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問:兄が自害したので家督を引き継いだ瞬間に歴オタだった前世の記憶がよみがえり、詰んでる事を理解してしまった私、朝倉景恒の心境を答えよ  作者: 麺樽豆腐
第一部 歴史改変への道

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16/26

答16:足利のほうがよほど理不尽ですからね

永禄9(1566)年9月上旬、越前国足羽郡 一乗谷 安養寺仮御所


左馬頭(さまのかみ)様、ご機嫌麗しく・・・は、無いようですねぇ」


「そら無理もないわ!!この状況で!ニコニコ上機嫌で笑ってたらよっぽどの大物かただのアホゥや!!

 義賢も!竜興も!ワイをコケにしくさりおって!!それに義統も信長も期待外れやったしなぁ・・・

 はぁ、興福寺を離れてからコッチ、エエところがないがな。やっと越前で一息つけたと思うとったんやが・・・義景も、期待でけへんのやな?」


 激昂から消沈までジェットコースターのようにテンションを上下させて嘆く将軍(候補)である左馬頭こと足利義秋ですが、なぜかオーバーリアクションの喜劇俳優のようにしか見えません。


「えぇ、絶賛内訌中ですから」


「内訌ゆうて、あれやろ?お前とあの、うさん臭い優男が仲良うすれば終わる話やないかい!せっかく中務大輔(なかつかさのたいふ)式部大輔(しきぶのたいふ)を斡旋したったんやから仲良うできんもんか?」


 不機嫌を隠そうともしないで言ってきていますが、言えばその通りになるという無自覚の(おご)りは大分鳴りを潜めていますね。

 やはり六角、斎藤に寝返られたり、若狭武田が思うように動かなかったり、織田が斎藤に不意打ち喰らって撤退したりで、少しは世間の厳しさってものを実感したのでしょう。


「そうですねぇ、左馬頭様が三好三人衆と仲良くできるなら可能性はあります。

 私にとって大野郡司景鏡は兄の仇であり、景鏡にとって当家は父を追放した怨敵ですからね。

 左馬頭様が同じような目にあわされた三好への遺恨をきれいに水に流して仲良く協力体制をとれるのであれば、我々も武家の棟梁に(なら)って協力し合うことはやぶさかではないですが」


「あー・・・そらぁ・・・無理な話やなぁ・・・」


 自分の境遇に当てはめてみたのか和解が困難だということを実感していただけたようです。


「まあ実際には足利と三好ほど絶望的ではないですけどね。私と式部殿の個人間では落としどころを見つけることができるかもしれませんし。

 しかしお互いに組織()を背負っているわけでして、なかなか感情(遺恨)(しがらみ)からは逃れられないものなんですよ」


 あの悪堕ち〇三郎であれば、個人的な感情を度外視してお互いに利用しあう仲を築けるかもしれません。

 が、大野郡司家中の爺どもが納得するとは思えませんし、そもそもあんな腹黒は信用も信頼も現状できません。

 そのための実績を積む手間暇がお互いありませんので畢竟(ひっきょう)、敵とみなして行動するのが合理的なわけです。


「そうなんか?ほな、ワイや義景が仲裁にはいれば仲直りできるんか?」


 いやぁ、希望を見つけたぞ!みたいに顔を輝かしているところ申し訳ないのですが。


「不可能ではないですが難しいですね。

 まず御屋形様(義景)には無理です。敦賀大野両家だけでなく親族衆、地侍が複雑に絡み合った柵に雁字搦(がんじがら)めになっている現状を切り裂く器量も気概も足りません。

 累代の事情を知りすぎている故にね。

 よって行動を起こせそうなのは左馬頭様のみでしょうが・・・はっきりいって我らの内訌に首を突っ込んでいる暇があるのですか?」


「そら、お前らが仲直りすれば越前と北近江勢で挙兵・上洛できるんやさかいワイはいくらでも骨折るでぇ!」


 はぁ、見通しの甘さは相変わらずですか。


「申し訳ありませんが、それでは全く届きません。

 仮に我らが和解して越前一国が上洛に全力で協力したとして、兵数は1万5千から8千といったところです」


 実質的に実入りのない外征となればこの辺りが限界でしょう。


「ええがな!それだけいれば三好をギャフンいわせたる!!」


「いえ、全く届きませんと申し上げたでしょう。

 彼らにとっては人員を集めやすい防衛戦です。

 三好・六角合わせて最低3万は用意するでしょうね」


「・・・」


 不貞腐れた顔をしても、無理なものは無理ですよ。


「加えて申しますと、想定される主戦場は近江志賀郡。

 比叡山の(ふもと)になります。


 それなりに開けた地ですので大軍を展開するのに向いてはいますが、琵琶湖に面しているのがいただけません」


「どういうことや?」


「水運を活用されるのです。

 琵琶湖においては六角が保有する水軍が()()()()は突出しています。

 補給、兵の交代、後方拠点の強襲など、水路網を生かして粘り強く嫌がらせをしてくるでしょう。


 それ故にこの戦は、圧倒的陸上戦力によって短期間で決着をつける必要があります」


 顔色を見るに、左馬頭様にも越前勢だけでは厳しいという状況が理解できて来たようですね。


「ほな、どないせぇっちゅうねん!

 ワイは平島のデブが将軍に宣下されるのを黙って見てなあかんのか!?」


「ええまぁ、六角が裏切った時点で、次の14代は平島様でほぼ決まりでしょうね」


「ホンマのことやからってあっさり言えばいいってもんや無いで景恒!

 あぁ・・・傷心のワイはここ一乗谷で何もできずに朽ちていくんやぁ~」


 本心から嘆いているのでしょうが、ツッコミ待ちにしか見えませんねぇ。

 これもこの方の人徳と言っていいものでしょうか。


「ワイの未来は真っ暗や・・・景鏡の『ん~ふっふ~義秋様~京や近江のつらい思い出は忘れて、鞍谷御所で楽しく過ごしましょ~』の言葉に乗るしかないんか・・・」


 アイツそんなこと企んでいるのですか!?

 傀儡にして加賀・能登・越中・若狭を従わせる権威を得ようという(はら)でしょうが・・・


 この足利芸人がそんな思惑どおりに動くわけないでしょうに。


「そんなわけないでしょう。確かに14代はほぼ決まりです。

 ですが、その後は?

 15代を狙うとなれば巻き返す余地は十分にありますよ」


「ホンマか!?信じてたで景恒!!

 で、どう動けばいいんや?」


 先ほどまでの嘆きはどこに行ったのでしょうか。

 まぁツッコミ後のリアクションとしては満点ですね。


「先ほどまでの説明で、我ら朝倉では力不足ということはご理解いただけたでしょう。

 私の見立てですが左馬頭様を将軍に押し上げる力を持った人物は、ふたり」


「ふたりもおるのか!?誰と誰や!」


「まず一人目は、尾張の織田殿です」


 その名を聞いた途端、露骨にがっかりしないでくださいよ。


「え~・・・信長かぁ・・・アイツ役に立つんか?

 ワイのためにって上洛軍用意したのはえぇけど、斎藤にあっさり負けよったで?」


「だからこそです。たしかに織田殿はちょっと純粋に人を信じすぎるきらいがあります。

 それ故に左馬頭様をお助けする軍を斎藤が攻撃するのは思いの外だったのでしょう。

 しかし、かの御仁は精神的にはともかく、軍隊的にはさしたる痛手を受けてはいません。


 斎藤をはじめとした諸大名が全く信用できないことを学習した彼は、独力で六角・三好を撃破する力を蓄えるため、美濃攻略に本腰を入れています。

 斎藤撃破が成れば、美濃・尾張というふたつの超大国を得た織田殿は、独力で4万越えの遠征軍を構築するでしょう。


 松平・浅井の同盟軍を合わせれば5万から6万。

 六角の本拠たる観音寺を抜き、京までなだれ込むには十分な戦力です」


 実際、最も現実味のあるシナリオなんですが・・・不満そうですねぇ。


「まぁ信長については分かったわ・・・で?もう一人は誰やねん?」


「もう一人は、越後の上杉殿です」


 今度は顔色がぱぁっと輝きましたね。


「輝虎か!!無敵の軍神様やな!!」


 期待している所申し訳ないのですが、こちらはいばらの道ですよ。


「上杉殿との上洛を成功させるには、左馬頭様の働きが重要になります。

 まず、上杉殿と関東の北条及び甲斐武田を和睦させなければなりません。

 その上で、越後周辺の最上・芦名・伊達が余計な手出しをしないよう釘を刺す必要があります」


「まぁそらそやな、ワイの手紙が火を噴くでぇ!!」


「その上で越後は大国といえど、すべてを上杉殿が掌握しているわけではありません。

 上洛軍となれば上杉殿直卒の1万8千程度が限界でしょう。


 となれば道中の勢力からの援軍が必須となります。

 越中から5千、加賀から8千、能登から3千。

 そして上杉殿が動いたとなれば我らの内訌など些事です。(いさか)いを棚上げした我ら越前から1万5千。

 その他諸々含めて5万弱、これを上杉殿の指揮下に入れることに成功すれば、志賀郡を抜いて上洛する目もあります」


「おぉ!そしたら軍神の御加護で楽勝やな!!」


 実現できればねぇ。


「そこまで至ることが出来れば、です。

 上杉殿と北条との和睦からして大変ですよ?武田はともかくとして。

 さらには我らは内訌中な上に加賀と争い、越中は上杉派と本願寺派に分かれて内訌中です。

 皆を纏める左馬頭様の手腕が問われますね」


 呉越同舟ってレベルじゃありませんよコレ。


「おう!ワイと軍神の威光があれば不可能なことは何もない!

 早速越後へ向けて出立や!準備するでぇ~」


 そして楽観的な予測をもとに暴走する、と。


 仕方がありません、止めますか。


「越後へ向かわれるのはいいのですがね。

 乗り込んでいった挙句に北条との和睦が成らなければ、詰みますよ?


 越後より東は鎌倉公方から続く系譜の領域です。

 畿内の権威が通用するとは考えないでください」


「お、おい・・・脅さんでもええやろ・・・」


 失礼な、事実を述べただけですよ。

 脅すのはこれからです。


「それに、左馬頭様のために一度軍を起こし、今も再上洛のために奮闘している織田殿の面子を潰しますねぇ。

 越後は尾張より遠方。

 畿内にほど近いここ越前ならばまだ言い訳のしようもありますが、越後まで行ってしまっては『織田は役立たず。眼中になし』と宣言するようなものです。


 万が一織田殿が離反でもすれば、たとえ上杉殿を動かすことに成功したとしても、三好・六角討伐はかなわぬ夢となります」


「そしたらワイの苦労が骨折り損やんけ!!理不尽や!!」


 憤慨されてもねぇ。利益をもたらすわけでもなくただ軍を要求する足利のほうがよほど理不尽ですからね。


「さらに言えば・・・」


「ヒッ・・・なんや、その笑顔怖いで?」


 おっと、顔に出ましたか。


「・・・これだけ早く越前を出立されるとなれば、我が主、朝倉左衛門督の立場がありません。

 興福寺からも、矢島御所からも、左馬頭様の危機にはせ参じた献身をどうお考えなのです?」


「いや・・・それどっちも来たのは景恒(オマエ)であって義景はなんもしとらんやろ・・・」


 だまらっしゃい。


「私は朝倉家の被官。あの手勢は朝倉家のものです。いいですね?」

「アッハイ」


 わかればよろしい。

 たとえ100%敦賀勢だったとしても、建前は大事なのです。


「さて、足利家のために左馬頭様に尽くしたとして、こうもあっさりと見限られたとあっては今後の協力は考え直さざるを得なくなるでしょうね。

 それは、周辺の他家においても同様に考えるでしょう。


 まぁこんな理由で、拙速に越後行きを実施するのはやめたほうがよろしいかと、私は考えます」


 口をへの字に曲げたままですが、私の言いたいことはまあまあ伝わったようですね。


「むむむむ・・・そやかて景恒、上杉動かすんなら手紙だけでは無理やろ!」


「ですから織田殿の準備を悠々とお待ちに・・・は、なれないのですね・・・」


 魔王も哀れですねぇ・・・何故にここまで信用がないのやら。

 やはり本人のうつけ評判と、上洛軍が斎藤にあっさり負けた点が響いてるのでしょうか。


「信長はなぁ・・・ええ奴なんやけど・・・」


「その評価は織田殿が実力で覆すのを待つとして、上杉殿には縁者をもってあたれば如何です?」


「縁者て・・・ワイの親兄弟はもう皆涅槃におるんやで?輝虎相手に頼みごとする大物なんかおるかいな」


 やはり、武家というものは武家しか目に見えないものなのでしょうか?


「おりますとも、それも上杉殿と知己の方がね。

 武家以外に目を向けていただければすぐに見つかりますよ」


 その言葉を聞いた途端、目を見開き膝を叩きました。


 いちいち挙動が大げさですねぇ。


「近衛関白やな!こら盲点やったわ!!

 アイツも三好の抑える京には居づらいやろうし、ええ機会や!

 越後にもっかい下向さして使い倒したろ!!


 そうと決まれば・・・誰か~!京に使いを出すで~!!」


 どたばたと行ってしまいましたね・・・

 まぁこれで暫くはおとなしくしてくれるでしょう。

 

 個人的にはとっとと越後へ向かってくれてもよかったんですが。

 魔王がへそを曲げる危険と、越前・加賀の国人共を従わせる権威の確保を考えれば、これでよかったと思いましょう。


 景鏡の策を手助けするようで気が向きませんが、アイツのやり口はまず朝倉家全体の利益になる様に動いてから自分の権益をちゃっかり確保するものです。

 故になかなか正面から妨害し(がた)いのですよね。



読んでいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク・★評価・感想等お願いいたします。


・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。

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