答03:俗世には引き継ぎって言葉は存在しねーんですよ(泣)
永禄7(1564)年9月上旬、越前国敦賀郡 永厳寺
「これにて、松林院鷹瑳の還俗の儀を修了す。
俗世でも達者で過ごせよ」
「ありがとうございます、お師匠様。いや、悠山禅師。
これより私は朝倉彦四郎景恒を名乗ります」
これで私は苦しみだらけの俗世に戻り、正式に敦賀郡司家を率いていくことになりました・・・
気が重いですが、嘆いている暇などありません。
何せ呆けておれば六年で滅びるのです。躊躇いなどしていては即、死に繋がります。
この場には父上と軍奉行・半田又八、地元商人・川舟屋兵三郎、お師匠に寺の賄い方・悠円とゆき、氣比大宮司憲直が揃っています。
彼ら以外を人払いした上で、早速悪巧みの時間としましょう。
「さて各々方、時間をとって頂き感謝致します。
神仏俗世貴卑の垣根を取り払い、言うべきことを言い合う場と致しましょう」
人影が無くなった本堂で車座になった所で私は皆に声をかけました。
お師匠と父上はニヤニヤしていますが、その他の面々の表情はかたいですね。
まぁここからの話題次第でしょう。否応なく忌憚ない意見を出して頂くとしましょう。
「ではまず・・・悠山禅師と川舟屋、いや道川殿。
ゆきを敦賀郡司家に貰い受けたいのです」
「「「「はぁ?」」」」
そんな猫ミームみたいな声でハモるこたぁないでしょ、そんなに変でしょうか?
「ほぉ、おぬしそういう趣味であったか」
お師匠が面白そうにのたまってくる。
このお方は誤解を承知で揶揄ってくるから質が悪い。ので放置でヨシ。
しかし川舟屋が青い顔しているのは拙いですね。
まぁ妾の子とはいえ自分の娘に無体を働かれると勘違いしては無理もありません・・・
ゆきは数え十三。確かに武家であれば婚姻も視野に入れる年齢ですが・・・私(令和)の感覚は元より商家としてもまだ早すぎます。
「誤解です、道川殿。
なにも無体を働こうというわけではありません。
私の直臣にどうかと申しておるのです。
ゆきには類い希なる計数の才を有しておる故に」
「そ、それならば・・・って直臣ですと!?
それにゆきが手前の娘だとどこでお知りに?」
おーおーテンパってますねぇ。松林院鷹瑳がこの寺の賄い方に居たことを綺麗に忘れてますね、これは。
「そう、直臣です。
ゆきの才と人柄はこの寺の賄い方として共に働いていた際にしかと確認しております」
そう、この娘の頭の中には少なくともExcelが、下手するとOracleが入っているとしか思えないのですよ。
寺と出入り商人の荷動きと銭の流れをすべて把握している人材とか確保一択ですよねぇ。
女子供?関係ありません。働きなさい。
「ゆきには私の小姓として勤めて貰います」
「小姓!?男の格好・・・するのです?」
ゆきが思わず声を上げました。
「えぇ、余計な軋轢を避ける為です。
これより道川雪之丞と名乗りなさい。」
指示を出しながらゆきに視線を向けますと、若干ヒいた顔色になっています。
あれは『無理!ゼッタイ!』とか頭の中で悲鳴あげてますねぇ。
「あのぉ・・・小姓とかうちに務まるとは思えませんけど・・・」
ま、ゆきを説得するのは造作もないことです。
「その上で、私の食事の毒味役をお願いしたい。
武家の食卓故、肉・魚・卵等をたっぷり使うことになりますが・「ぜひ、やらせていただきます!」・・」
はい釣れたーw
この娘さんは、数え十三にも見えぬくらいチビッコだというのによく食べるのですよ。
特にたんぱく質を多く含む食べ物が好みなのですが、寺では滅多に食べられないし。
「ま、待たれよ!ゆきは当寺の賄い方であり・・・」
悠円が堪らずといった調子で口を挟んできた。
引き抜かれる側としては当然不満でしょうが、ゆきの待遇を考えたら残当なんですよ。
仕事をこなした報酬が新たな仕事だけとか、逃げられても文句言えないでしょうって・・・
何でしょう?私も似たような境遇だったようなおぼろげな記憶が・・・
「所詮は女童と若造のやっていた仕事でございましょう。
悠円殿であれば軽くこなせるのではないですか?」
私は兎も角ゆきの抜けた穴は大きいでしょうが、こちらの知ったことではないですね。
威張っていた分働きなさい。
武士の情けです。引き継ぎの問い合わせだけは受け付けてあげましょう。
「作務にて疑問が有りましたら、金ヶ崎までおいでなさい。
私か雪之丞が在館しておればいつでも対応いたしましょう。
ところで、私が敦賀郡司の引き継ぎを受けていると思いますか?前任の兄上は涅槃なのですが」
にこやかに言ったのですが、悠円はなぜか急に顔色を青くして黙り込んでしまいました。解せぬ。
そして私は引き継ぎなど受けてはいませんねw
記憶をたどる限り前世でも一切無いですね(泣笑)。
ああそうとも、俗世には引き継ぎって言葉は存在しねーんですよ(泣)ちくしょーめ!
「悠円よ、これは引き下がったほうがよいぞ。稚児趣味を邪魔だてしては馬に蹴られてしまうでの」
ニヤニヤしながらなんてこと言うのですかこの愉悦師匠は!
「さりとて引き下がるにも見返りが無いと当寺の面子がのぅ・・・どうせしっかり準備しておるんじゃろ?」
見返りの利権とセットで仕事も渡すつもりなのですが・・・それも想定内なのでしょうね・・・
「そうですな、それでは皆様もう少し近づき下さい。ここからはさらに声を落とします」
そうやって各々方にやっていただく悪巧みの話に花を咲かせて一段落したところで、父上とお師匠が呆れたように言葉を交わしておられました。
「エグい手を打つものよ、これは貴殿の教育の賜物かな、悠山禅師よ」
「いやいや、血のなせる業でございましょう。金吾宗滴殿が近江で打った手によく似ておられます。」
・・・これは褒められているのでしょうか、貶されているのでしょうか・・・
朝倉宗滴が近江でやったこと
六角の要請で浅井亮政を〆たんだけど、六角に対抗出来るよう小谷城に出丸(金吾丸)を増築しておいてやったぜ!六角の銭でな!
※諸説ありますが、当作はこの説を採用しております
六角定頼よくキレなかったよなコレ
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
読んでいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク・★評価・感想等お願いいたします。
・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/




