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問:兄が自害したので家督を引き継いだ瞬間に歴オタだった前世の記憶がよみがえり、詰んでる事を理解してしまった私、朝倉景恒の心境を答えよ  作者: 麺樽豆腐
第一部 歴史改変への道

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答28:たとえそれが我らに敵する道であったとしても、私はそれを尊重しましょう。

永禄12(1569)年1月中旬、近江国浅井郡 小谷城


「ふふ、承知いたしました。従兄様への文には熊谷殿との相談の結果を記載いたしましょう」


 ゆきの容赦ない発言に、お市の方がなぜか好意的に微笑みながら、織田家への誤魔化しを了承していただきました。


「ん、感謝。お礼に富国のお話をする。キモ男が。熊谷が言ったことにしておいて」


 あ、あくまでキモ男呼ばわりは止めないんですね。何か気に障る事をしましたっけ?


「え〜、気を取り直して富国強兵の話に行きますか」


 とはいえ、京極へ引き渡すことになる可能性が高い坂田郡が使いにくいのは痛いですね。

 姉川から南の、揖斐川から今浜までの陸上交易路に絡めないのは厳しいものがあります。

 おまけに鉄砲で有名な国友村も坂田郡ですし、大分やりづらいです。


「伊香郡・浅井郡の特徴として、北陸と東海の結節点となる北国脇往還を有しており発展の土壌はあります。

 しかし、この地域は木之本宿から姉川までを除き山がちで平坦な場所が少なく、さらには深い森に覆われている」


 下野殿が苦い顔で応じます。


「そうだな。正直、坂田郡を喪うと浅井家の国力は半減・・・は言い過ぎか。それでも大きく力を落とすことになる」


 そうなんですよねぇ。姉川から南の広い水田と集落、貿易港今浜、そして国友の鍛冶。重要拠点が多いのです。


「防衛を考えれば、なにより佐和山が痛手でござる。新たな国境となる広い姉川全体を護るのは厳しい」


 備前殿よりの指摘もまた尤もなんです。が、それは考えないようにしましょう。


「防衛については京極殿を信じるしかないですね。南近江が六角に襲われたら素早く佐和山に兵を入れる手はずを整えておけば何とかなります。

 さて、伊香郡浅井郡の産物で、まず需要が見込めるモノ・・・それは木材です。

 淡海に浮かべる丸子船から家屋の建材まで、質はともあれ量を求められる商品としてなら十分に供給できますよね」


「そうさな。紀州のような高級品には遠く及ばぬが、普段使いの日用品であれば十分に(あがな)える筈よ。

 しかしな、樹を伐るのも、運び出すのも人手がいる。

 伐る樹木が残っておる内はよかろうが、その後そ奴等の口を埋める飯を如何にする?」


 下野殿は後々のことを考えて二の足を踏んでいたのですね。


「やりようは色々とありますよ。北国脇往還の整備が完了するまでの期間限定で人足を募集するとか。

 敦賀には今も人が流れ込み続けています。そこから勧誘すればいいのです。仕事がなくなれば敦賀に帰りますよ。

 ほかにも田畑に向かない山地に集落を作らせる方法もあります。そこで暮らせる産業込みでね」


「ほう、今はなんの価値もない山地に住まわせ、銭を稼がせる訳か。

 必要な米は北国脇往還から運んでくればよい、と?」


 下野殿が興味深そうな顔で確認してきました。

 食糧自給率100%が当たり前であるこの時代の惣村において、京や堺、敦賀のような都市部を真似た集落を作ることに抵抗がなさそうなのはいい傾向です。


「そうです。ほかには塩津浜や今浜から運び込むこともできます。

 周囲全てが敵となり荷留めされれば話は別ですが、そんな下手は打たないでしょう?」


「はは、確かにな。作る米以上に人を抱える恐怖はあるにはある。だが所詮感情の問題よ、うまく回せばよかろう。

 して?田以上に稼げる生業(なりわい)とは?我らが行えるものがあるのであろう?」


 さぁ吐け!みたいに迫らなくても教えますよ。


「そうですね、思いつくのは(うるし)(よもぎ)(くわ)を山に植えつけ蚕を飼いながら塗師仕事をさせる、というのはどうでしょう。

 絹糸・漆器、どちらも高値で取引できます。

 すぐ近所に京という大消費地があるのです。売れずに困ることはないと思いますよ」


 納得顔の備前殿に対し、下野殿はやや怪訝な顔。


「敦賀で大規模に作らねば、の話だな。

 鉄がいい例だ。国友村の鍛冶師共でさえ、砂鉄を集めるのではなく、敦賀の銑鉄や刃金を買い加工するようになったのだ。

 あの規模で蚕を飼い始めてみよ。たちまち山奥の集落など押し流されよう」


 そりゃあ無理矢理産業シフトすればそうなりますけど、現実的には無理ってものです。

 敦賀には既に製鉄および螺子等鉄工品、造船、建設、運輸が主産業として存在するんですから、わざわざ大規模な紡績業には手を出しません。

 ・・・考えてみれば敦賀に重工業が集中しすぎている感がありますね。もう少し産業分散すべきでしょうか?


「敦賀の現状を視察したうえで、浅井家として判断してくださいね。

 私からは生糸などの軽工業に手を回す暇はない、とだけ。

 というか生糸紡績業は伊香郡浅井郡で敦賀のように大規模工場を作ってほしいぐらいなんですよ。

 できれば反物にまで加工して頂けるとなお良しです。高値で買わせていただきますよ」


 手が回っていないだけで、京どころか南蛮や明にだって自信を持って売れる商品ですからね。


「ちょっと話がずれますが、養蚕は浅井家向けである理由がもう一つあるんですよ。

 京極殿に譲るとはいえ小谷からほど近い国友村で容易に鉄砲が調達できる浅井家ならではの利点がね」


「面白い。先ほどの話に出なかった蓬が関係しそうだな。よもや蓬が玉薬に化けるなどということはあるまいが」


 鋭い。まぁ下野殿の口調からして諧謔(ジョーク)のつもりなんでしょうが、それが正解なんですよね。


「・・・そのまさかです。越中飛騨の境目にある山中の集落で研究されている秘事なのですが、すでにご存じとは・・・」


 あ、でも今の時点で五箇山・白川郷で硝石生産ってやってましたっけ?

 まぁ研究はしてるはずということで押し切ってしまいましょう。


「!?まて、儂は戯れを口にしただけぞ。それは(まこと)なのか!?」


「はい、蚕の糞尿を土・蓬と混ぜ合わせ、水の入らぬ床下で四、五年寝かせたものを煮込み、煮汁を乾かすことで塩のように硝石が得られるそうです。

 また須賀谷の湯にも、わずかながら硫黄が含まれているそうですね。

 硝石、硫黄、そして木炭。玉薬を調合するのに必要な材料が、なんとすべて領内で調達できてしまいますねぇ」


 備前殿、下野殿共に生唾を呑み込んでいます。

 まぁ無理もありませんね、鉄砲は硝石をいかに調達するかの勝負ですので、硝石の領内生産が実現すれば他者を大きく引き離せます。


 え?うちですか?コークス炉の副産物でアンモニアと硫酸が取れますし、南蛮人から白金を調達済みですので、うちの硝石生産力は桁が違いますよ?

 表向きは南蛮人や倭寇から買ってることにしていますがね。


「まぁ敦賀で実験してみた糞尿土がありますので、あとで送っておきますよ。いいよね?ゆき」


「ん、構わない。

 あれの作業担当は熊谷十郎だった。丁度いいからアイツにもっていかせる。

 硝石の作り方も実践させるといい」


 備前殿が喜びに震えていますね。


「そ、それが真でふんだんに鉄砲が使えるなら、義兄者の軍であろうと江北勢だけでも鎌刃城で押し返すのも夢ではない!

 幕府に従い坂田郡を差し出す必要も!?」


「おちつけ猿夜叉丸。仮に真であっても四、五年はかかるのだぞ。今この時には役に立たぬ」


 下野殿の指摘に、備前殿はそうでした、とうなだれてしまう。


「まぁ幕府に従うか否かはあとで話し合ってください。

 さて、人手と産業を手当てしても、今浜を喪う痛手は変わらない。

 京極殿の治世は長続きしないでしょうから、それまで待つのも手ですが・・・

 どうせならもう少し対策してみませんか?

 せっかく北国脇往還を整備するのですから、もう少し延伸してみてはどうでしょう」


「む、木之本から先か・・・しかし北国街道を今庄までとなると朝倉家との調整がなぁ」


 下野殿の脳内で一乗谷とのめんどくさい交渉がシミュレーションされているようですが、そんなことしませんて。


「違いますよ。北ではなく西です。賤ケ岳と木ノ本西山の間の峠道を開削するか隧道を掘るのです。

 そこからは湖岸を固めて街道を通し、塩津浜までつなげましょう。

 敦賀で荷下ろしした物品を、馬借が一息に木之本宿まで運び込めますよ」


 すでに敦賀~塩津浜間の深坂峠は発破による開削により荷車の通行も容易な街道と化していますから。

 それに比べればせいぜい5丁ぐらいの幅しかない木ノ本西山など、トンネルだって掘れちゃいますよ。


 その後の湖岸にしても、金ヶ崎港の整備で実績があります。

 鉄筋錬石の護岸工事は山からすぐ水面に沈むような地形でも効果を発揮しますから。


「山を・・・削る!?掘りぬく!?」


 備前殿があっけにとられていますね。


「なお、実施するなら費用は塩津浜持ちです。

 浅井家にお願いするのは出来た街道に関を築かないことと、木之本宿での優遇で結構。

 敦賀の産品が揖斐川を通り伊勢や駿河まで流れる利益を思えばおつりが来ますから」


 ゆきも静かにうなずいています。当家の負担としても許容できる範囲だということです。

 敦賀郡司家も大きくなりましたねぇ。実際の領地そのものは先代より減ってるんですが。


「常識で考えれば、狂人の戯言(たわごと)だと一笑に付すところなのだが・・・

 この腹黒狂人は実現できそうな事を言っているだけというのがたちが悪いな。

 猿夜叉丸。塩津浜まで引いたという街道、自分の目で見たことは?」


「いえ・・・ありませぬが・・・」


 困惑する備前殿をみて、下野殿が乾いた笑みを浮かべた。


「そうであったな。そろそろ外交を学ばねばならぬが、教えを怠った儂の落ち度か。

 件の街道な、途中に深坂峠という難所がな、あった。そう、あったのだ・・・」


 下野殿?なんか遠い目をしてるんですけど・・・


「その、深坂峠な。物語でいう程の今は昔の話だ、平相国(たいらのしょうごく)の一家が越前を領していたころの話よ。

 敦賀にそそぐ笙の川。その上流と淡海(あふみ)()()()()()()()と企んだのよ。

 位人臣を極めた平相国ともなれば、儂ら凡夫の理解の及ばぬ発想をする。そこな腹黒狂人と同類であったのだろう」


 む、なんか微妙に失礼ですけど、褒められてるような気もします。

 ただ、仮に掘り抜いたとしても、琵琶湖と日本海の高低差がエグいものですから、運河としては使い物にならないんですよね。


「平家の威光で人夫・工人が集められ、愛発の関から掘り進めた普請であったが・・・深坂峠にて巨石に阻まれ頓挫した。

 件の巨石には地蔵の姿があり、堀止(ほりどめ)地蔵の警告だとして普請を中止し、祀る事になったそうな。

 ・・・この堀止地蔵な、たしか六年ほど前に深坂峠を通った際には、あったのよ。巨石にしっかりとな」


 そんなのもありましたねぇ・・・まぁ穴三つあいてると人の顔に見える、みたいな無理矢理解釈して何とか地蔵?みたいなのが。


「今は・・・跡形もない。巨石ごとな。聞けば敦賀の秘術で巨石を粉々に砕いたという。

 その上、深坂峠そのものが()()()()()()()()()()

 牛車ですら難なく通れそうな平坦な街道に化けよった。街道の両脇に切り裂かれた峠の残骸が延々と崖になっておったが、それも錬石とやらで壁のように固められていたな」


 そりゃ荷車には傾斜は敵ですんで。発破解体なんていう技術を開発したんだからそりゃ活用するでしょ。

 その巨石の残骸は錬石の骨材として利用したそうですよ。


「恐ろしいのはこの所業が、敦賀の全力を賭した秘術などではないことだな。

 主犯は、そこの腹黒ではなく、川舟屋をはじめとした座の商人どもが資金を出し合って実施したそうな。

 通り易ければ儲け易い。関など作ってくれるな。という条件でな」


 そりゃ最大受益者が川舟屋をはじめとした大商人なんですから、彼らが主導して工事するのも当然ですよね。


「つまりだ、武勇はともかく統治の道としてはある意味彼らはかの平家をもしのぐのだ。

 それが、山に穴をあけることができるというなら、できるのであろうよ。

 それを踏まえて浅井家中のみで話し合いが必要であろう」


 ため息を吐くようにこぼす下野殿。

 

「えぇ、私はあくまで選択肢を提示するのみです。浅井家の皆さまで熟考の上、後悔なき決断をお願いしますよ」


 たとえそれが我らに敵する道であったとしても、私はそれを尊重しましょう。


堀止地蔵「解せぬ」

ゆき「主犯は父様。たたるならそっち」

景恒「あんな所で通せんぼしてるから・・・」

久政「ほれ、儂の人物眼は確かだ。あやつ神殺しの前科持ちよ」




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読んでいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク・★評価・感想等お願いいたします。


・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。


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