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無情のアレンシア

一応これで〆です。

「――あ、あのっ!アレンシアさんですか!?」

「……そうだけど、あんた誰?」

「わ、わたくしはローラと申します」

「ふ~ん」

 いきなり押しかけてきたこのローラという少女に初めに抱いた印象はすっげえ可愛い子がやって来た!とめちゃくちゃテンションが上がったのを覚えている。

 あまりにもテンションが上がり過ぎて素気ない態度を取ってしまったほどだ。


 今までも近所の可愛い子や美人なお姉さんたちから誘惑されて関係を持ったことはあるが、その中でも群を抜いて可愛い!

 ただ、こんな可愛い子なのに今まで会ったことがないのが不思議だ。

 いや、不思議ではないだろう。こんな美人がいたら日常会話のついでにどこで何をしていたという情報が入ってくるレベルだ。


 つまり、結論としてはローラという少女はこの辺りの人間じゃない。

 それがおれを尋ねて来た。……なんでだ?


「……で、そのローラとやらおれに何の用だ?」

 おれに恋をして……そんな雰囲気じゃないんだよな~。どちらかというと決死の覚悟を感じる。

 一度だけ、自分のすべてを賭けようとするバカに会ったことがある。幼馴染のそいつは勇者として魔王討伐の旅に出かける時にそんな雰囲気を放っていた。

 運よくあるいは首尾よく魔王を討伐せしめたことはこんな田舎にも届くほどの一大ニュースだ。幼馴染としては鼻が高いぜ。


「あ、あなたとネストール様、いえ勇者様の婚約について話があって来ました!!」

「……ネストール??………あ、ああ!トールのことか!」

 ビックリした~。ネストール様なんて言うから一体誰のことかと思ったぜ。その後に勇者って単語がなければ思い出せなかったかも。


 それにしてもネストール。そう言えばそんな名前だったなと懐古する。昔はそれこそ男友達のように“アレン”と“トール”って呼びあってたからな。

「あいつについてか。懐かしいな。ここを出て行ってからもうどれぐらい経つんだっけ。泣き虫だったあいつも今じゃ勇者になって魔王を倒したんだろう?あっ、もしかしてあんたあいつの仲間なのか?」

「えっ?は、はい。旅の最初から同行させていただいておりました」

「そうかそうか。世話になったな。そうかぁ、勇者の仲間か……」

 だからこんなに可愛いのかな?


 ……んっ??

「ちょっと待て、さっきトールとおれの婚約の話って言わなかったか?」

「は、はい!そうです!」

「……悪いけど、何のことだ?」

 婚約ってあれだよな、あの将来的に結婚しますというか……こいつはおれの女(男)だからてめら手ぇ出したらただじゃおかないぞっていう周りへの牽制。


「あいつとは幼馴染だけど、婚約なんてしてないぞ?」

「えっ!?」

 なんであんたが驚くんだ?

 こっちが驚きたいよ。


「ででで、ですがっ!」

「……一旦落ち着きな?」

「は、はいっ!すーはーすーはー……ふぅ、落ち着きました」

 やべえ、何から何まで可愛い!!


「ですが、ネストール様は旅立つ前に確認をしたとおっしゃっていましたが?」

「……確認?」

 ああ、そう言えばあいつ旅立つときに一緒に来てくれとか言ってたっけ。その時になんか昔の約束を覚えてるかとも言ってたような……。

 あれっ?もしかしてそれか?


「……あぁ、もしかしたらってことには思い当たった」

 正直、昔の約束なんて覚えちゃいないがもしトールが覚えてたら面倒だな。あいつ無駄に執念深いからな。昔だって周りは全員諦めてるのに、何度も挑んできて相手するのが面倒臭くなったことあったもんな。そのくせ、自分が勝てるまで続けようとするんだから余計に疲れちまったよ。

 おれも意地になってボコボコにしたせいもあるかもしれんけど。


「……やはり、そうなのですね」

 あれっ!?なんか悲しげ?

「お願いしますっ!不躾なお願いで失礼は重々承知してますが、どうか別れてください!わたくしはネストール様を愛してしまったのです!!」


 う、うおおお……!

 眩しい。美少女の愛の告白……自分に向けられたものじゃないのになんて眩しいんだ。

 くっそ~トールのヤツ羨ましい、妬ましい……!


「て言われても、別におれはあいつとの婚約なんて覚えてないんだぜ?」

 そんなおれの許可が必要かね?

「それでもネストール様は覚えています。そして、あの方はきっとまだあなたを愛しておられます!」

「お、おう……」

 勢いに押されるが、本当にそうだろうか?

 あいつと交わした約束についてはまったく思い出せないが、こんな可愛い子と一緒にいておれみたいな男か女かわからないヤツのことなんて気に掛けるかな?


「お願いです!別れてくださるなら出来る限りのことをさせていただきます!」

 う~ん、正直別れるのはどうでもいいんだが、このまま美少女とトールが恋人になんのもちょっと癪だな。かと言って、何かしてほしいことか……。

「あっ、一つだけあったわ」

「な、なんでしょうか?」


「一万ゴールドくれね?」

 ちょうど欲しいモノがあったんだよね~。

 田舎じゃそんな大金手に入らないから諦めてたけど、勇者の仲間ならたんまりと報奨金をもらってるだろうからそれぐらいは容易いだろう。


 こうしておれは幼馴染との約束を思い出せないままに、婚約を一万ゴールドで売り払った。




「アレン!!」

「……んっ?おおっ、トールじゃねえか!」

 ローラが去ってから三日後、今度はトールがやって来た。いや、この場合は帰って来たって言う方が正しいのか?

 なんにせよ、故郷に英雄の帰還だ。

 今夜は盛大に祭りだな!


「……なんでそんなに嬉しそうなの?」

 幼馴染が立派になって帰ってきた。ついでに言えば美味い酒が飲めると喜んでいたらトールは何故か不機嫌だ。

「あれ?そう言えばローラはどうしたんだ?」

 お前たち、結婚するんだろ?

 今日はその挨拶じゃなかったのかよ。


「やっぱりローラに会ったんだね?」

「んっ、ああ会ったよ。そうそう一万ゴールドありがとさん!」

 おかげで欲しかったモノが買えたぜ!

「そうだ、お前にも見せてやるよ」

「……アレン、アレンにとっての僕って一万ゴールドの価値しかなかったの?」


「……はっ?何言ってんだ?一万ゴールドもあるわけないだろ?」

 友情はプライスレスって言うじゃねえか。

「アレンーーーー!!」

 気を利かせたつもりだったのに、トールの返事は予想外もしないものだった。

 何故か激昂したようにおれの名を叫び、そのまま斬りかかって来たのだ。


「……トール、一体何の真似だよこれは?」

 おれはそれを軽く受け止めつつも、内心では怒りでおかしくなりそうだった。

 こっちは結婚を祝ってやろうとしているのに、いきなり斬りかかってきやがって……!


「うぎぎぎい……!!」

「おいおい。魔王を倒した勇者様の実力はこんなもんか?」

 伝説上の化け物を倒したって聞いたから少しは期待していたのに、がっかりだ。

 これなら昔の方がまだ歯ごたえがあったぜ。


「どうした?デカくなったのは態度と図体だけか!」

 強くなったお前と戦うそんな日を思って鍛えて来たのにおれの思いは無駄だったのか!

 せっかく、お前の武器に見合う得物も手に入れたってのによ……!


 必死に逃げようと努力していたトールだったが、結局は昔のように諦めて最後には降参した。

「……痛く、しないで?」

「ぷっ――ああ、昔馴染みだからな」

 情けない泣きっ面を見ていたら、昔のことを思い出した。

 粘るくせに最後の最後には涙を浮かべて懇願して来たんだよな。


 わかったよ。

 お前が昔と何一つ変わってないってことはな。

 そして、おれとお前の関係も変わってないならこれからまた昔のようになれるってことだろ?


 期待は裏切られた。

 だけど、これからは少し楽しみだ。

 だから、これを使うのはもう少し先にするよ。

「どっせええええい!!」

 おれは昔のように笑顔で拳を振り抜いた。





「見つけましたわ!!」

「……んっ?あんたはこの間の」

 超絶美少女ローラじゃないか!?


「なあなあ、この間の話ってどうなってんの?一週間ぐらい前にトールのバカが凄い剣幕で怒鳴りこんで来たんだけど?」

「やはりネストール様はここに来ていたのですか……」

 あれっ?やっぱりローラはトールがなんで来たか知らなかったのか。

 本当にあいつは昔から突拍子もないことをするよな。将来の奥さんは大事にしておけっての。

 

「申し訳ございませんでした」

 いやいや、ローラが謝ることなんてないって。なんも伝えなかったあいつが悪いんだから。だけどここは未来の奥さんの顔を立てておれが悪役になってやるか。

「まったくだぜ。いきなり襲って来やがったから、思わず返り討ちにしちまったじゃねえか」

「……はっ??」


「それにしてもあんにゃろうも情けねえよな。自分はしこたま儲けてるはずなのに、たった一万ゴールドであんなに怒り散らすなんて」

 こりゃあ、ローラは将来的に苦労するぜ。今のうちにしっかりと財布のひもを握っておかないとな?


「……そうですか。そういうことだったのですかっ!」

「なっ!?」

「……へぇ、よく止めましたね」

 うわービックリした。この夫婦、いきなり襲いかかるのが流行ってのか?

 距離が縮まったから何かしてくれるのかと期待したじゃないか。


 ……いや、待てよ。

 もしかしたらこれは舐められた夫の代わりに妻が仇を討つというあれか?

「舐めているのですか!」

 やっぱりか。だが、立ちはだかる困難が大きければ大きいほど乗り越えた時の感動は凄まじい。……という建前の下、お仕置きをしよう。

 人を襲ったら返り討ちに遭う。それが世界の常識だ。


 ついでにトールじゃ試せなかった剣の強度でも試させてもらおうか。

「どせえええええい!!」

「キャアアアアーーきゅん」


「おお~飛んだ飛んだ」

 やっぱり勇者の仲間は丈夫だな。

 可愛い子に手を上げるのは気が咎めたが、大丈夫そうだ。もう立ち上がって来たぞ。


「…………」

「……何だまだやるか?」

「好きですっ!」

 抱き着かれた!?


「ネストール様よりも遥かに強いあなたに心を奪われてしまいました。尻軽と言われても構いません!わたくしと付き合って下さいまし!」

「――もちろん!」

 トールとの婚約を一万ゴールドで売って、加えて恋人を奪うなんて……即答したけど、色々早まったかも。こんなことならもうちょっと高値で売ってやればよかったかも。




「アレン!僕を一万ゴールドで売り払っただけじゃなくてローラまで奪うなんて許せない!勝負だ!!」

 ローラがおれと付き合うようになって、トールは頻繁に帰ってくるようになった。

 そのおかげで儲け話もいくつか出てかつてない盛り上がりを見せている。

 おれも昔のようにトールと過ごせて楽しいしな!


「……ねえ、アレンシア。あなたもネストール様のことを好いているんじゃないの?」

 ある日、ローラがそんなことを聞いてきた。

「そうだな。別に嫌いじゃあないよ」


「じゃあ、付き合ったりとか結婚したいとかは?」

 う~ん……そう言われると微妙に違う気がする。

 なんていうかあいつと一緒にいるのはピンと来るんだが、あいつが夫として過ごすのはなぁ。

「……まあ、そのうちあなたも本当の気持ちに気付くのでしょうね」

 ローラは笑っていたけど、本当にそんな日が来るんだろうか?



「……トール」

 その日は激しい雨が降っていた。

 世界は魔物がいなくなったことで盛り上がってるって言うのに、こいつは家の前で膝を抱えていた。とても世界を救った英雄だなんて思えなかった。


「情けねえな」

 その姿を見ていたら、自然とある言葉をかけていた。

「……そんな情けない姿を見たら、放っておけねえ。しょうがねえから、おれがお前を貰ってやるよ」

「アレン……!」

 なんか異常に感動してるけど、これがおれたちなりのハッピーエンドかな?





 ――幼い頃、嵐の中で山に行って遭難しかけたことがあった。

「ひっぐ、うぅぅ……」

「泣くなよトール。別にちょっと風と雨が強くて雷が鳴ってるだけだろ?」

「で、でも、ママは家から出るなって!出たら戻ってこれないって!」

「大丈夫だって。おれがいるだろ?」

「アレン~」

 まったく情けないなぁ。

 こいつを見てたら、放っておけねえ。


「――そんなんじゃあ、大人になったても苦労するぜ。しょうがねえからおれが婿に貰ってやるよ」

 幼い頃に交わしたそんな約束をおれは覚えてはなかったけど、同じようなセリフでトールを貰うなんて思わなかった。




【勇者の剣・レプリカ】:10000G

最後はちょっと駆け足になりましたが、タグにあったように一応ハッピーエンドです。

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