答29:失敗は許されない一発勝負が迫ってきているのですよ。
永禄12(1569)年7月下旬、越前国敦賀郡 金ヶ崎城 月見御殿
「おじうえ!こんにちは!」
「いやぁ、大きくなりましたねぇ七郎丸。もう七つですか、時がたつのは早いものですね」
亡き兄上の忘れ形見で、敦賀郡司家の跡取りである七郎丸が父上と共に敦賀に帰ってきました。
まぁすぐに父上の隠居所である今立郡川島に戻る手筈になっていますがね。
魔王の襲来イベントが終わるまでは、何としても安全圏に居てもらわないと。
「金ヶ崎も随分と様変わりしたのう。まさか天筒山も含めて水堀と城壁で覆われとるとはな。
いち郡司が居館とは思えぬわ。一体何と戦うつもりなのじゃ」
何って、そりゃ第六天魔王率いるブラック織田軍ですよ。
のほほんとしてたら一日でワンパンされてしまいますからね。
「あー、名目上は確かに敦賀郡の領主でしかないですけどね。
実態としての当家は若狭全体と北近江の塩津浜を実効支配する大名家ですから。
相応の備えを行っただけですよ。
私はさておき将来は七郎丸の居城となるので、隙のある城にはできなかったわけです」
織田軍の猛攻をしのぐことが出来れば、いずれ七郎丸が城主となり大野や安居と渡り合う訳ですから。
「はん、孫九郎の頃より領地が小さくなった弱り目の郡司じゃと噂になっとるがな。
実際南条郡にあった知行地は召し上げられ、その分軍役割り当ても減っておるじゃろう?」
「おじいさま!いじめちゃダメです!おじうえはがんばっているんですよ!」
こら、ゆき!噴き出さない!七郎丸は真剣なんですから!
「ありがとう七郎丸。でもね、安心しなさい。当家は着実に強くなっています。
知行地の広さなど飾りです。一乗谷はそれが分からんのですよ。
これからは一乗谷が理解する強さだけでは通用しない時代が来ます。
おじいさまの元でしっかりと学びなさい。敦賀郡司家を継いだ時に困らないように」
「そう。七郎丸様、学ぶのは大事。でも真似はお勧めしない。
コイツの強さは武芸を極めた侍を落とし穴に嵌めて上から土砂を流し込んで埋め殺す、みたいなもの」
ゆき、言い方ぁ!それじゃ『フハハ、勝てばよかろうなのだぁー!』って叫ぶ卑怯な悪役じゃないですか。否定しませんけど。
「かつのがほんにてそうろう、ですね!
ぼくもしょうじんします!!」
あ、当家のノリって代々こんな感じでした・・・
「き、気を取り直して、父上。当家の兵数ですが、遠征のために軍役衆のみを無理なく招集するなら一万。
防衛戦であれば最大三万は動員出来ましょう」
防衛戦であってもフル動員するのではなく生産力を落とさない方がいい場合もありますので、魔王戦は一万で戦う予定ですがね。
民衆に残った二万は落ち武者狩りの際に暴れてもらう、ということで。
「はぁ?一乗谷からの軍役割り当ては?」
「そちらは千五百と言ったところです。父上の頃は二千でしたので、南条郡の知行地が減った分がちゃんと考慮されていますね。
仮に敦賀での防衛戦となれば、五千程度と見積もっているでしょうね」
石高から考えればそれが妥当。史実の金ヶ崎の戦いもそのぐらいだった訳ですし。
「・・・なんとまぁ。朝倉家全体であっても外征ならば二万五千弱と言ったところだぞ。
ならば敦賀は防衛戦ならば一乗谷に後れを取らぬ計算となる。
貴様が一乗谷での序列争いに不熱心なのも頷けるものだ、理不尽な指図は最悪無視する事ができるからな」
父上の言うとおり、一乗谷を向こうに回して耐えれるように、ここ金ヶ崎城を魔改造していますから。
弱点である中池見がダム湖という巨大な水堀に化けた副産物として今庄方向からの攻撃に対する防御力は爆上がりしています。
その上天筒山に据え付けた大筒が街道にしっかり照準を合わせているわけで。
「最悪の場合を想定するのは為政者の義務ですからね。
と言っても大野を除く朝倉一門に含むところなどありませんから、そんな事態にはならないように立ち回ります」
「仮にそんな事態となっても常時金ヶ崎におる兵士どもが大筒や鉄砲で追い払うだけ。敦賀は平時どおりか、恐ろしいのぉ。
あの大筒、街道を狙えるのじゃろ?一乗谷勢では取りつく前に壊滅じゃな。南蛮の武器とは恐ろしいの」
いやぁ、南蛮人の大筒、射程距離の長いカルバリン砲でも半里程もある街道迄、かろうじて届きはするでしょうが狙って当てるのは不可能です。
カルバリン砲をベースに、より長砲身でかつ火薬を工夫した結果なのですが、まぁ言葉にする必要はありませんね。
下手に間接砲撃の弾道計算やらライフリングやら時限式榴弾やら褐色火薬やらコーニングやらの話をしても変に混乱させるだけです。
まぁ、ブラック織田軍には使えないですしね。
下手に魔王が撤退したらその時点で詰み確定なんですから。
「そういう訳ですから、以前宣言したとおりマトモな武士では目をつけない部分で力を蓄えました。
これで大野など一息に攻め滅ぼ・・・せないんですよね。まだ時期が来ていません」
父上が身を乗り出し、そしてガクッと肩を落としました。
「畿内か。四職たる丹後一色が騒いどるらしいの。
自分たちが海賊働きのため若狭に乗り込んで来たにも関わらず、負けて捕らえられたものを攫われただのと幕府に訴えておるそうじゃな?
朝倉としても織田が仕切る幕府には思う所があって険悪な関係になりつつあるし、雌雄を決する必要がありそうじゃからな。そちらが優先か」
はい、私にとっての破滅である金ヶ崎の戦いに向けて着々と事態が進行していますから。
それを生き延び、かつ魔王の首を獲る。失敗は許されない一発勝負が迫ってきているのですよ。
「幕府に逆らうとはなんと畏れ多い!!とか言いませんよね」
「言うわけ無かろう・・・ただ儂らの上前をはねるだけの存在に成り果てとる幕府なんぞに尽くす忠義なんぞ当家にも一乗谷にも無いわ。
せっかく興福寺から救い出しても一乗谷で勝手なことを言い続けた挙句に砂かけて出て行ったのは公方のほうじゃからな。
越前のことは朝倉が差配する。幕府は口を出すな、と越前武士は皆思っておるじゃろう」
父上の言葉に私は特大のため息を漏らしました。
「本当はそれじゃ駄目なんですがねぇ・・・幕府なり朝廷なりが公正な律令を持って日の本全てを統制下に置かねば、この戦乱の世は終わらないんですが。
その末路は我ら日の本の民全てが南蛮人にひれ伏す植民地になるでしょう。
まぁそんな憂いなど現状では綺麗事で絵空事でしかありませんけど」
ま、金ヶ崎の戦いを乗り越えたら、あの足利芸人を支えて幕府の法の元での平和の実現を目指すのも悪くありませんね。
「ほほぉ?おもに振り回されとったのは彦四郎、お主じゃろうに。この越前でお主だけが公方に好意的――」
(ドドォォーーン!!)
「――なんじゃ!?爆音!?」
「おじうえ!おじいさま!!」
あ~・・・またですか。まさか旋盤なんかの工作機械を軽く超えて過去一苦戦することになるとは。ニトロセルロース、イケると思ったんですがねぇ。
「おじうえ?おばうえ?あわててない?」
「ん、この位は日常。おサイフもそこまで痛くない」
ゆきと私が動じていないのを見て七郎丸があっさりと落ち着きを取り戻しました。一拍遅れて父上も。
七郎丸、将来楽しみな胆力です。偉いですね。
「心配は要りませんよ。
新しい玉薬の研究をさせているのですが、保管が難しく直ぐ爆発するんですよね。
上手く行けば煙の出ない鉄砲隊が作れるんですが・・・数を作るのも難しい代物ですし、これこそ絵空事ですねぇ。現状では」
いや、簡単だと考えていただけにショック大きいですよ。
まずは鉛室法で得た硫酸の濃度が足りなくてニトロ化失敗。
濃硫酸を得るため蒸留したら硫酸ガスが発生して死人が出た。
やっとの事で出来たかと思えば酸がのこってて即劣化して爆発事故。ならばと草木灰で洗えば変質してゴミと化す。
というわけで真水でしっかり念入りに洗ったんですけど、それでも駄目でしたか・・・
うーん、木綿じゃなくて楮・三椏を砕いて煮込んで使っているのが良くないのでしょうか?今度は真水で洗う際に改めて叩いて砕いて煮込んで、紙漉きしてみますか。そこまでやれば酸は残らないでしょうし。
「・・・成る程。七郎丸の養育を儂に押し付けるわけじゃ。
こんな爆発が日常の環境とは、確かに幼児の成長に悪いわ」
「ご理解いただけたようで。まぁ幕府とのいざこざにケリがつく頃には落ち着きますので、それまではよろしく教育をお願いします」
父上に任せると、それはそれで敦賀郡司家らしい当主に仕上がりそうですが、まぁ許容範囲でしょうね。
ゆき「無煙火薬と狙撃銃。これで織田弾正を殺す?」
景恒「そんなんで死んだら苦労しませんて。杉谷善住坊やら天王寺砦救援時の雑賀衆でも魔王の射殺は叶わなかったんですよ?」
ゆき「じゃ、籠城時に武将を狙撃?」
景恒「それは可能でしょうけど、やったら魔王が危険を察知して即逃げします。詰みですね」
ゆき「?使えないモノ開発してるの?」
景恒「い・・・いやぁ~、最後の追い込みの際に行く手を阻む柴田やら丹羽やらを瞬殺する為にですね・・・」
ゆき「それ、今考えた言い訳。お金も人も無限にわいてくると勘違いしてる?反省しろ」
景恒「申し訳ありませんでした〜(土下座)」
※過去一苦戦したニトロセルロース
これは景恒の勘違いです。瀞定先生に丸投げせず口出し手出ししていたからそう感じただけ。
真の地獄は転炉。次いで高炉とコークス炉。
実際は耐火煉瓦の試行錯誤だけでニトロセルロースの苦労を軽くぶっちぎっています。
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読んでいただきありがとうございます。
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・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。
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