(プロローグ)答01:歴史よ!刮目せよ!総てを賭けて挑む生き様を!!
作者名どおりのメンタルなんでお手柔らかにお願いします。
元亀元(1570)年5月下旬、越前国敦賀郡 金ヶ崎城
記憶を取り戻してから六年弱、永かったのやら短かったのやら。
「疋田方向に狼煙!!色は赤!!浅井備前殿に動きあり!!」
「狼煙は何本上がっていますか!?」
「二本です!!浅井殿は当家に合力する模様!!」
生き延びようとなんとかもがいてきた積み重ねが、今、問われようとしています。
織田弾正大弼殿と幕府の愉快な仲間たちによる若狭・敦賀侵攻から約一月。ようやく盤面に動きが出ましたか。
浅井殿がこちらに味方してくださったのはいい材料です。
彼らは私につくか、大野につくか、魔王につくか選べる立場にいたのですから。
私を選んだことを後悔させないように全力を尽くしましょう。
さぁいざ、行動開始!と動こうとした私の拳を、柔らかいものが包みました。
「彦四郎、気負い過ぎてる」
私の手を優しく握る水干姿の妙齢の女性、おゆきが自分でも気が付かない小さな緊張をほぐしてくれました。
「ゆき、有難うございます。よく気が付きましたね」
私の畏れを。
「ずっと、見てきたから。六年にわたる彦四郎の挑戦を」
見るだけに留まらず、財務担当として盛大に巻き込んで使い倒した訳ですが。
その事を思い返せば、適度に力が抜けていきます。
「よろしい。関峠沖に潜んでいる十兵衛にむけて狼煙をあげよ!
『行動開始。国吉城に入り封鎖せよ』
敦賀に作り出した地獄の鍋に蓋をします。ここで織田殿を討ち取りますよ!」
私の宣言に合わせて快哉とも怒号ともとれるような鬨の声が上がります。
「さぁ総員聞きなさい、これから忙しくなりますよ!
第一目標である織田殿は必ずや鍋の割れ目を探し出して突破を図ってきます!
軍勢で抜けられないのであれば単身となってでもね!
もっとも捕捉の可能性の高い国吉城近辺に展開する十兵衛にはいい含んであります。
が、織田殿の天才的な戦術眼を考えるとどこに現れても不思議ではありません!
各々気を引き締め、織田方の首ひとつ挙げる毎に織田殿の喉元に近づけると心得なさい!!」
私の訓示を受け、各員は事前に取り決めたとおりの行動を開始しました。
皆の士気は充分のようです。一月もの間、撃退してしまわないよう手加減した籠城戦をこなしてきただけにやっと暴れられるという気持ちが大きいのでしょう。
「ああ、それから」
傍らの小姓に声をかける。
「狼煙が上がれば、事前の取り決めどおり、敦賀の町衆が織田・幕府方の首と証文持って押し寄せてきますからね。
混乱をきたさないよう準備をしっかりしておくように勝手方に伝えてください」
「ははっ!」
よし、これで私のやることはひとまず終わりました。
結局、この金ヶ崎城を織田軍が抜くことはありませんでしたね。
・・・え?金ヶ崎城なんてたった一日で陥落しただろうって?
はい、ここで一旦情報を整理しましょう。
そもそもお前誰やねんという方も多いでしょうから。
まずは織田信長、ご存じですよね。
彼の覇道のちょうど中間ぐらいの時期、幕府に従わない越前朝倉氏を討伐しようとする話はご存じですか?
――そう浅井長政の裏切りによって撤退を余儀なくされる『金ヶ崎の退き口』です。
この戦役はわかりやすく信長の負け戦として有名ですよね。
しかし、浅井が裏切るまでの道中は順調そのもので、途中にある城なんかはたった一日で降伏させちゃったりしてるんですよ。
・・・えぇ、この一日でワンパンされた城がここ、天筒山・金ヶ崎城です。
そして敦賀郡司という南蛮世界における辺境伯のような立場にありながら、情けなくもあっさり降伏した城主が私、朝倉中務大輔景恒なのですよ。
無理もないのですがね、祖父・朝倉宗滴の時代とくらべて兄と私の代といったら・・・
兄は戦場で内輪の諍いから自害、私はそれを引きずって大野郡司・朝倉景鏡との内輪もめに興じていたわけですから、そりゃあ魔王にワンパンされる道理ですよ。
本来であれば。
えぇ、本来ならそうだったんですけどね。
まぁ見ての通りの有様でしてね。
「彦四郎」
ゆきが私の顔を見上げてきます。
彼女は理解しているのです。今、私が引き返せない一線を踏み越えた事を。
「心配要りませんよ。自分でも不思議ですがね、妙に心は凪いでいるんです」
しかし彼女は露骨な疑いの目を向けてきます。
「彦四郎」
「はい」
「あなたは敵将、織田弾正を評価している。英雄だと思ってる。おそらく、日本の誰よりも」
「はい」
それは事実です。この時代の誰よりも私が彼を評価しているでしょう。
「でも殺す」
「はい、だからこそ、です」
ゆきが不思議そうに問いかけてきます。
「なぜ?ちょっと妬けるぐらい弾正のことが好きなのに?」
「え?なんですかそれ?」
ゆきが溜息をつく。
「寝物語でアレだけ聞かされれば嫌でも思い知る。桶狭間だの稲生だの村木砦だの」
「そんなに語ってました?」
「自覚無いのか・・・」
いや、信長以外の逸話も結構語ったと思うのですが・・・大楠公とか元寇とか源平合戦とか。
「ズレたこと考えてる。大事なのはそこじゃない。
なぜ?あれだけ好きなら普通、仲間になる」
あぁ、そういう事ですか。言いたいことはよくわかります。
最初は私もこう考えましたから。
『いかに効果的に魔王にしっぽを振るかが勝負だろ。JK』
「六年もあった。あなたなら織田と朝倉を仲良くするのも簡単だった」
「・・・」
そうですね。それが、私の業なのでしょう。
「だのに、あなたはずっと、弾正を殺すことだけを考えていた。
敦賀を滅茶苦茶にし始めた頃は分からなかった。
でも今ならわかる。弾正を殺すため、ただそれだけのために敦賀をここまでにした」
「否定、できませんねぇ」
当家が滅びる定めの改変のため、という自分への言い訳のもと、何でもやりましたからね。
商家を潰して財産巻きあげたり、ヤクザ者使って(敦賀以外の)民衆やら武家から絞りとったり、海賊と密貿易したり。
そしてその資金を元手に敦賀を魔改造した訳で。
「地図」
「はい」
ゆきの望むままに、敦賀郡の地図を広げました。
この図をご覧いただきますとわかる通り、敦賀は三方を山に、一方を海に囲まれた平地です。
そう、あの鎌倉と似たような地形なのです。
「北から、敦賀武装商船団、金ヶ崎・天筒山城、そして愛発・疋田城」
「敦賀への出入り口ですね」
後は西の関峠。これら以外からの出入りはほぼ不可能です。単身で山越えでもしない限り。
「様変わりし過ぎ。魔改造?彦四郎の言葉は時々よくわからない」
「三万もの軍勢を押しとどめる鍋を築くんです。まだ足りないかと不安なぐらいですよ」
本来のようにあっさり抜かれるわけにはいきませんからねぇ。
補給・兵站含め年単位で耐えれるようにしたつもりです。
「敦賀を発展させて、三万の軍勢を容易に呑み込む鍋にする。正気の沙汰じゃない」
「実際に戦端が開かれているのは天筒山周辺のみですから、そこまで酷いことではないでしょう?」
「おばか。毎日食って糞して寝る。一ヶ月もこんな客が三万人。酷くないわけがない」
それができる程度には敦賀を発展させましたし、何が問題なのでしょう?
「敦賀の民は大迷惑。荷が止まって京の都も大迷惑。公方様は大変」
「いや、民衆はともかく公方様は自業自得・・・」
それに敦賀の民衆には自警団作って織田軍と連携して治安維持するよう対策を授けてありますし、織田軍と幕府軍に物資売りつけて儲けているわけですから一概に迷惑とは・・・
「そういう問題じゃない。彦四郎、あなたが血迷わなければこうならなかった」
「あー、まぁ確かに」
敦賀での戦争を避ける努力は一切していません。
ですが、仕方ないでしょう。魔王を仕留める方法など、コレしか思い浮かばなかったのですから。
「で、若狭の国吉城」
「鍋の蓋ですね」
これから十兵衛が入城して魔王の退路を断つ。責任重大ですよ。
「わけがわからない。弾正達が通り過ぎる迄は幕府軍、今は朝倉軍?」
「最初から朝倉軍だったんです。ただ城主が自分は幕府軍と心から信じていただけで。十兵衛が誤解を解いてくれるでしょう」
朝倉に抵抗し続けた国吉城主、粟屋勝久。しかしその正体は!?っていうとミステリー味ありますねぇ。
「どんな手妻か、うちに教えない所を見ると、おおよそ人の道から勢いつけて飛び降りるような所業なんでしょ」
「ゆき、世の中には知らないほうが良いことが沢山あるのですよ」
洗脳・薬物・暗示、まぁ碌なもんじゃありません。
「そこまでして弾正を殺したかった。人の道を外れてまでも。妬ける」
「いや最後、意味がわかりませんよ」
ゆきが特大の溜息。
「察しが悪いのはもう諦めてる。
とにかく、うちは彦四郎に付いてく、何処までも」
「はぁ・・・」
何を怒っているのかさっぱりわかりません。
「で、本題。あなたが凪いで見えるのは錯覚。麻痺してるだけ。それを自覚しなさい」
「麻痺・・・ですか」
確かに高揚感みたいなものもありませんが。
「あなたはもうやるべき事を終えた。あとは運否天賦、結果を待つだけ。
出した指示は偏執的すぎてキモい。何あれ?個人個人の顔を見てでも弾正を討てって言ってる。しかも敦賀の民が落ち武者狩りするのも計算のうち。キモい」
「キモい・・・」
酷い言い草ですね。
「キモいほど入れ込んできた作業が手を離れた。だから燃え尽きてる。この後は虚無が襲ってくる。結果がどうあれ」
「燃え尽き・・・」
確かにそういう面はあるかもしれません。
「寝言」
「寝言?」
唐突に話題変わりましたね。
「言ってた。『歴史に挑む』って。『歴ヲタがどうこう』というのはよく分からなかったけど」
「わからなくていいです。忘れなさい」
寝ぼけて口にしたんでしょうか?歴ヲタ特有の妄想を。は、恥ずかしい・・・
あ、いや、そこの歴ヲタのあなた!!あなたにもあるでしょう?もし自分が戦国武将だったらというIFを愉しんだことが。
今の私はまさにそんなシチュエーションなんですよ!?
妄想垂れ流すのは不可抗力ですよね?ね?
「で、思った。弾正を殺すのは『歴史に挑む』ため。意味はよく分からないけど、神仏に挑むような悲壮感があった」
「どんな寝言だったんですか・・・」
神仏というか、『歴史の修正力』というものに抗うわけですから、それは大変覚悟がいりますけど。
「でもね、それって多分、弾正殺しても終わらないよ?
彦四郎。それはあなたが生きている限り挑み続けるモノだと感じた。
だから、しっかり自分を見て。誤魔化さないで。必要な分だけ休んで、また挑もう?
うちは何処までも付いてくから」
「生きている限りねぇ。そうかもしれません」
今まで魔王を討つ事に集中し過ぎて視野狭窄に陥っていたかもしれません。
「視点を変えればまだやる事はたくさん残っている、と。
まぁそもそもの話、相手は第六天魔王です。コレだけやっても歴史改変が成るかは五分五分でしょうから、燃え尽きてる場合じゃ無いんですけどね」
「え?あれだけねちっこく殺しにかかっておいて?本気で言ってる?キモ・・・」
失礼な。仕方ないじゃないですか、相手は魔王ですよ?
魔王殿は戦略レベルでは超優秀な才人です。
バケモノではありますが、まだ理解の範疇にあります。
ところが、普段自重している戦術レベルで強引に何とかしようとした際の彼は――名状しがたきナニカ、なのですよ。
起きた現象は認識できます。
しかし何故そうなったのか、全く理解できません。
村木砦とか天王寺とか。どうしてああなるのでしょう?
「討ったら討ったで、その後の歴史のうねりに対処を。討てぬならばもう魔王討伐は断念して、次善策を打たないとなりませんか」
「その調子。呆けてるよりそう考えた方が良い」
歴史に挑むのをライフワークとする。
それはそれで悪くありませんね。
「ま、その前にこの挑戦の結果を待たないといけませんけどね」
果たしてどうなるでしょうか?
歴史に挑む重圧を感じます・・・
いや、弱気はいけませんね。
歴史よ!刮目せよ!
私は己のすべてを懸けてあなたに挑みます!!
見届けなさい、総てを賭けて挑む生き様を!!
――人事は尽くしました。
私が家督を継いでからもがいてきた軌跡を思い返しながら結果を待つとしましょうか。
読んでいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク・★評価・感想等お願いいたします。
・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。




