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問:兄が自害したので家督を引き継いだ瞬間に歴オタだった前世の記憶がよみがえり、詰んでる事を理解してしまった私、朝倉景恒の心境を答えよ  作者: 麺樽豆腐
第一部 歴史改変への道

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答22:なんて爆弾投げるんですか、この足利芸人!!

永禄11(1568)年7月下旬、美濃国安八郡 大垣城


「左馬頭様!お待たせいたしました!そしてお待ちしておりました!」


 上座に座る足利義昭の眼前で平伏する男。


 織田信長。数え三十五歳。

 彼が美濃尾張の支配者、戦国の革命児、覇王、第六天魔王ですか。


 ・・・思ったより普通ですねぇ・・・

 同じく義昭の前で平伏し、信長を横目で見ていますが、苛烈・酷薄な破壊者なんていう後世の印象は影も形もありませんね。


「信長、あと藤孝・藤長・景恒・長政も。頭を上げるんや。堅苦しいのは無しやでぇ」


「「はっ。ありがとうございます」」


 義昭の声に応じて、一斉に顔を上げる。

 

 上座にいる義昭の両脇を固める位置に幕臣の細川・一色の両名。

 義昭と対面する位置に並ぶ私と魔王。やや後方に浅井をはじめとした諸将が並ぶ。

 

「景恒、ここまでありがとうなぁ。義景にも感謝や。伝えといてくれるか?」


「ははっ、ありがたきお言葉。必ずや(あるじ)、義景に伝えまする」


 私の言葉に織田諸将がわずかにざわめく。

 この場に立つものが守護や幕臣ではなく、ただの被官であるのが意外なのでしょう。


「よろしい。では朝倉殿、織田殿。引き継ぎの儀を!」


 一色藤長の宣言を受け、私と魔王が向かい合わせに向き直る。


「我こそは日下部(くさかべの)朝臣(あそん)朝倉(あさくら)左衛門督(さえもんのかみ)孫次郎(まごじろう)義景(よしかげ)名跡(みょうせき)と、職掌(しょくしょう)における(りょう)をうけ、いと(たっと)源家(みなもとのいえ)の、棟梁(とうりょう)となりぬべき御方(おんかた)身辺(しんぺん)(やす)んずる(ほまれ)に、(あず)かりしものにござる。

 我が名、日下部(くさかべの)朝臣(あそん)朝倉(あさくら)中務大輔(なかつかさのおおすけ)彦四郎(ひこしろう)景恒(かげつね)(ほまれ)において、この地まで(たっと)御方(おんかた)、お連れしたものなり!!」


 儀礼に(のっと)った口上というのは普段と言い回しも違ってめんどくさいです。

 その上私は被官・家人ですから、意思を示した主と実行した私のふたつの名前を名乗る必要があります。


忌部(いんべの)宿禰(すくね)織田(おだ)尾張守(おわりのかみ)三郎(さぶろう)信長(のぶなが)の名において、いと(たっと)御方(おんかた)身辺(しんぺん)(やす)んずる(ほまれ)、引き受けてござる。

 (もののふ)体現(たいげん)せし御方(おんかた)の、帷幕(いばく)天下(てんが)()(あゆ)み、()(ひら)(やり)とならん!!」


 滔々(とうとう)(うた)いあげる魔王。

 ・・・普通ですねぇ、真っ当に儀礼に則った所作です。


 改めて、彼をよく観察してみます。

 (あや)しい美しさをもつことで有名な織田一族らしく、細面(ほそおもて)(たお)やかな顔つきに似合わない、鋭く芯の通った瞳。

 細身ではあるが良く鍛えられた身体と相まって、抜き身の刀のような危険な美しさをしています。


 壮年にさしかかり、武将としての最盛期を迎え、自信に満ちた姿はさすが大大名という風格です。


 ですが、旧体制の破壊者だの革命児だの覇王だの魔王だのといった後世のイメージとは全くかけ離れています。


 ――普通。普通の、かつ優秀な武家の男。それがこの男への印象です。


 某野望ゲーには申し訳ないのですが、この方自身で天下統一するだとかの大それた野望持ってないでしょう絶対。


 ん?天下布武の朱印?

 それについてはさっきの口上で言及してるじゃないですか。

 天下(畿内というか京都)に武(室町幕府)の秩序を()く、要するに『足利将軍(義昭)を助けて三好を叩きます』という宣言以外の何物でもないんですよ、あれは。


 でなければ堂々と義昭宛の文書にそんな朱印使わないでしょう?


「ほな、めんどくさい儀礼も終わったことやし、これからの話をしよか?

 ワイは岐阜?っちゅうとこで待てばええんやな?」


「はっ、(それがし)の本拠、岐阜にお越しいただく事になります。

 ただ、ひと月ほどで上洛軍を挙げますゆえ、腰を落ち着ける必要はござりませぬ」


 義昭の問いに魔王が滑らかに回答する。

 声色などからも、彼が足利将軍家を心から尊重しているのが窺えます。

 次に聞かれそうな部分を先んじて答えておくなど、有能かつせっかちな点が見受けられますね。


「織田尾州。その地は昨年まで井ノ口、稲葉山と呼ばれた斎藤の本拠地ではないか!

 どこに不逞の輩が潜んでいるとも知れぬ地に左馬頭様を住まわせるとな!?」


「い、一色殿!そのような物言いは失礼ですぞ!

 織田殿、我らは貴殿の忠節と手腕を疑ったりなどはござらん!」


 一色殿の失言じみた物言いを取り繕おうとする細川殿。

 彼らをそれぞれ一瞬だけ一瞥する魔王。


 刹那の間だけだが一色殿には失望、細川殿には期待の表情を見せた。

 彼らの評価を付けた?あの一瞬で?


「いえ、道理にござる。しからば念を入れるため御一行には我が岐阜城の一角に入っていただきたく。

 そこであれば某としても、より安心でございます」


 観察・評価・代替案企画・影響検証が即座に完了し行動を起こす。

 これが魔王か。彼の頭の回転はすさまじい速さだと仮定して、目を中心に表情を注視していた私でも見落としてしまいそうな速さでの切替。


 織田諸将から困惑と諦観のざわめき。

 そりゃ屋敷の準備もしていたでしょうし警護の都合とかもあるので仕方ないでしょうが、いつものことという諦めが混じっているのが興味深い。


 仮説通り、これが『うつけ』評価の原因のようですね。RTAガチ勢の思考は一般人にはわからない、伝わらない。故に不安がぬぐえない。

 魔王的には安全の検証が終わっていて堅実な行動を起こしているのに、周囲からは思い付きで変な行動に出る、成功したからいいものの・・・となるわけですね。


「ほならあと一月ちょいか~。苦節三年、ワイの戦いもいよいよ大詰めや!

 岐阜入ったら即、御内書だしたるでぇ!武田とか北畠とか周辺大名にも集まるように声をかけるんや!」


 いや、それ魔王にとっては迷惑でしかありませんから。

 おとなしく三好討伐の御内書だけ書いてあげてくださいよ。


「はっ。恐れながら、諸将を待つと機を逃しまする。

 孫子曰く『兵は拙速なるを聞くも、未だ功の久しきをみざるなり』と申します。

 すでに準備を終えている、我ら織田・浅井・徳川にお任せくだされ!」


 魔王がちょっと慌てた声で制止しました。

 まぁ武田とか、盟主の座が揺らぎますからねぇ。


「さよか~。晴信ら呼んどったら上洛遅れるんかぁ。

 ほなしゃあないな~、ほなら、あとは朝倉ぐらいか?呼ぶのん」


 真顔でなんて爆弾投げるんですか。この足利芸人は!


「いえ、いかに朝倉殿とて急造の隊で我らと足並みをそろえるには期間が足りませぬ」


 魔王の答えに一色殿が不満そうに漏らす。


「それでは左馬頭様の格が示せぬではないか!上洛軍に守護が一人もおらず、国司とて徳川三河守のみ!

 織田の尾張守と浅井の備前守は自称であろう!無位無官が率いる上洛軍など聞いたことがないわ!!」


 そんなことに(こだわる)るから、戦乱が収まらないんですけどね。


 ――それにしても魔王、無位無官だったんですねぇ。結構山科卿とかが求めるままに金出してたはずですけど。官位とか求めなかったんですねぇ。

 私欲のままに官位を、朝廷を利用する輩で溢れる世の中において、自分だけでも正しくあろうとする・・・主人公かな!?


「そんなもんえぇて藤長。格やったら管領・細川兵部と侍所頭人・一色式部がおれば十分や。

 信長がやる言うとるんや、やる気を削ぐようないちゃもん付けるのはやめとこ?

 ・・・しかしまぁ、ホンマにこうなるんやな~景恒の見立て通りや」


 っっ!!?なんて爆弾投げるんですか、この足利芸人!!(二回目)


「ほう、朝倉殿が・・・なんと?」


「ん?あぁ今回の上洛は信長の仕切りやさかい、下につけん奴は(はい)れへん。と先に仁義切って来とったんや。

 まあ言われてみれば確かに?ちゅう話や。よぉそんなとこまで気が回るなぁと思うけど」


 魔王の顔がこちらを向く。朝倉の被官人というモブを見る目ではない。

 いけない!()()()()()()()()()()()()


 どうする?芸人のボケのせいで背景モブとして切り抜けるのは無理となった。

 こうなれば重役の顔色を(うかが)う中間管理職の小物ムーブで切り抜ける!


「い・・いやぁ、拙者は主・左衛門督様からよく使い走りにされ・・・役柄上、偉い方々が言いそうなことが骨身にしみておりまして・・・」


 こらそこの足利芸人!『なにそのキャラ!?』みたいな顔しない!


「で、上洛軍に加勢するとしてもですね、左衛門督様に『無位無官の斯波の被官の傘下にはいれと申すか!』と怒られてしまう訳でして・・・それで、先に左馬頭様に事情を・・・」


 魔王の視線が私の顔色を見ている。

 なるべく卑屈な顔で、上司の顔色を窺う小物に成り切ります。


「あ、いや織田殿が不満だという訳ではござらぬ!ただ、左衛門督様が・・・」


「で、あるか。まぁよい、いずれにしても朝倉の助力は不要じゃ」


 魔王が一色殿に向けたのと同じような失望の顔。


「では朝倉殿、我らは左馬頭様とともに岐阜へ向かうとする。これにて失礼いたす」


 よし!!乗り切った!!


 これで魔王の中の私は、『旧態依然とした組織の中で上役の顔色しか見ない愚物』判定をもらったはず!

 認識されないモブではなくなりましたが、無視できるザコの座は守り通しました。


 岐阜であの足利芸人がネタバラシしないかが心配ですが、上洛に向けて忙しい中でそんな暇は無いと祈りましょう。


 ノッブって上位者を丁寧に立てるんですよね。


 斯波義銀も、足利義昭も彼らの側から裏切るまで大切にしてる。

 朝廷なんかはノッブが死ぬまで大事にしてる。正親町陛下つか歴代陛下悲願の譲位→治天の君による院政の実現に向けて動こうとした。


 義昭に裏切られてからも大分未練たらしく関係修復に向けて努力してたし。

 最後の帰還交渉(恵瓊と秀吉のやつ。義昭が人質要求してポシャった)も決裂前にノッブまで話が上がってきてたら呑んじゃってそうじゃない?


 あと、ノッブの(かばね)を忌部宿禰にしたのは改変です。この当時では藤原朝臣、後に平朝臣を名乗るのですが・・・源平藤橘ばっかでつまらん!劔神社の神人であった事を忘れないで居て欲しいなぁって・・・



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読んでいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク・★評価・感想等お願いいたします。


・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。


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