答02:笑うしかないですね。いろんな意味で!
永禄7(1564)年9月上旬、越前国敦賀郡 敦賀郡司館
兄の葬儀はつつがなく終了しました。
敦賀郡司朝倉家当主という地位にしては微妙に簡素なものでしたがね。
仕方のないことではあります。
こうなった理由はいくつも存在するのですから。
越前国守護たる一乗谷朝倉家の総力を挙げた事業である加賀遠征の真っ最中に兄が自害した事。
その原因が味方との口論の末の憤激によるものという不名誉なものであった事。
喪主を務めた私が還俗間近とはいえ未だ僧籍にあり、読経の差配や来客対応に忙殺された事。
なにより戦国チート爺の名を恣にした朝倉宗滴。
その後継者として遺憾なく実力を発揮した朝倉景紀。
彼らと比較して兄の実力・実績は今ひとつでした。
そのため、越前国北部を基盤とする大野郡司朝倉景鏡や安居城主朝倉景隆・景健親子の勢力に終始押され気味であった事。
――要は敦賀郡司家は舐められているということです。
「・・・はぁ・・・」
誰もいない自室であることも手伝って、ため息を止めることも出来ません。
「心が重いですねぇ・・・」
これから私が敦賀郡司家を率いていくというのに、気持ちは沈んだまま浮かび上がることはありません。
なぜならば・・・
「・・・あと六年足らずで滅びるんですよねぇ・・・敦賀郡司家」
そう、割拠する群雄達の波に飲み込まれ、朝倉一門の中で最初に滅びる運命にあるのです。
どうして、そんなことがわかるのか?
今を生きる私達の足掻いた様を歴史として親しんだ記憶があるのですよ。
葬儀の最中に急に湧いて出てきたのです。
これは前世の記憶と言っていいものでしょうか?私からしたら未来の記憶となるのですが・・・
答えの出ることのない考察の海に沈むことしばし、小者がやって来る気配を感じて若干無理矢理にですが気を取り直します。
「松林院様、伊冊様がお呼びでございます」
「承知しました。直ちに伺うと伝えなさい」
さて、思い悩んでいても始まりません。マトモにやったら六年足らずで滅びるのであれば、手段を選ばなければどこまで生き延びられるものでしょうか・・・
前世の私は歴オタと呼ばれし者、中でも歴史に”もしも”が存在しないことは重々理解しつつ、”IF”を妄想して愉しんだ度し難いイキモノであったようです。
あの時の妄想を検証できると考えれば今の状況も決して悪くはありません。
どうせ失敗しても滅びるだけです。元来とそう違いはないでしょう。
「父上、鷹瑳です。入りますよ」
返事を待って部屋に入ると、なんと父上がお一人でお待ちでした。
「鷹瑳、兵を集めよ。景鏡を成敗いたせ」
低く重苦しい声色から、父上がよほどの激情を無理に抑え込んでいるのがうかがえますね。
その上でこの言いよう、人払い済みであることがかろうじて怒りに血迷っていない証左でしょう。
これは拙いですね。
言い回しを誤れば忽ち暴発する虞があります。
「父上、お気持ちは重々お察しいたします・・・が、それでは景鏡の首には届きませんよ」
父上の目が大きく見開かれました。
「何を言うか!大野勢ごときに後れをとる我等では・・・」
「一乗谷が敵に回ります。一門の和を乱す騒乱は見過ごせぬかと。
さすがに敦賀郡のみでは対抗しきれません」
激昂を制するタイミングで投げかけた私の言葉に、父上は一瞬だけ怒りの思考から離れたようです。
「フン、先に一門の和を乱したのはあ奴らであろうが」
父上が不機嫌な顔を隠さずに吐き捨てました。
「しかしながら、あ奴らは加賀にて武功をあげております。
一乗谷がどちらに肩入れするかは明白かと・・・」
父上の瞳から激情の狂気が薄れ、理性の光が点り始めましたね。
まだ少々不安ですが、今後の議論を始めるとしましょう。
「父上。父上は真に兄上の無念を晴らしたいとお考えなのですか?」
「無論であろう!かような理不尽、断じて許せぬわ!」
当然、父上は怒り交じりに反応します。が、ここは深堀りが必要な場面です。
「ならば何故、短慮に兵を起こすのです?
拙僧の見立てではまず失敗すると読みます。
真に兄上の無念を晴らそうとしているとは思えません。
――さらにもう二点」
「・・・なんだ」
憮然とした表情ではあるが聞く気になってくれたようですね。
「一点目。兄上の無念を晴らせれば、敦賀郡司家が滅びても構わないのですか?
さらには父上や宗滴公が守り立ててきた一乗谷宗家を敵に回しても構わないので?」
「・・・御家を滅ぼすことは許容できぬ。それは譲れぬ。比べれば・・・一乗谷は、儂や義父上の誇りや面子などは・・・犬にでも喰わせよ」
おおぅ・・・そこまで言いますか・・・勝てばよかろうの敦賀郡司家の覚悟はすさまじいものがありますねぇ。
「二点目。父上はご自分の手で仇討ちを行うことに拘りがございますか?
御身の時間の無さ故の焦りが感じられます」
「・・・間もなく還暦の爺だからな・・・そうか、儂は焦っておったか・・・」
史実では私より長生きするのですが、まぁとにかく父上の瞳に理性の光が完全に点ったのが確認できました。
さてここからは私のターンですよ!
私なりのやり方で兄上の仇討ちです!
そもそも理不尽に兄を殺され(※自害です)怒っていない訳ありませんよねぇ!?
あ、キレてないっすよ?私をキレさせたら大したモンですよ?私は冷静です!
「儂が落ち着いたかとおもえば、なんぞ突然不穏な気配を醸し出しおって・・・」
あ、いけません。父上が呆れた眼を向けてきてます。
「オホン・・・失礼仕りました。怒りで我を忘れそうなのは父上だけではございませんので」
「そうであったな・・・よくよく怒りは視野を狭める物よ。
さすれば彦四郎よ、其方ならばどう手を打つ?この隠居爺に教えてくれぬか?」
気が早いです父上。私はまだ僧籍におります。
俗世の輩行名で呼ぶのはお待ち下さい。
私を当主として認めてくださった故のお遊びなので悪い気はしないですが。
「そうですな・・・拙僧の手を打つ前に、川島にある父上の隠居所の周囲に五十名程の寝起き処を用意いたします。
そして五十名の兵を置きます」
「なんじゃ、結局兵を集めるのか。しかし戦をするには少なすぎるの」
その通りではあります。が、ゼロではない事が重要なのです。
「この兵は常に置きます。
農繁期であろうが雪で閉ざされようが、常に父上のもとにいるとお考え下さい。
ただし人員は定期的に入れ替えますので、父上には調練を願います。そして・・・」
父上と私の口元が黒い笑みに歪みます。
「あ奴めが隙を晒したら、その手勢で首を取るのじゃな?」
「左様です。しかし御家を滅ぼすことなく首が取れそうであることが前提となります。
あくまで相手が失策した際に咎める為の備えでございます」
相手が隙を晒した際、こちらが打てる手を準備しておくこと。
その事実が、相手の動きを掣肘することにつながるのですから。
「あ奴めもそこまで阿呆ではなかろうが、分かった。
儂とあ奴が刺し違える好機があればよいがなぁ・・・して、儂は静かに牙を研げばよいかの?」
「いえ、寧ろ騒いでください。
朝倉孫八郎は許せぬ。もはや同じ屋根の下に在ること能わず。
隙あらば首を取ってくれる。と」
父上が傍らにのけていた湯呑を手に取り一服する。
「静かであれば逆に不自然か。
儂が騒いで衆目を集めている間に、其方が手番を回すのじゃな?」
私も父上に合わせて白湯を一服。
「ふぅ、そういうことになります。
拙僧は文弱で、父上に振り回されている体で無害を装い、マトモな武士では目をつけない部分で力を蓄えます」
外部からみて歴戦の猛将である朝倉景紀と坊主あがりの朝倉景恒では器量が違いすぎる。景紀の暴走を制御しきれない無能と映るでしょうね。
そうやって誰もが私を侮り、ろくに目を向けていない間が勝負となるでしょう。
「ふむ、それで一乗谷もろとも大野を殴り倒すと?」
「父上・・・いくら何でもそれは無理がありましょう。そもそも拙僧は一乗谷への奉公を辞めるつもりはありませんよ。それが当家の在り方ですから」
前世の記憶が入って大分歪みましたが、私は敦賀郡司家の男であることは変わりありません。
織田との関係性さえ何とかなれば一乗谷が生き残る目があるのですから、無意味に敵対して潰すのは抵抗があります。
「そうだな、できればその方が良い。ではいかにして大野を孤立させるのだ?景鏡めに流言などは元々の評判が悪すぎて碌に通用せぬぞ」
ですよねぇ・・・さらに言えば彼は謀反人の息子です。
そんな悪評の中、兄上の時代には当家をしのいで朝倉家ナンバー2までのし上がったのですから、その実力は確かなものです。
ゆえに越前国内の理屈ではないところから攻めましょう。
「畿内の権威を利用します。公方様に朝倉孫八郎景鏡討伐を命ずる御内書を認めて頂きます」
「はぁ?」
おお、父上の呆気にとられた顔とは、珍しい物を見ましたね。
「無論、一朝一夕にいくとは思いません。しかし、これから畿内は大きく荒れます。五年先、十年先を見据えて動けば、不可能ではございません」
私の予言じみた言葉を聞きとがめて、父上は身を乗り出して声を少し小さくしました。
「待て、畿内が荒れると?今は六角も三好も事を起こすような余力は無いはずじゃ」
「いえ、余裕が無いからこそ乱が起こるのです」
父上の頭に疑問符がついていますね。
「どういうことじゃ?余力がなければそもそも動けんじゃろう」
「余裕と余力は違います。三好も六角も行動を起こすような余力は失ってはおりません。
しかし、観音寺崩れと三好修理殿の遠行により両家とも不測の事態に対応するような余裕が無くなりました」
腕組みをして考え込む父上。少しは納得していただけたのでしょうか。
「だというのに公方様は今までと変わらず三好を討てと声高に訴えておられます。
三好は洛中に公方様がおわすことを許容出来ますまい。
そして六角も朽木谷に公方様を受け入れる余裕がございません。となれば・・・」
「・・・若狭か。そうなれば我等の手が届く。しかしそう都合良く事が運ぶかのぅ?」
それは机上の空論ではないか、と疑念がぬぐえないようですね。
まぁそれは私も同じなのですが。
「わかりませんね。故に都度臨機応変に方針の見直しを行います。
その上で優先すべきは当家が力をつけること。
大野との力量差が大きければ一乗谷に大野を見捨てさせる余地もあります」
「なるほどのぅ・・・よかろう、敦賀郡司家は其方の差配に任せよう。
儂にも役割があることだしな」
よし、これで敦賀郡司家内で行動の自由を得ました。
「承知いたしました。お任せください」
とはいえ六年で出来ることはそう多くないのです。
内政チートなどの試行錯誤に時間がとられる物はリスクが大きすぎてやるべきではないでしょう。
やるとしても工業系だけですね。
農業改革なんかは六回しか試せませんし。
となると打つべき手筋は・・・あぁ・・・もし私に次の転生があるとしても、少なくとも修羅道に堕ちるでしょうね・・・
だが構いません!
敦賀郡司家の為であり、同時に私を含めた歴オタ共の妄想を実現する為であれば!
畜生道や餓鬼道から徳を積み直すことも厭うことではありませんよねぇ!
朝倉景恒の通称・輩行名:調べてみたんですが、作者の力量不足のためわかりませんでした!
だもんで、景恒の息子とされる人物(だいぶ怪しい)、朝倉道景の仮名「彦四郎」から取ることにしました。
当作には朝倉道景なる息子は存在しませんので、活用させていただきます。
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読んでいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク・★評価・感想等お願いいたします。
・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。
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