答18:信じる者はすくわれるんですよ、足元を
永禄10(1567)年5月下旬、越前国敦賀郡 川舟屋見世屋敷
「川船屋・・・大丈夫ですか?」
「おかげさまで大儲けですよ敦賀様!!この結果をみて渋っていた船大工も考えを改めるはずです!!」
久しぶりに顔を会わせましたが・・・疲れが溜まり、限界を迎えた身体を成功している興奮で無理やりごまかしている人間特有の雰囲気がします。
「新造した船での交易が大成功したのは私としても喜ばしいですが、無理はいけませんよ。疲労がたまりすぎで死相が見えています。この後一旦寝なさい。雪之丞、頼みましたよ」
「わかったよぉ。でも父様の気持ちもわかるなぁ、スゴイ儲けだもん。航路上の海賊に払う警固料の回数が少ないだけでこんなに違うんだぁ」
途中に寄港する湊の数が減少しましたからね。新造した三胴船による船団は上々の滑り出しですね。
「それだけではないのだ、おゆきよ。敦賀様の考案されたこんてなの効果も大きいのだ!なにせ馬借や沖仲士といった運び屋どものちょろまかしを防ぐことが出来たのだからな!!」
この段階の輸送力では効果はイマイチ疑問もあったのですが、うまく運用できたようで何よりです。
同じ大きさ・規格の木箱と、特定の印章を用いた封蝋で配送先につくまで中身を担保する仕組みに加え、木製の荷札に記載された番号と目録を使用することでは配送業者の中抜き防止に効果があったようです。
それに加え、同じ大きさの木箱は船内倉庫を余すところなく活用できるようになっていますし、大型船には人力駆動の起重機が搭載されていますからね。船員の削減と合わせて輸送費を大幅に削れました。
「はっはぁ!敦賀殿よ!建造する船を2種類にしたのは大当たりだ!小回りが利いて戦闘に有用な三胴小早!交易、倉庫、見張り、補給、後方休憩場と何かと便利な双胴関船!この組み合わせによって簡単に平戸まで往復が可能となった!!道中絡んできた若狭水軍に歯車巻き弩をお見舞いするおまけ付きでな!!」
「それは良かったですね石州殿、楽しんでいただけたようでなによりです」
さて、ご機嫌なので上首尾なのはわかりますが、詳細を伺うとしましょう。
「それで、平戸とその先の三池、帰りがけの美保関湊での首尾を教えてもらいましょう。雪之丞、もう目録と日誌は目を通したのでしょう?」
「はぁい、平戸では阿芙蓉・硝石・黄鉄鉱(硫黄)、三池で石炭、美保関では赤鉄鉱を予定通り仕入れているよぉ。石炭とか赤鉄鉱って現地ではあくまで自分たちで使うもので商売品とは考えられていなかったからだいぶ安く買えたみたい」
「売り物はどうでしたか?」
「米は平戸と三池で完売、紙・掛軸・昆布・鮑・漆椀なんかは平戸だけで全部なくなっちゃった。まだまだ需要はありそうだから今後も儲けていけるよぉ」
それは何よりです。敦賀に集まる京都や奥羽の特産品を運ぶのが功を奏しましたね。
「それで・・・予定外の乗客が、こちらの方ですか」
「うむ!敦賀殿に会いたいというのでな!連れて参った!!」
そう、この場には川舟屋、堀江石州殿、ゆき、私の他にもう一人いたのです。それも伴天連の若者がね。
「お初にお目にかかりマス、ツルガ様、ワタシは・・・」
「Hola, misionero, mucho gusto. Como te llamas?(こんにちは宣教師、会えてうれしいよ。名前は?)」
彼の挨拶に被せるように彼らの言葉で話しかけると、驚愕と納得が入り混じったような複雑な表情を浮かべました。
履修しておいてよかったですねぇ選択科目、第二外国語のスペイン語授業。人生何が役に立つか本当に予想できません。
「Eso es un idioma de nuestro pais vecino. Lo hablas?(それは私たちの隣国の言葉です。しゃべれるのですか?)」
「No hablas, conozco palabras, solo un poco.(話す、無理、知ってる言葉、少しだけ)」
まぁぶっちゃけごくわずかの単語を覚えているだけですが、はったりには十分です。
「では、コの国の言葉で会話しまショウ。ワタシはフェルナンド・フィーゴ・シウヴァといいマス。発音ムズかしいのでシルバと呼んでくだサイ」
「わかりました、伴天連シルバ。ようこそ敦賀へ。ご用件を伺いましょう」
すると彼は懐から一掴みの塊を取り出しました。
「堺のフロイス師に所望サレタ、『酸で溶けない硬い銀』デス。ワタシ達はコレを白金と呼んでいマス」
「おぉ、ありがとうございます。約定である同じ重さの金は、貴方にお渡ししても?」
あとで雪之丞に天秤はかりと碁石金を持ってきてもらいましょう。
「ハイ・・・白金、どこで知ったノカ、何に使うノカお聞きしテモ?」
「残念ながら詳細をポルトガル人である貴方にお伝えすることはできません。とはいえまぁ、こんなもの錬金術の探求ぐらいにしか使い道はありませんよね」
別にポルトガル人でなくても伝えられないんですがね。
前世の知識で中南米に白金鉱床があるのを知っていたなど、理解してもらえるわけもありませんから。
錬金術の発展した先に科学があると考えれば嘘ではありませんよ、だいぶ詭弁ですが。
「デハ・・・イスパニアの言葉はドコで知ったのデス?コの国のダイミョウでイスパニア語喋るヒト初めて会いまシタ」
「あー、私は大名ではないんですが・・・それもお教えできません」
「ナゼ、言えないのデス?」
「貴方が納得するような説明が出来ないからですよ。貴方達が世界を二分するような取り決めをしたところで私達が納得できないようにね」
実際には世界を二分する取り決めであるサラゴサ条約も相手国のスペインも全く関係なく、単に前世の知識を納得してもらえそうにないからなのですが。
それはともかくこれでサラゴサ条約を無視して暗躍するスペイン人の影を幻視しておいてください。実際にフィリピンに手を出しているらしいですから説得力はあるでしょう。
「わかりまシタ、詳しくは聞きまセン」
「そうしてください。さて、せっかく北陸まで足を運んでいただいたのです。滞在の面倒は私が見ますので、しばらくここで見分を広げてはいかがです?」
「・・・布教の許可はいただけマスカ?」
やっぱりそう来ますよねぇ。しかし私の一存では決めれない案件なんですよ。
「私の主である越前守護・朝倉義景に紹介状を書きます。そちらに許可を取れれば越前国内での布教は問題ないでしょう・・・しかし、今は時期がよろしくないですのであまり期待しないでください」
「どういうことデスカ?」
一乗谷が一向宗とバチバチにやり合っていなければねぇ。
「今、我々はここより北の地である加賀の国に蔓延る宗教勢力と争っていまして・・・一向宗と言うんですが、彼らの教義が貴方達のいうデウスの教えとよく似ているんですよ」
「・・・詳しく教えてくだサイ」
「少し長い話になります。そして、これからの話は私の意見・私見に過ぎないことです」
さて・・・皆さん!!ここからもの凄くセンシティブな話題に入ります。これはあくまでも私の私見に過ぎないという前提を忘れずに、こいつはこういう考え方なんだなー、自分とは違うなー程度にユルく受け止めてくださいね。
いいですか、あくまで私見です(大事なことなので三回言いました)。正しい、間違っているという次元の話ではないと心得てくださいね。
「まずは前提として、貴方達伴天連が崇める『デウス、もしくは主』と呼ばれる存在とこの国で祀られる『神・仏』は別物です、階層が違うんですよ」
ここを混同していることが、日本人がキリスト教をはじめとした一神教になじめない原因だと私は考えています。
「この世界はざっくりひとつの法則に基づいて存在していると考えられています。命は生まれ、育ち、そして死す。虫より小さなものに始まり太陽のような天体に至るまで。であればその法則を定めた存在は一つでなければ辻褄が合わない」
この理を解き明かそうという動きが錬金術から続く科学なわけですが、それはさておき。
「それで多数の神仏を祀る私たちのことをもの知らずとうつり、その蒙を啓かなければならないと貴方達は考えてしまうわけですが・・・」
「ハイ、真実を知れば救われるのデス」
「私たちもその法則については理解しているんですよ。そうですね、強いて言葉とするなら『天』と呼んでいるモノに近いでしょうか、神仏とは別物です」
中華の皇帝が権威の源にしているものが近いでしょうかね。
「なぜそれを崇めないのか?それは簡単に言えば、話が通じないからですよ。人知の及ばない存在故に、個としてはお互いに認識不能なのです」
私たちが土中の微生物を個別に認識できないように、大いなる存在が私たちを認識は出来ないと思いますよ。
「そんなことはありまセン、デウスは全知全能ですカラ」
「私達の想像力の問題です。全知全能がどういうものかを想像すらできないので、畢竟祀ることはない訳です」
たぶん東洋の創作ものの創造神がもう去っているか、滅んでいるか、はたまた無関心なものが多いのはこういう理屈ではないでしょうかね。
「なるホド、では全知全能についてワカりやすいカタチで説いていきまショウ」
「そうしてください。さて続きですが、私達は理解の及ばない天ではなく、まだ理解の及ぶ神仏を祀るようになりました。私達よりは天の理を知る存在として救いを求めたのです。
そうですね、貴方達にわかりやすい言い方をすれば、デウス御大は畏れ多いので預言者や天使、守護聖人などにお願いごとや誓いをする感覚でしょうかね。
とまぁこれがPagano(異教徒)の理屈ですよ。ご理解いただけましたか?」
こういう視点で神仏をみれば一神教と多神教であっても、大筋では違いはないという風に考えることが出来ます。
「なるホド、階層が違ウ・・・」
伴天連に耳障りのいい言葉を選んでいますからね、理解の一助となれば幸いです。
「で、壮大に脱線した話を戻しますと、いま争っている一向宗の教えですが、表面上は貴方方の説く教義に非常によく似ているんですよね。衆生から見れば分派ですか?と疑うぐらいに」
「表面上・・・デスカ?」
そう、あくまで私から見た表面上です。
「ええ、貴方達が衆生に説く教えをざっくりいうと、『デウスを信じよ、さすれば死後に神の国で幸福に暮らせる』『罪人・卑賎民であろうが洗礼後は等しく救われる』『其方らの罪は預言者が贖った。感謝して生き、神の国へ向かえ』『デウスの信徒同士、愛をもって協力せよ』といったところですか。
深い教義の話はしていませんよ?あくまで衆生、民衆にわかりやすく説明する際の話です」
「そうでスね。無知なPaganoにデウスの教えを説くのでアレバ、そのように説くでショウ」
「一向宗、より詳細には浄土真宗本願寺派というのですが、彼らは衆生に対し『阿弥陀様のお力により死後は極楽浄土にいけるでぇ』『善人でも浄土へ行けるんや、よりカワイソウな悪人は当然いけるがな』『極楽浄土では苦しみはなく幸せにくらせるでぇ』『みんなで南無阿弥陀仏と唱えまひょ。坊主のいうことをよーく聞くんやでー』といった説法をしているんですよ。
若干言葉は違いますが、よく似ているでしょう?」
「・・・」
「この教えの開祖たる、法然房源空、善信房親鸞の両者は至極まっとうに悟りの道を探求した結果、阿弥陀信仰にたどり着いたのでしょう。彼らの作った教団は、比叡山や高野山と比べるとごくささやかなものであり、悟りの道を共に歩む師匠と弟子以上のものではありませんでした。
しかしながら、教団のトップである法主が代替わりしていくうちに王侯貴族、こちらでいう大名の領域を侵すような挑戦的なふるまいをするように変わっていきました。そう、まるでローマ法王の権威に挑戦するHerejes(異端者)どものようにね」
「Herejes(異端者)ですト!?」
「えぇ、貴方がたの教えはもう千年以上続いているというではないですか。その長き歴史のなかで滅ぼした異端者どもはかなりの数にのぼりますよね?かれらの生き残りがこの東の果てまで流れ着いた末に現地の教団をのっとることもあり得ないわけでは無いでしょう。
結果、加賀の国は一向宗教団に奪い取られ、我々越前のものが迷惑をこうむっているわけです」
「・・・証拠ハ、あるのデスカ?」
「ありませんよそんなもの。それとも貴方がたのInquisidor(異端審問官)はそんなものがないと動かないのですか?
なお一向宗の本拠地、石山本願寺は堺にほど近い大坂の地にあります。うかうかしていると堺まで乗っ取られかねませんよ?」
「・・・堺のフロイス師に手紙を書きマス。届けてもらえマスカ?」
「特急便でお届けしましょう。貴方がたが一向宗とは違うことを示してくだされば、一乗谷の守護様も布教をお許しくださるでしょうね」
宗教には宗教をもってあたるのが良し、大名には発想できない領域で争ってくれるでしょう。
せいぜい潰しあってください、石山本願寺が加賀に口出しできないようになるまで。そうすれば加賀の一揆衆の中に紛れている大小一揆(賀州三ヶ寺)の残党が息を吹き返すでしょう。
まぁ江沼郡の山田光教寺は朝倉景隆が念入りに潰すでしょうから、一揆衆(石山派)と一揆衆(加賀派)と朝倉家でいい感じの三つ巴混戦となりいい感じで人と資材を磨り潰す地獄を数年は続けてくれるでしょう。
ん?朝倉家が消耗するのはまずいのでは?ですか。そうでもないんですよ、この場合消耗するのは安居と、脳筋が肉盾として機能してもらわないと困る大野の腹黒であって、私たち敦賀や三国ではないのです。私たちが運ぶ資材などの代金はその都度いただいていますからね。
腹黒が損切りを決断しない程度に負担をかけて、思考・人的・資源の各種リソースを消耗してもらいませんと、ヤツが暇だと碌でもないことをたくらみますからねぇ。
景恒君がハッタリ大将だという前提を忘れないでお読みください。
ああ!!石を投げないで!!
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読んでいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク・★評価・感想等お願いいたします。
・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。
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