答14:統治する必要のない敵地はイイですねぇ
永禄8(1565)年9月下旬、若狭国三方郡 椿峠
「はい、南越衆有志の皆さん、お待たせしました!ここ椿峠より西は乱捕り解禁です!ただし粟屋領内、つまり日が沈むまでに帰ってこれる場所まででお願いします!!」
私の宣言と共に、飢えた狼のような唸り声をあげながら侍どもがなだれ込んでいきます。なかには敦賀で調達したであろう猫車や大八車を持ち込んでる者もおり、彼らの掠奪に対する本気度が窺えます。
若狭守護・武田義統に対し反旗を翻した国吉城主・粟屋勝久の討伐依頼を越前守護・朝倉義景が受けたのが昨年です。しかし一乗谷は加賀遠征で忙しく若狭にまで兵を割く余裕がないのが実情な上に、粟屋を討伐しても朝倉領が増えるわけでもないですから、いまいちやる気がなく我々敦賀に丸投げされちゃってるんですよね。
というわけで自分の裁量の範囲で南越衆に声をかけ、有志を募って若狭遠征に来ているわけです。
「おい、本当にこの先は好き放題ヤっていいんだよな!?」
「ええそうです。統治する必要のない敵地はイイですねぇ、使い物にならなそうな爺婆を籠城中の敵に向けて解放してあげる以外はすべて持ち去ってください。人も物も家屋の残骸に至るまでね。責任もって敦賀で引き取りますから。
あぁ井戸に死体を投げ込んでおくのと田畑にたっぷり塩を撒くのを忘れないようにお願いします。
あ、後掠奪終った家屋はきっちり破壊しておいて下さいね!掠奪済みの家にもう一度入るような無駄は避けるんですよ!」
せいぜい派手に騒いでください。未だ意気軒昂な粟屋勢の目を引き付けるためにね。
こちらはその隙にやるべきことを進めてしまいますから。
え?お前は掠奪に参加しないでいいのか?ですか。掠奪品は一旦すべて敦賀で買い取りますからねぇ。正直なところ足元を見放題ですし、懐があったかくなった南越衆が敦賀で散財するでしょうから、どう転んでも私に損はないんですよ。
ほら、ゴールドラッシュの時一番儲けたのは鉱夫じゃなくてツルハシ屋とジーンズ屋だったって話あるでしょう?それと同じですよ。
「若、弩衆と普請衆を配置に付けますぞ」
「半田爺、もう若ではないんですよ。ここ椿峠の築城は無理をさせないように。優先度は岩出山砦、中山砦の方が上です。あちらの二砦は今回の在陣中に完成させなさい」
軍奉行半田又八、おじい様と共に戦場を駆け巡っていた猛者にしてみれば、このような戦は物足りなく感じるのでしょう。
しかし、これからの戦国を生き残るためには、この付け城戦術を使いこなさねばならないのです。
そもそも、朝倉氏には高い築城技術がもともと備わっていますので、有効活用しない手はないですからね。
「爺の目からみて、敵はどう動きそうですか?」
「この椿峠の西にある佐柿村は奴らの本拠地でございます。そこに飢えた獣どもを解き放ったわけですから・・・まずはそちらの対処に動きたいでしょうが、たかだか三百足らずの侍では千を超える獣どもを抑えることはできますまい。
したがって、掠奪中は城に籠って耐え、南越衆がめいめい引き上げる際に最後尾を狙って襲ってくるでしょうな」
「まぁ最後まで強欲に粘っていた者がババを引くのは自業自得だからいいんですけど、その場合確実に余勢をかって追撃してきますよねぇ?くい止めるとしたら・・・やっぱりここ、椿峠ですか」
「幸運でございますな若。殿軍は戦の華ですぞ。我らの恐ろしさを若狭衆に見せつける好機でございます」
総大将と軍奉行が殿軍ってどうなのでしょう?とは言えここでくい止めないと、南越衆に無駄な被害が出るだけではなく、岩出山砦の普請にも悪影響が出ますからねぇ。
「仕方ありません、我々と馬廻り衆はここ椿峠で待機、敵を通さないよう立ちはだかります。弩衆は追撃してくる敵軍を伏撃できるよう射点を確保。普請衆は殺し間一帯に障害物を設置しなさい。杭・荒縄・荊棘が不足するようなら岩出山砦から融通すること。わかっているでしょうが、通行できる場所にも閂で閉じれる柵を付けるのを忘れないように。各物頭に伝えてください」
粟屋勢は良く訓練された侍でしょうが、うちの副業で兵隊やっている連中にも及ばない所をお見せしましょう。
「若のいうてつじょうもうもどきとやらの初陣ですな、実際どの程度通用するのかお手並み拝見といきましょうぞ」
まぁ理想形とは程遠いんですがね。この戦国時代でも調達可能な木の杭と荊棘を編み込んだ荒縄を使ってこのような鉄条網モドキを作るのです。
そしてこれらを並べて簡易な阻止線を構築するんです。それも複数本。
日露戦争から猛威を振るった鉄条網と機関銃には遠く及びませんが、それでも杭と縄の結び方を工夫して適度なゆるさを保持したままの荊棘入り荒縄による柵は、刀や槍しか持たない侍では容易には切ることができないでしょうし、機関銃がなくとも多数の弩で間断なく射撃することでソレに準じた働きをするでしょう。
「志能便衆は掠奪にいそしむ南越衆に紛れて、西側方面の付城を築く適地を探しなさい。普請衆は鉄条網モドキの設置が終わり次第、一部を長槍隊として残した上で砦用地の開削を実施。木に遮られた高台を優先して国吉城の粟屋に気付かれないように」
迎撃の手配以外でも、やるべきことは沢山あります。今年で国吉城を落とすつもりは無いとは言え、来年以降の為にやれるだけはやっておかないといけませんから。
そんなわけで指示が終われば私のやることはもうほとんど残っておらず、国吉城に変な動きがないかにらみを利かせながら工事や布陣を見守ること数刻、昼過ぎになって早々に掠奪を済ませた連中がほくほく顔で帰途についています。
掠奪品は主に金子、女子供、家財道具、食糧といったところですか。事前に米を買いあさっておいたために効率よく掠奪できたようです。
・・・おや、あの一団は珍しく牛や馬などの家畜類をとらえて、その背中に他の掠奪品を積載していますね。わざわざ手ぶらの馬借を連れていくとは考えましたね。あの旗印は・・・あぁ、赤座殿ですか、杣山や瓜生が加賀に加増転封した結果、空いた今庄宿の領主となった方ですね。
赤座殿の部隊は掠奪品以外の馬も目立ちますね、戦力の半数が騎兵ですか。機動力が他の国人たちと大違いですから。
のんびりと家路につく南越衆をながめていたところ、椿峠を越える列から外れて何騎か騎馬武者がこちらに向かってきます。旗印からみて先ほどの赤座殿の部隊ですね。先頭を行くのは見事な馬捌きを披露していますが、大分若武者ですねぇ。
「お前がここの守備隊の長か!俺の名は赤座狛次郎!!
おまえも騎兵にならないか!!」
これはまた凄いのが出てきましたね。元服したての若武者のようですが、妙に風格がありますね。
「まぁそんなようなものです。騎兵ですか・・・理由を伺っても?」
私が騎兵になったところで何の役にも立てなさそうですが、そこはそれ。
「ああ!敵方の城に渦巻いている怒りの闘気を感じたか?
よく練り上げられている。怨嗟の領域に近い!!
やつらは必ず襲ってくる!撃退して首を挙げる好機だ!」
不思議ちゃんなこと言いだしていますが、目の付け所はいいですね。
粟屋勢が出てくると判断する材料にしていいかはともかく、騎兵を多く擁する赤座殿が参戦する気なのは良いですね。
「狛次郎様!お待ちください!!その方は敦賀様です!!」
「なんと!!総大将が殿軍に!?いい覚悟だ!お前の名はなんだ!?憶えておきたい!!」
血気盛んな若者はいいですね。面倒で疲れる腹の探り合いとか必要無いですし。
「朝倉彦四郎景恒です。騎兵になるのは遠慮しますよ。使い物にならないでしょうからね、私のようなポンコツは。
しかしあなたもひと暴れしたいとお見受けしますから、どうです?あちらに居る私の馬廻り衆と協働しませんか?騎兵にとって最も楽しい追撃戦をご用意しますよ」
鉄条網モドキが効果を発揮するにしろしないにしろ、その後は白兵戦ですからね。騎兵なんて駒が有るのなら有効に活用しますよ。半田爺がね。
「わかった。総大将たるお前の指示に従おう。それで俺はもっと強くなる!!」
それだけ言うと、馬廻り衆の方へ行ってしまいました。
意外と軍の秩序には忠実なのでしょうか?こだわりが『強くなること』のようですし。
「申し訳ありません敦賀様。うちの者がご無礼を・・・」
「ああ、構いませんよ。あのぐらいの年頃ではよくあることです。しかし赤座殿のご子息にあれほど荒々しい若武者がおいでとはね」
現在今庄を領する赤座殿とは深い付き合いがありませんでしたが、彼はごく普通の国人領主とお見受けしたのですが。
「はい、三男でございますので、いままで表舞台に恵まれてはおりませんでした。境遇も・・・某程度が傅役でございますれば、お察しくだされ」
この方も結構若く、装備からしてそこまで家中での地位は高くないのでしょう。
「そう自分を卑下するものではありませんよ。少なくとも今ここにきている南越衆の中では一番見どころがあるとお見受けします」
「ありがとうございます。しかしそれは狛次郎様個人の才覚でございまして、『強さ』を求める道理に合わないとなれば某の言葉など全く耳を貸さぬ始末で」
おや?であれば私の提案に従うのは違和感がありますねぇ。
「そんなことはないでしょう。ちゃんと私の言葉に従ってくれていますし。自分でいうのもなんですが武芸からきしなんですよ?私」
「敦賀様の武芸については何とも存じませんが、個人の強弱など問題とならない高みで戦う敦賀様の強さを感じ取ったのでしょう。狛次郎様はここ一帯の布陣をみて”勝てる”と判断したようですし」
戦前の準備を強さ評価に加えてもらえるというわけですか・・・さらに稀有な才能をお持ちのようで。
「なるほど、それならば抜け駆けとかの心配は要らなさそうですねぇ。追撃時、もしくは必要性を感じた場合は自由判断で動いてよいとお伝え願います。馬廻り衆に遠慮はいらないとね」
「ははっ!失礼いたします!」
予想外に強力な手札を得ましたね。これがどう転ぶでしょうか。あまり殺しすぎてもいけないんですが・・・まぁなるようになるでしょう。
そして日が沈みかける頃、予想通り欲に目がくらんで置いてけ堀状態になった南越衆の残党50程度を追い立てて、粟屋勢200弱が迫ってきました。
「思ったより多いですねぇ・・・守備隊を残し全力とは。こちらの総勢180なんですけど。しかもそのうち隠れている弩隊が80」
「すべてを同時に相手するわけではございませんからな。先手から順に潰せば問題ありませんぞ」
「その通りではありますね。では予定通り爺に軍配を預けます。以後は己の判断で指揮しなさい」
「承知いたしました。お任せあれ」
というわけで開戦です。両軍の布陣はこんな感じです。
申し訳ないんですけど南越衆の残党は障害物扱いですね。すこしでも生き延びられるようお祈りいたします。
で、結果はというと・・・勝ちました。完勝です。なんなら怪我人すら出てません(南越衆を除く)。
そりゃ南越衆が釣り野伏の餌として機能した上で鉄条網モドキに阻まれて接敵すらできずに弩の餌食でしたからねぇ・・・あっという間に築かれる死体の山に怖気づいたのか、早々に崩れだして退却していったのでそこまで損害を与えたわけではないですがね。追撃戦合わせて50程首級を挙げたようです。
粟屋勢の損害が思ったより少なくてよかった。あまり酷いと来年以降の戦略に響きますからね、貴重な胃袋ですから有効利用しないといけません。
ともあれこれで暫くは順調に進みそうです。岩出山砦、中山砦のみならず椿峠砦も今回の在陣中に完成できそうです。
あと予想外の収穫といえば、これですね。
「見事な戦だったぞ景恒!おまえは俺の雇い主にならないか?それで俺はより強くなる!」
「歓迎しますよ赤座殿。俸給雇いでよろしければね」
私の何を気に入ったのか、かなりの練度を持つ騎兵隊を手に入れました。あの機動力は貴重です。有効活用する場を整えるとしましょうか。
読んでいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク・★評価・感想等お願いいたします。
・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。




