答30:そりゃ『話せばわかる』なんて言葉が出た時点で既に負けてますよねぇ!!
元亀元(1570)年4月下旬、越前国敦賀郡 金ヶ崎城 自室寝所
「いよいよです。魔王・織田信長が数日のうちにここ、敦賀へと来襲します。
一介の歴オタの残滓が、よもやこのような晴れ舞台を・・・台無しにできるかもしれないとはね」
昏い歓びが湧き上がってきます。
信長という、歴史に愛された傑物の覇道、輝かしい天下統一への道を阻む。それも、秀吉のような引き継ぐ者もいない形で。
これは歴オタ冥利に尽きるというものです。リアル某野望ゲーをやっているようなものですからね、未来知識というズル付きで。
「ざんねん!信長の冒険は、ここで終わってしまった!・・・と言えるように祈りますか」
失敗すれば私のような木端者は、大いなる歴史の流れに押し流され、信長の覇道のかけらに成り果てるでしょう。
・・・正直に言いましょう。怖いのです。結果がどう転ぼうとも。
どれほど手を尽くそうが歴史の修正力の前では無意味なのかもしれない。
逆に、私が起こした蝶の羽ばたきが地球規模の悪影響をもたらすかもしれない。
ここで力及ばず果てれば、祖父・宗滴を追いかけて地獄の道行き。
いままで歩んだ修羅道が実を結び魔王を討てば、歴史は大いに乱れて残るは、まっさらな道なき新雪の世界。
いずれにせよ、今までの知識経験が意味をなさない、その上で道を決断し、突き進む必要があります。
「どう転ぼうが・・・逃れることなどできませんか・・・」
情けないですねぇ。覚悟など六年前に決めたと思っていましたが。
彦四郎、いや朝倉景恒!どれだけ怖がろうと手遅れです。既にお前は踏み出しているのです。
「そう・・・十兵衛を引き入れた時点で、『私の知る歴史』からは逸脱しているんです。
いい加減覚悟を決めなさい」
半田又八郎や寺田采女のような福井県史にちょっとだけ記されているようなのとは違い、明智十兵衛光秀はこの時代の主役級ですよ。
そんなのの人生を変えておいて今更怖気ずくわけにはいかないでしょう!
「ふーん。十兵衛さん、妙にこき使うと思ってた。
大物だったんだ。彦四郎の中では」
ゑ!?
「・・・ゆ、ゆきさん!?・・・なぜここに!?」
いろんな意味で。いやいや、ここ私の寝所ですよ?年頃の娘さんが居ていい場所では!!
て、それ以前に!瀞定先生と一緒に川島の父上のもとに避難させたはずでしょう!?
「籠城の間、うちの仕事を治三郎にやらせる?無理、治三郎を殺す気か。
あいつはあいつの仕事で忙しい。引き継ぎなんかしてる時間ない」
いやいや、治三郎のところにはほかにも文官衆が居るんです!どうとでもなりますから!
「で、十兵衛さん城から出したでしょ。敦賀水軍・・・じゃなくて、武装商船団?のなかに紛れさせて、何するつもりかは知らないけど」
敦賀水軍?そんなものはない。あるのはあくまで道川兵三郎率いる民間企業の敦賀武装商船団です。イイネ!?
「十兵衛さんが持ってた事務仕事、うちに引き継いでいった。つまり最初から皆うちを避難させるつもりなんかない。彦四郎を除いて」
はぁ!?うぉのれキンカン頭!いたいけな娘さんを鉄火場に置き去りにするような外道な真似を!
「ズレたこと考えてる。十兵衛さんだけじゃない。治三郎、強右衛門達から、隠居やめて戻ってきた半田爺にいたるまで、みんなうちの味方」
ゑゑ!?私の味方がいない!?
「しかしですよ!ここはこれから戦場になるんです!道川殿になんと申し開きをすれば!?」
私の嘆きに、ゆきは特大のため息で返してきます。
「手遅れ。というか父様に言い訳なんか要らない。うちが金ヶ崎に残るのは当然と思ってる。
父様の中ではもう、彦四郎とうちは一蓮托生。無理に引き離したらその方が怒る」
理解しがたい内容の言葉に混乱する私の前に、ゆきが手紙を差し出してきた。
「おちつけ。まずは仕事の話。浅井備前殿からの文書。読んで」
むむ・・・何々、此度の幕府軍からは南近江で六角が蠢動しているのを名目に京極ともども離脱、ですか。
まぁ想定通りですねぇ・・・六角が南近江で暴れだしたのも事実ですし、違和感を持たれることもないでしょう。浅井家はうまくやりましたね。
それで、朝倉式部から指示が来た?『敦賀を放棄し木の芽峠で迎撃する。貴様は後方から幕府軍を挟撃せよ』この話は事実か?ですか。
うん、まぁ史実ではそうだったわけですし、一乗谷の認識では敦賀には多くて五千でまともな砦は無し。三万の幕府軍相手では持たないと判断するのは自然ですよね。
――しかし。
「少なくとも私はそんな指示知りませんし、敦賀は全力で抵抗します。
浅井殿には私らの戦いをしっかり注視して、勝ち馬にのれる時期を見落とさないようにお勧めしますよ」
私の言葉にゆきは大きくうなずくと、懐から別の文書を出してきました。
「そういうと思ってた。これ返書。問題なければ花押書いて」
ふむふむ。内容に問題はないようです。では朝倉中務大輔景恒、と。
「よし。治三郎!」「はい!」
え?宿直してたの治三郎?あなた幹部でしょう・・・なんでそんな仕事を?
「これ返書。使者を見繕って届けるように。で、今日は戻ってこなくていい。というか今夜は誰も近づくな」
ゆきさん!?
「承知しました!では!」
治三郎!?宿直の仕事は!?
「今日の宿直は雪之丞。小姓だし問題ない」
いやいや、問題あるでしょ。雪之丞ことゆきさんは年頃の娘さんなんですよ!?
私のような野郎と二人きりとか・・・
「彦四郎。あなたとうちは長い付き合い。あなたが坊主修行、うちが八つのときが最初だった」
「そうでしたねぇ。あんな小さな子供が、恐ろしい速さで文書を捌いていて驚いたのを覚えていますよ」
ゆきさん?なぜため息?
「それが原因のひとつか。彦四郎、わかってる?うちは十九になった」
「えぇ、ですから私のようなものと二人きりとかは避けて、もっと慎みを・・・」
お嫁にいけなくなってしまいますよ!
「もう婚期は過ぎた。彦四郎が庇護すべき子供だと思っていた間に。
でもうちはあなたの娘じゃない。彦四郎がどう思っていようが周りはどう見ると思う?若紫もかくや」
え?あ、そうか!戦国時代は結婚早かったっけ!
まずい!道川殿に申し訳ないことを!っていうか道川殿、ゆきの嫁ぎ先をなぜ考えない!?
「最後の方聞いてた?父様はとっくに嫁に出した気でいる。彦四郎、あなたに。
武家と商家だから側室になる。だから婚儀もなくて当たり前。
最近の父様は会うたびに『孫はまだか?』とうるさい」
Orz・・・なんという・・・ゆきの幸せを踏みにじってしまっていたとは・・・
「やっぱり通じてないな。子供扱いのまま。血のつながった親より過保護。
こりゃ大変。覚悟を決めろ、道川ゆき」
ゆきが両手で頬を押さえて深呼吸。
「大丈夫。家臣たち外堀も、伊冊様たち内堀も埋まってる。後はコイツだけ。
――彦四郎」
「な、なんでしょう?」
鬼気迫る勢いに思わず気圧されてしまいます。
というか!顔!近い!!
「過保護な彦四郎。客観的に考えて。
うちはこの歳で未婚。そういう女はだいたい問題を抱えてる。
わかりやすいのは容姿。
ひ、彦四郎から見て、うちの容姿はどう?」
結婚相手としての容姿ですか・・・過保護な欲目ではなく、客観視点で。
要するに嫁という商品としてどれだけ高値で売り出せるか?ということですよね。
「容姿は整っている方でしょう。
背は低めでやや痩せ型とは言え、違和感を感じさせるようなものではないですね。
私が連れ回す関係で髪は腰上で切り、水干に烏帽子姿ですが、打掛を纏えば公家の姫君と言っても通じますよ。髪はよく伸びる美しい髪質をしていますし。
なんと言っても小さくしっかりと整った顔をしていますからね」
あれだけ食べても身体が大きくならないのは不思議ですが、その分肌や髪がきめ細かく美しいですし、現代ならアイドルにスカウトされてもおかしくないでしょ。
まぁこの娘さんの真価はそこじゃなくて、業務システム様と揶揄できる計数・事務処理能力なんですが。これに栄養取られすぎて身体が大きくならなかった疑惑も・・・
「彦四郎・・・それ全く褒めてない。嘘でもふくよかで美しいって言え。
まぁでも彦四郎が本気で言ってるのは分かる」
「ゆ、ゆきさん!?」
さらに近づいてこないでくださいよ。
ぶつかっちゃいます。
「うちは他人から見て美しい方じゃない。わかってる。
でも彦四郎から見たうちは美人。それで十分」
ちょっと、もう後ろは寝台だからこれ以上下がれません。もうちょっと離れて・・・
「ゆきさん、近い!顔が赤いで・・・むぐぅ!?」
せ、接吻で口をふさがれた!?
あ、ちょっと!?寝台に押し倒さないで!?
「ぷはっ。彦四郎は言った。『責任とれる範囲で自由に行動する。それが大事』と。
責任は果たす。産む。育てる。だからやりたいようにする」
産むって!?私に子供がいたら七郎丸ともめる・・・って違う!そうじゃない!
私なんぞに引っかかってはゆきの幸せな家庭が!?
「うちの覚悟はもう決まってる。彦四郎についてく。どこまでも、地獄の果てまで。
で、彦四郎だって嫌がってない。それくらいわかる」
ちょっと!下帯!下帯はやめてぇ・・・
「彦四郎。うちはあなたの子供じゃない。ちゃんとうちを見て。ひとりの娘として」
「ゆき・・・」
たしかに親目線だったのでしょう。それを除けば、ゆきは実に私好みの美人なんですよ。戦国時代の美しさの基準とは外れていますが。
しかし、それだけに私がゆきをしっかり幸せにできるか、というと・・・
「それはそれとして襲う。彦四郎の覚悟を待ってたらおばあちゃんになる。
天井のシミでも数えてろ。痛くしないようにがんばる」
ゆ、ゆきさん~!?!?
は、話せばわかる!・・・だろうけど、聞いてくれない!!
そりゃ『話せばわかる』なんて言葉が出た時点で既に負けてますよねぇ!!
のしかかってこないで!?あ!そんなところを!?
武士が舐められるわけには・・・ってそれ今関係ない!!
ダメだ!!思考がまとまらん!!
ぬわぁぁぁぁぁ~・・・・
―――
――
―
や、やってしまった・・・
「スゴかった。もう動けない。襲ったつもりが襲われた。ケダモノ」
は!?そうでした。つい理性が飛んで・・・
「ゆき?体は大丈夫ですか!?」
「ん、大丈夫。痛くなかった」
寝台にぐったりと寝ていますが、ただ疲れているだけのようです。
「疲れた。一緒に寝る。そこの唐櫃に新しい寝具入れてある。取り換えて」
「はいはい。用意周到なことで」
私が寝具を取り換えて改めて横になると、ゆきが私の横にもぐりこんで腕を枕にしてきました。
「むふー・・・幸せ・・・」
そういって夢の世界に行ってしまったゆきを見ていると、私も幸せな気分が湧き上がってきました。
「・・・流された面は否定しませんが・・・幸せにしますよ、ゆき」
末永く爆発しろ下さい。
まぁ景恒君、ゆきを一廉の人物として尊重した上で、やりたいことを自由にさせてやり、フォローも欠かさないという前戯を延々と続けていたわけですよ。六年間も。
・・・そりゃ襲われるわけだw
んで、返り討ち。リバって、良いよね・・・(唐突な性癖開示)
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読んでいただきありがとうございます。
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・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。
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