場を仕切り出しました。
アレが大野郡司。実質的な兄上の仇ですか。
まぁ何というか湧き出てきた記憶のせいで受ける印象が・・・ぶっちゃけ悪堕ちした古畑〇三郎みたいな奴ですねぇ・・・
「えー皆様と守護様のご活躍によりー、あー見事!江沼郡と能美郡の西南部を制圧するに至りましたー」
言い方次第で印象が変わる物です。
確かに大聖寺城を始めとする拠点は落としました。
しかし、籠っていた一揆勢は散り散りに逃げたそうですね。
加賀は百姓の持ちたる国なのです。
ゲリラ祭りが開催確実な土地は制圧したと言って良いものでしょうかね?
「えー得た土地の配分ですがー、守護様のご意向としてはー、武功あった者に分配せよ。一乗谷へは上納金だけでよしとのことですー」
まぁ統治が難しい場合の常套手段ですね。
「あー、そういう訳ですのでー守護様のご判断による武功に伴う配分ですがー、安居殿とその寄子に七割ー、我等大野衆と寄子達に三割となりましたー」
途端、場がざわつきだしました。
動揺が大きいのは府中や南条郡等の南越地域の国人達ですか。
今の話であればただ働きとなるので当然ですね。
しかし国人達のヘイトを買っても何の得も無い。なにがしかの手当てをするはずですが・・・
・・・なるほど、読めてきました。
敦賀郡司家が未だ序列三位なのはこの為ですか・・・
「待ってください、待ってください。話は終わっておりませぇん。
守護様はちゃぁんと南越の皆様の事もお考えです。安心してくださいー」
大袈裟な身振りで場を収めに行っていますが、完全に静かにはなりませんね。
何というか、景鏡の胡散臭さゆえに信用しきれないといったところでしょうか。
「んー、若干話は変わりますがー、南越地域の所領、細かくなりすぎていて混乱の元になっていますよねー。
田んぼ一町単位で領主が違うとかー。それによってもめ事も多いと伺っておりますー」
その話を今しますか?細切れ領地の原因は我等同名衆の知行地が複雑に絡み合った上に、誰かを何かの功績により加増する際に与えられそうな土地を深く考えずテキトーに配分していたからなのですが。
「そこで守護様からー、南越地域の知行地の整理をせよ、と指示を頂きましたー。
とはいえ国人衆の皆様にご迷惑はかけられませんー」
演説しながら安居殿に視線を向けた後の一瞬、私を見て邪悪な笑みを浮かべてきました。
やはり何らかの泥を敦賀に被せてくる腹積もりのようです。
「そこでですよ、そこでですー。
我等同名衆の筆頭三家の南越地域にある知行地を一旦返上しー、今回の遠征の武功に応じて国人の皆様へ配分してはどうか。と奉行方より提案を頂きましたー」
さて、仕掛けてきましたね。奉行人からの提案としたのは少々意外ですが、南越の問題にも本気で取り組もうという胎でしょう。
「いかがですかー安居殿ー?」
「おう、問題ないぞ!加賀の統治に使うから代官は引き上げるがな!」
即答ですか。せめて規模やら時期やら確認すればいいのに。
事前に言い含められてるのが丸わかりですねぇ。まぁ朝倉景隆らしいといえばそうですが。
「えー、安居殿ーご快諾ありがとうございますー。んー、ではー敦賀殿ーいかがですかー」
さぁて、どう返しましょう?まずは条件の確認からです。
「急な話の上、恥ずかしながら非才の身の上では判断に困りますね。
南越と言っても広大です。具体的には何処を指しておるのです?」
「あー、そうですねー。具体的には南条郡と丹生郡南部を想定しておりますー。
今立郡は一乗谷に近すぎて混乱が大きそうなので避けましょうー」
・・・やはりですか、敦賀を狙い撃つようなものですね。巻き込まれる安居殿には加賀の利権で黙らせる、と。
そして大野が多く権益を持つ今立郡は対象外。普通なら今立郡の国人から不満が出そうなものですが、加賀遠征で彼らは出番が無く目立った活躍をあげていません。
・・・まったく、いつ頃からこの絵図面を描いていたのやら。
「それでは時期はどのような想定ですか?」
「できうる限り早くと考えておりますー。安居殿の加賀統治の件がございますし、南越の皆様のご活躍にも早く報いたいですのでー」
さりげなく詰めにかかってきましたね。拒否れば南越の国人衆からのヘイトを一身に受けることになりますよ、ということですか。
「では代替地などは・・「景恒」・ははっ」
守護様の割り込み?こんな札まで切りますか。一乗谷は景鏡の傀儡とみられても構わないと?
「越前の為である、受け入れよ。されば此度の景垙の行状は不問とする」
一乗谷は兄上の件を両成敗にする気はなし、ですか・・・まあいいでしょう。どうせ受けざるを得ないのです。
権限を集中する為には組織のスリム化は必須ですしね。
そう考えると兄上の件でつつかれなくなるのは予想外の収穫だと思うことにしましょう。
「・・・承知致しました。では我等は代官以下を残しておきましょう。
知行宛てがいに伴って人手が必要になる方も居るでしょうから。差配は奉行衆が行う、でよろしいですか?」
「えー、敦賀殿ー決断ありがとうございますー。後は奉行衆がしっかり対応してくれるでしょー」
計画通り、と言いたげな顔しちゃってますねぇ。邪悪な笑みが隠し切れてませんよ。
まぁ、景鏡の目論見がこれで良かった。
精々領地を、力を削ってやったと昏い歓びに浸っていなさい。
――だが。
領地が、従う武士の数が力のすべてではないのですよ。
お前らのような武士(封地領主)にはわからないでしょうがね。
この措置はこっちにもそれなりにメリットがあるんですよ。
「んーふっふー、さてーこれにてー加賀遠征の総括をー「待たれよ大野殿」・・なんですー敦賀殿ー」
危ない危ない、このまま一つ禍根を残すところでした。
史実によればこれのせいで今回の加賀遠征、元の木阿弥となり無駄に終わってしまいますからね。
私からすれば加賀方面がどうなろうと知った事ではありませんが、シュゴサマノタメニ、対処せねばならないでしょう。
「されば、糧食・矢弾の事にございます。
此度の戦、おのおの方は三日分の腰兵糧にてご参集されておられた。
さて、その後のひと月足らずは何を食べておられましたか?」
今回は敵地へ遠征しているのです。いつもの領内小競り合いや九頭竜川の戦いのように、城の備蓄米を使える訳ではありません。
商人を通じて調達の上、拙いながらも補給線を構築していたのです。一乗谷の命で、三国・敦賀の水軍衆がね。
そしてこのままだと功績どころか仕事、資材に対する代金すら支払われない、というわけです。
まぁ敦賀は敦賀一郡持っており余裕がある上、兄上の件の引け目もあるから文句も言えません。
しかし、三国湊代官の堀江殿と三国の商人衆にとっては面子も商売も踏みにじられて黙っていられる訳もなく、二年後に一向一揆側に寝返りカマして加賀の権益はご破算になるのですよ。
「あ!?そんなもん敵の兵糧奪って喰ってたに決まっ「あー、そうでした、そうでした。ご指摘ありがとうございますー」・・・」
安居殿の言うことも事実なんですが、それだけでは足りなかったんですよね。
さらに言えば、仮に略奪だけで贖えたとしても、命じた仕事に報いないのは駄目でしょう。
その点、景鏡はこれの拙さにすぐ気が付きましたか・・・
「えー、調達にかかった費用は一乗谷の倉から出しますのでー後で奉行衆に報告をお願いしますー。それからー堀江殿には守護様の感状をー「おいちょっと待て大野殿!」・・なんですー安居殿ー」
おおっとぉ脳筋が腹黒に食いつきましたぁ!
「槍働きも無いのに感状はないだろ!加賀で死んだ仲間を馬鹿にしてんのか!?」
脳筋の言いたいことも分からんではないんですよねぇ。その理屈でいったら知行宛てがいとかもっと駄目ですし。
とは言え堀江殿の面子を潰すのはもっと悪手です。さて、助け船を出しますか。
「まぁまぁ安居殿、気持ちはわかるがまずは落ち着きましょう。大野殿、安居殿の意見もっともです。感状や知行はちと筋が違うかと」
「それもそうですーけどー」
「要は銭の功なのですから、銭で報いてはいかがです?
かかった費用の半分ほどを報奨金として追加するとか。一乗谷の座に参加する商家を数軒指名する権利を与えるとか」
「あー、そうですねー。では、堀江殿には座に参加する商家を選んで頂くということでー守護様よろしいでしょうかー」
・・・若干混乱してザワザワしているが特に反対の声は上がっていないようです。
脳筋が満足そうにしているのが大きいですね。
敦賀としては報奨金でも利権でもどっちでもいいですから。要は堀江殿の面子が潰されなければそれで良いのです。
「それで良かろう、仔細は奉行衆と詰めるがよい」
「かしこまりましたー。ではー改めてー加賀遠征の総括を終了しますー。お疲れさまでしたー」
やれやれ無事に終わりましたか。
武士共の視点では敦賀が割を食っているようにしか見えないでしょう。
ですがねぇ、兄上の件で不利を被らない・戦費一乗谷持ち・勝手知ったる草刈り場の誕生・いうこと聞かない代官の整理と、これは上々の成果ですね。
さて、ここからです、越前国に多くて二割しかいない武士の理ではなく、領内に住まうものすべてを用いて、必ずや生きのこってみせ、景鏡を討って見せましょう。
読んでいただきありがとうございます。
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・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。




