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婚約破棄シリーズ

一途だからこそ得することがある

作者:大小判
皆さんのご意見ご感想お待ちしております。後書きにはちょっとした解説みたいなのを載せてますので、よろしければそちらもどうぞ。



 それは国王陛下並びに王妃殿下もいらっしゃる王立学院の卒業記念パーティーでの出来事だった。
 我がハーネット家は国王陛下の覚えも目出度く、父と、父を支える母の邁進もあって公爵位を戴いた新興の名門だ。俺はそんなハーネット家の跡取りとして日々精進し、少しずつ父の仕事を任せてもらえるようになると、幼いころからの婚約者である騎士団長のご息女カトレア・シェラザード伯爵令嬢と結婚することになるんだろうなーと考えていた矢先。

「我が兄アルフォンス・ハーネットよ!! 貴様は婚約者である伯爵令嬢カトレア・シェラザードが居る身でありながら、不特定多数の女性に肉体関係を強要していたことは明白! 次期公爵家跡取りとして、カトレア嬢との婚約破棄及び、公爵家からの勘当を言い渡す!!」
「はぁ?」

 今まさに俺の婚約者であるカトレア嬢含む、複数の女性(しかも全員美少女)を侍らせておいて何言ってんのこの馬鹿弟。
 まぁ、聞いての通り俺の双子の弟であるクロイス・ハーネットが全く身に覚えのない冤罪を吹っかけてきたばかりか、何の権限も無いのに公爵家から勘当するって言ってきたわけですよ。

 話が急に変わるが、クロイスは美形の両親に似て絶世の美男子だ。俺? 俺は「貴方は実は橋の下で拾ってきたのよ」と言われても不思議に思わないくらいのフツメンだ。どうして双子の間でこんな顔面格差社会が生まれたのか。神様は死ねばいいと思う。

 だがそんな美形なクロイスも、この状況の中心にいればただただ滑稽だ。国王陛下の目の前で、何の前触れもなく複数の女性を引き連れながら婚約破棄&勘当宣言。しかも引き連れている女性の中に第二王女殿下がいらっしゃれば目が点になるというもの。うちの両親やシェラザード伯爵夫妻なんか既に顔面蒼白だし。

「国王陛下、異様な状況ですが、どうやら私がその渦中に居る様子。発言してもよろしいですか?」
「……許す。述べるが良い」

 目元を片手で覆い隠して天井を仰ぎ見る陛下。…………心中、お察しします。

「今は卒業生や在校生、来客の皆様方が楽しみにしていたパーティーの最中。これ以上騒ぎを起こしては申し訳ない。ここは関係者だけを別室に移動して話の続きをいたしませんか?」
「そうだな。そなたの言う通りだ。皆の者、騒がせてしまったがパーティーは継続。余が居なくとも存分に楽しんでくれ」



 こうして俺は王族の皆様、両親、シェラザード夫妻にクロイスと愉快な仲間たち(しかも10人くらいに増えた)、そして側近執事のマイケルや一部の取り巻きの親族と共に別室へ移動。防音処理されたこの一室は内容を漏らしたくない会話をするにはピッタリだ。

「えーっと、それでなんだってクロイス? 婚約破棄に勘当? 何を突然訳の分からん頓珍漢なこと言ってんの? 恐れ多くも国王陛下の御前だぞ?」
「お父様、これは必要な事なのです! 悲しいことにお父様が爵位を与えた家から罪人が出てしまいました。このままではお父様の名誉にも傷がつきましょう。そうなる前に罪人を断罪し、示しをつけなければならないのです!」

 ちっ……王女殿下がいると話がややこしくなるな。弟と一緒になってアホな事やってるけど、なまじ地位があるだけ身分が下の者の意見を捻じ伏せてしまう。王族を引き合いに出して冷静さを取り戻そうとしたけど、向こうにも王族がいるんじゃ無理っぽい。て言うか、俺がすでに脅迫罪を犯したことは決定かい! 

「少し冷静になっていただきたいのだが……カトレア嬢。我々の婚姻は国王陛下もお認めになった両家と国の更なる発展を目指したもの。それを蔑ろにしてまで断罪するという、俺の婦女に対する肉体関係の強要……その証拠は当然あるんだよな?」
「貴様に名前で呼ばれたくない!! 吐き気がする!」
「カトレア! アルフォンス君に何て事を!?」

 吐き気がするって、一応俺、婚約者なのに……。しかも曲がりなりにも幼馴染にそこまで言われると傷つく。

「ふん」

 そしてここでクロイスのドヤ顔。心底ウザい。殴りたい、その笑顔。

「当然証拠はある。彼女たちの顔に見覚えはあるだろう?」

 クロイスが柏手を叩くと、取り巻きの中から女子生徒が5人前に出てきた。どれも特に交流のない生徒ばかりだけど、まさか彼女たちが被害者として証言し、それが証拠だなんて言う気だろうか?

 いやいや、流石にそれは無いでしょ。物証や第三者の証言ならともかく、被害者証言だけで罪を問えるほどこの国の法は甘くはない。中等部で習うような裁判の基礎を知らないなんて、そんな馬鹿な話は無いだろう。

「貴様がこの1年、下劣にも我が公爵家の権力を笠に着て『他の者に話せば家族や友人に圧力をかける』と脅し、これまでの辱めに歯を食いしばって耐えてきた者たちだ。僕が問い質さなければ、彼女たちはただ傷つけられるだけだっただろう」
「うん。それで?」
「それで、だと!? 貴様、何処まで外道なんだ!? 辱められ、涙を流す女性を前にして良心の呵責は無いと言うのか!?」
「彼女たちが被害を受けたのが事実なら、嘆きもしよう。涙も流そう。でも俺が加害者のように言われてもまるで身に覚えがない。俺が彼女たちを辱めたという証拠をくれと言っているんだ」
「彼女たちの証言こそが証拠ではないか!!」

 やばい、頭が痛くなってきた。母上はショックで立ち眩みをして、父上にもたれかかってるし。俺もいっそのこと倒れたいけど、そうも言ってられないしなぁ。

「幼少のころから知っていながら貴様の本質を見抜けなかった私にも非があるだろうが、貴様のような強姦魔が婚約者だったとは私の人生の汚点だ!! 今すぐ頭を床につけ、彼女たちに詫びるがいい!」
「次期女王として最後の慈悲ですわ。彼女たちに誠心誠意謝罪するというのなら、命だけは取らないで上げましょう」
「まったくですぅ! どうして兄弟なのにここまで違うんでしょ~? クロイス先輩は紳士的で聡明な素晴らしい人なのにぃ!」
「おまけにクロイスが領民や国家の為に尽力してる間にも権力を笠に着て遊び呆けるなんて許されることじゃないわ! 今すぐ王女殿下の沙汰を受けなさい!」
「君のしたことは人として最低な事なんだよ!? 公爵閣下や弟のクロイス君に恥ずかしいと思わないの!?」

 カトレアと皇女殿下を筆頭に学園でもトップの美少女たちが一斉に罵声を浴びせてくる。
 貴女は次期女王に決定したわけじゃないだろうとか、人の仕事をさも自分がやりましたみたいに言いふらすなとか、ツッコミたいことが山ほどあって何から言えばいいのか分からん。

 ていうか、何か悪を断罪する自分たちがカッコいいみたいな空気に酔ってるけど、周囲の白けた空気に気付かないのだろうか? 王妃殿下は「私の育て方が悪かったのかしら」って泣いてるし、シェラザード伯爵や父上は頭に血管が浮かんでるし、母上と伯爵夫人は気絶、国王陛下は何ともいえない表情で頭を抑えているし、取り巻きの親族の皆様も愕然の表情。これで俺が傍観者だったらどれだけ良いことか。

「…………マイケル、俺の過去の予定表は持っているな?」
「勿論にございます、若様」

 燕尾服の懐から分厚いスケジュールノートを取り出すマイケル。その表情はクロイスに対しての失望がありありと浮かんでいる。 

「さて、ここに居る被害者の女子たちはこの1年で俺から性的脅迫を受けたと言うが、大まかでいいのでその時期を教えてもらえるだろうか?」 
「アルフォンス・ハーネット! 貴方はまたそうやって!」
「よい! 国王の名において許す!」
「なっ!? お父様!?」
「ありがとうございます、陛下。それでは右端から」

 明らかに後ろめたい事をしていますと言わんばかりに顔を真っ青にしながら震える女子生徒たちに出来る限り穏やかに問いかける。

「わ、私は去年の3月の中頃に講堂の裏に呼び出されて……」
「去年の3月に講堂……マイケル」
「若様は去年の3月1日から4月2日までの間、隣国まで交換留学に出ております」
「……え?」

 女子生徒の顔が青を通り越して真っ白になった。この反応だけで嘘言っているのが分かるな。

「う、嘘だ! 出鱈目を言うな!!」
「従者の言、余が保証しよう。アルフォンスは余の推薦で隣国の学園に通う公爵令息と入れ替わる形で国外に出ていた」
「そう言う事だ。さて、留学期間中に被害を受けた他の女子生徒は?」

 国の最高権力者の保証。これに異を唱えられるものはこの場には居ない。そして嘘が一つでも見破られた時点で、他の被害者報告の信憑性も弱まるのだが、クロイスが残りの女子生徒を濁った眼で睨みつけると、彼女たちはビクリと肩を震わせた。

「……居ないようだな。じゃあ次。そちらの生徒は?」
「私は6月に学園の裏庭で」
「若様は6月中、領地視察で学園には通っておりません」
「そんな都合よく居ないわけが無いだろう!」
「私が保証しよう。領主として、アルフォンスには南の町村の視察に行ってもらっていた」

 カトレア嬢が反論しようとしたところを父上が俺の行動を保証。これで2人目も嘘をついたことになるのだが、どうせなら最後まで論破しよう。

「は、8月の夏季休暇中に、私の家の近くまで来て」
「夏季休暇中はご隠居様の居らっしゃる避暑地でバカンスと仕事をしてましたね」
「9月に図書室で」
「ここ数年図書室に足を踏み入れた覚えはありませんが、後で図書室入り口の映像魔石をチェックしてみましょう」
「そ、そんな……!」

 3人目はあっさりと撃沈、4人目も顔を青くしていることから嘘だろう。さて、最後の一人だが……。

「こ、今年の2月15日……ほんの10日前の放課後に空き教室に呼び出されて……」

 んー、その日の放課後は俺は予定は入っておらず、プライベートの時間を過ごしていた。アリバイを証明してくれる人もいるっちゃあいるんだけど、これを話すのはちょっとなぁ……。

「その日のアリバイは私は証明します」
「ア、アルフィナ殿下!?」

 そんな一声で部屋に入ってきたのは、長い金髪を三つ編みにした美姫。この国の第一王女であらせられるアルフィナ殿下だ。

「な、何で? どうしてここでアルフィナが出てくるんだ? どんなに学園を探してもいなかったのに」

 ポツリと小さな声でクロイスがなんか変な事を言った。
 アルフィナ殿下は大変聡明で王妃殿下と並んで淑女の鏡と称される方だが、生まれつき体を弱くされていて、学園には籍だけ置いていて城で家庭教師をつけて勉学に励んでいるのは周知の事実のはず。何でそんなことも知らんのだ? ていうか呼び捨てにすんな、敬称使えよ。

「お、お姉様……!」
「ルーシア、愚かなことをしましたね。王族として皆を諫める立場にありながら他の者と一緒になって罪の無い者を断罪しようなど」

 ちなみに、ルーシアと言うのは第二王女殿下の名前だ。

「あの日の放課後すぐに、私が少し我が儘を言ってアルフォンスをお茶会に誘ったのですよ。彼に空き教室へ行く時間は無い筈です」
「そ、そんな……」

 俺が言いたくない理由がまさにこれ。政略結婚が常の王族には珍しく、陛下の掌中の珠であるアルフィナ殿下には婚約者がいない。そんな王女殿下が一応婚約者がいるとはいえ、男とお茶会なんて醜聞になりかねない。それを知った上で真実を話すなんて……。

「……まぁ、これでそちらの証言は殆ど論破できたと思う。まったく、こんなヘタな濡れ衣を着せてこようとは。大方、公爵家の跡取りなんて地位に惹かれて簒奪しようとしたんだろうけど、手段が杜撰すぎやしないか?」
「……黙れ」

 屈辱で顔を真っ赤にするクロイス。カトレア嬢は俺のこと睨んでるし、ルーシア殿下や他の取り巻き3人は論破されて青ざめてる。これ以上何が出てくるのか、茶番通り越して見物だな。

「兄弟の情として命だけは取らないように配慮したが、あくまで罪を受け入れないならこちらも手段は選ばない」
「公爵家の跡取りに相応しくないにも関わらず優秀なクロイスを押しのけたばかりか、貴様が国に仇なす大罪人なのだからな!!」
「そ、そうですわね! 私たちは、処刑するに相応しい大罪を犯している現場を見ましたもの!」

 取り巻き立ちは息を吹き返したように活力を取り戻した。なんだそりゃ? どーせまたしょうも無いことだろ? 

「お父様! この男は薄汚い亜人族と密売を交わしていた大罪人です! この事が公になる前に首を刎ねてしまいましょう!」

 亜人族。それは人間と勢力を二分する動物や魚、爬虫類の特徴を持つ人間ならざる人々の総称。長きにわたる無理解から偏見と恐怖を抱いてきた相手だが……よりにもよって、よりにもよってそれを言うか!

「ルーシア、貴女自分が何を言っているのか分かっているのですか……!?」
「お姉様……? 何をそんなに怒って……?」

 これは勉強してないとか、世間知らずとか、そんな小さな問題じゃない。大衆の先導者である特権階級として言っちゃいけないことだ。密室で話してよかった。王族がこれほどの問題発言、外に漏れればえらい事になる。

「そなたたち、何故亜人族を薄汚いなどと罵った?」
「え? そ、それは……」

 陛下の低い声に取り巻き立ちは一斉にクロイスとルーシア殿下、カトレア嬢を見る。なーるほどなるほど、よりにもよってこいつらが言い出したのか。

「クロイス……お前は父上がどのような功績を持って公爵位を得たか知らないのか?」
「し、知らないわけないだろう!? 陛下のご命令の下、父上が主導となってシェラザード伯爵と共に亜人族の軍勢を打ち負かしたからだろう!?」
「その様な事実は一切ない!」

 父上はクロイスを一喝する。続けて怒鳴ろうにも怒りのあまり声が出ないらしい。おバカなクロイスたちへの説明は陛下が引き継いだ。

「余がハーネット公に命じたまではあっておる。ただし、それは亜人族との友好を目的としたものであって、間違っても敵対を目的としたものではない。長きに渡って両種族の無理解からくる恐怖を取り除き、人間と亜人の懸け橋となったからこそ、余はハーネット家を公爵として国の重鎮としたのだ」
「え?」

 昔から勉強嫌いで人の話を聞かない奴だったが、まさか父上の仕事の内容を欠片も知らなかったとは驚きだ。こいつは一体今まで何を学んできたんだ? 学園でも亜人族との友好について教えられてきたはずなのに。

「そしてハーネット公が結んだ縁をより太く、より強くするために若くして尽力してくれたのが、ここに居るアルフォンスだ。交換留学もその一環。隣国はいち早く亜人族との物流を営んでおったからな。ルーシアよ、お前は王族として何を学んできたのだ?」
「う……あ、ぁ……!」

 陛下から絶対零度の眼差しを受けて言葉にならない声しか出せないルーシア殿下。

「亜人族の討伐に参加したなど、勘違いも甚だしいぞ、カトレア。亜人族は明日の良き隣人、良き友だ。そんな彼らを薄汚いなどと、見下げ果てたぞ」
「ち、父上……そんな! ち、違うのです! 私はその……!」

 失望と侮蔑の眼差しを向けられ必死に言い繕おうとするカトレア嬢。

「う、嘘だ……! だってこんなの、シナリオと全然違うじゃないか……!」

 また何かわけの分からない事を言ってるクロイス。だがそんなことはもはやどうでも良い。

「陛下、此度の息子の不始末、全て親である私の不徳と致すところ。如何なる処罰も覚悟の上です」

 父上を先頭に、シェラザード伯爵と取り巻きの親族たち、その中に俺も加わって一斉に陛下に首を垂れる。

「よい。それは余も同じことだ。それに亜人族との交流にはそなたたちの協力が必要不可欠。腹黒い話ではあるが、子供の責任を親に押し付けまい。だが、騒動を起こした者たちは残さず処罰せねばならん」
「分かっております。クロイスとは親子の縁を切り、公爵家から追放しましょう」
「なっ!? 父上、何を言っているのですか!? たかだか騒動と失言だけで勘当などと!」

 確かに、実害が無かった以上せいぜい謹慎と再教育が関の山だろう。だが残念なことに、クロイスの勘当は決まっていたことだ。

「なら勘当に値するだけ事をしたという証拠を見せてやろう。マイケル、シャーリィを呼んできてくれ」
「わかりました」
「な、なぜ今ここでシャーリィを……!?」

 クロイスは明らかな動揺を見せた。シャーリィと言うのは、祖父の代から家に仕えてくれている執事長の爺やの孫娘で、マイケルの婚約者である侍女だ。

「この度は国王陛下の前で発言を許されることとなりました、シャーリィです。この度は若様のご指示で、クロイス様が私を含め、多くの女性を脅迫したという証拠を持ってまいりました」

 マイケルに連れて来られたシャーリィは肩に掛かる茶髪を揺らしながら頭を下げる。

「な、何を馬鹿な事を言っているぅぅぅ!? ひ、被害者の証言だけでは罪には問えないんだぞ!? 分かっているのか!? 貴族である僕には向かえばどうなるのか!!」
「お前は黙っていろ!! シャーリィ、続けてくれ」

 まったく、幻視したデカいブーメランを中身スカスカの頭に叩き付けてやりたいぜ。

「こ、この胸元のブローチは裁判の証拠用に使われる映像魔石です。ここに私とクロイス様の会話の一部始終が収められています」

 ブローチを外すと中心の石が光だし、壁に映像が映し出される。そこには下卑た表情を浮かべるクロイスの姿が。

『いい加減僕のハーレムに加われよ、シャーリィ。後はメイドとアルフィナ王女が加われば、僕の理想のハーレム軍団が完成するんだから』
『いや……! どうかお止めください……! 私にはマイケルという婚約者が……!』
『あぁ、知っているさ。でもいいのかな? 君が言う事を聞かなければ、彼の病気の母親の治療も幼い弟妹の教育も受けられなくなるよ?』
『そ、そんな……』
『おい、クロイス。そこで何をやっている?』
『チッ、兄上か。まぁ今日のところは良い。考えておいてよ、マイケルにとって一番いい選択が何なのかをさ』

 そこで映像が止まる。うーん、今時いるか? こんな絵にかいたような下種。

「わ、私まで狙われていたのですね」
「本当に申し訳ないです。でも、貴女の身に何事も無くてよかった」

 だから俺の腕にしがみ付かないでください殿下。割と親馬鹿な陛下がこっち睨んできて怖いんです。

「ど、どういう事ですの!? クロイス、本当に愛しているのは私だけだとおっしゃったではありませんか!」
「説明しろクロイス! あの夜の出来事は嘘だったのか!?」
「えぇ~ん! 私、クロイス先輩にファーストキスまで上げたのにぃ~!」
「どういう事!? 浮気なのクロイス君!?」
「私と付き合っておいて他の女にまで手を出してたの!? 最っ低!!」
「ち、違う!! 僕はみんな平等に愛してただけで……!」

 何かクロイスとその取り巻きが喧嘩し始めた。それも殴る蹴るの爽やかな奴じゃなくて、男が委縮するしかない系の喧嘩だ。
 映像でもハーレム云々言ってたけど、やっぱり取り巻きの女子たちもハーレムメンバーとやらか。だがそんなもん上手くいく訳がない。一夫多妻制の国ですら女のドロドロした戦いが日常茶飯事だと言うのに、一夫一妻制のこの国でハーレムなんて修羅場以外何物でもないだろう。

 まぁ、所詮ハーレムなんてのは妄想の産物。みんな仲良しこよしなんてありえないってことだな。

「その他にも、若様はクロイス様が脅迫していた女性を見つけ出し、協力を仰いで映像記録を集めておりました。こちらがその証拠である映像魔石で――――」
「……よ、余計な事をするなぁああああああああああああああっ!!」

 証拠品の映像魔石を差し出そうとしたシャーリィをクロイスは取り巻きを乱暴に押しのけて殴り掛かった。

「きゃあああああああああっ!?」
「あ、危ない! ぐああっ!」

 そうはさせまいとシャーリィの前に飛び出したマイケルが代わりに殴られ、床に転がる。

「この……大馬鹿野郎がぁっ!!」
「ぐぼぉああああっ!!?」

 怒りに身を任せ、渾身のダッシュ右ストレートをクロイスのイケメンフェイスに炸裂させる。白い塊が3つほど口から飛び出したが、それは多分クロイスの歯だろう。

「お前という奴は……! 貴族が守るべき民を……それも育ての親同然の爺やの孫娘を脅した挙句に殴りかかるとは……! お前は屑の中の屑、貴族としても男としても見下げ果てた野郎だ! 恥を知れ恥を!!」
「い、痛い……! 父上にも殴られたこと無いのにぃ!」
「何なら今私がこの場で殴ってくれるわぁっ!!」
「ぎゃばぁああああっ!!?」

 さっき俺は顔面の右側を殴ったけど、今度は父上がクロイスの左顔面をぶん殴った。口から飛び出した白い塊はやっぱりクロイスの歯だと思う。



 とまぁ、こんな騒動から1ヵ月。クロイスの自慢の顔面が見る影も無くなり、陛下の一声でその場の騒ぎは終結した。多忙を極めた事後処理がようやく片付き、タイミングを見計らったようなアルフィナ殿下の茶会の誘いに乗った俺は、王城の庭園で殿下と向かい合いながら紅茶を飲んでいた。

「大変でしたね、アルフォンス」
「まったくですよ。今回ばかりはお家取り潰しを覚悟しました」

 散々騒動を巻き起こしたハーネット家だったが、陛下が仰ったとおりクロイスを切り捨てることで何とか事なきを得た。他の取り巻き……クロイス風に言うならハーレムメンバーたちも謹慎や修道院送り、金策目当てで妻のいない中年貴族の元に嫁がされたとか。面倒な手続き等を全部こっちに回ってきて超大変だったけど。あんな思いは2度とごめんだ。

「大変というなら、そちらもでは? 確かルーシア殿下が隣国の王弟殿下の元に嫁がれるとか」
「はい。流石のお父様やお母様も、今回の事は堪えているようで」

 悲しげに瞳を伏せるアルフィナ殿下。隣国の王弟殿下を一言で表すなら狸親父で、有能だが50代独身の好色な人物だ。なんだかんだ言って、国王陛下も王妃殿下も御子を大切にしておられたし、アルフィナ殿下も昔は(・・)妹を可愛がっておられた。醜聞付きで隣国に嫁がされる末姫の未来を憂いていらっしゃるのだろう。

 俺の婚約者だった(・・・)カトレア嬢も今は自宅謹慎。鬼の騎士団長の極めて厳しい再教育の真っ最中だとか。たとえ無事再教育がすんでも、貴族である彼女の名誉が回復する機会はほとんどないだろう。いっそのこと平民になった方がまだ幸せかもしれないが、シェラザード伯爵曰く、貴族のまま置いておく事も罰の一環だとか。

 ちなみに俺の冤罪の証言をした5人については、実はクロイスとルーシア殿下、カトレア嬢が家の圧力をかけて脅して言わせていたことが判明。その証拠も無事とれて罰則は厳重注意……要は次同じ事したら容赦しないという最後通告ですんだ。

 そして元弟、クロイスは身につけている安物の服と最後の慈悲として持たせた僅かな金銭と共に家から叩き出した3日後、全裸の状態で死んでいるのを発見された。多分山賊にでも襲われたのだろう、何とも哀れな最期だった。

「成長とは残酷なものですね。良くも悪くも変化をもたらし、あんなにも可愛かった子たちを破滅へ追い込むのですから」
「えぇ、まったく」

 何のしがらみも感じなかった子供の頃。俺とアルフィナ殿下、クロイスにルーシア殿下、カトレア嬢は親同士の仲が良く、幼少の頃からの遊び相手だった。あの頃はクロイスもルーシア殿下もカトレア嬢も実に素直な子供で、俺の後ろにピッタリくっついてきたり、アルフィナ殿下が本の読み聞かせをしたりと、思い返すだけで微笑ましくなる関係だった。

 だが何時の頃か、クロイスが前触れもなく俺に敵愾心を抱くようになり、婚約者だったカトレア嬢に嘘の醜聞を吹き込んでは俺の評価を下げ、彼女の関心と好意を我が物にし始めた。ルーシア殿下もまだ幼い弟殿下がお生まれになってから次期女王としての立場が目に見えて悪くなり、「アルフィナ殿下のお体が壮健であったなら」という感じの陰口を叩かれるようになったとか。幼馴染1人と兄弟姉妹は2つに引き裂かれ、全く逆の道の行くことになってしまった。

 もっと彼らと言葉を交わすべきだったかもしれない。クロイスが死んだと知った時、あんな弟でも悲しく思えたし、両親はそれ以上だろう。爺やに至っては責任を感じて辞表を出そうとしたくらいだ。だがどんなに悔いても全ては過ぎ去った過去。俺たちは明日を向いて生きていかなければならない。

「そう言えば、カトレアとの婚約はどうなったのです?」
「あんなん当然破棄になりましたよ。シェラザード伯爵は申し訳なさそうにしてましたけど、仕方ないですね。今は俺に婚約話が殺到してて大変ですよ。マイケル何て『若様が結婚するまでは我々も結婚しません』なんて言い出すもんですから、こっちも急を要してましてね」
「ふ、ふーん。そうなんですか。…………と言う事は、私にも機会が巡ってきたという事ですかね」
「今、小声で何か言いました?」
「い、いえ! 何でもないですよ!? ただの独り言ですからお気になさらず!」
「そ、そうですか? まぁ、そこまで仰るなら」



 この1年後、アルフィナ殿下がハーネット公爵家に降嫁されることになるのだが、この時の俺はそれを全く予見していなかった。


まぁ、何が書きたかったかと言えば、ギャルゲーと似て非なる世界に転生した男がギャルゲーのシナリオに固執した結果、盛大にざまぁされるお話ですね。乙女ゲーでよくある展開をギャルゲーで再現してみました。

・アルフォンス
主人公。ギャルゲーで言うところの悪役で、最後は踏み台としてざまぁされる人のはずだったが、この世界は似て非なるものなのでそうはならず、むしろ人望の厚い貴族然としつつも気さくな男。

・クロイス
ざまぁ役。ギャルゲーで言うところの主人公で、グランドエンディング(ハーレムルート)を目指して頑張っていた元オタク男子。だけど思ったとおりに行かず、功を焦り過ぎてざまぁされた。下種

・アルフィナ
ヒロイン。ギャルゲーで言うところのメインヒロインで、他のヒロインのシナリオをすべて攻略することで解放されるグランドエンディングの病弱ヒロインだったけど、この世界では秘かにアルフォンスを想っていたのでクロイスを男として見てなかった。叶わない恋を一生胸に抱いて生きていこうとしたけど、フリーになった主人公にアタックして射止めた、この物語の勝ち組。

・ルーシア
ハーレムメンバー。ツンデレ担当。実はアルフィナの双子の妹であり、クロイスと弟妹揃ってざまぁされてしまった。姉に対する劣等感の塊。

・カトレア
ハーレムメンバー。女騎士担当。清廉潔白を良しとしているが、視野が狭すぎるのが玉に瑕。クロイスが吹き込んだアルフォンスの醜聞を鵜呑みにし、それが間違いだと気づいた後はアルフォンスに縋りついて物語が終わった後にも一悶着起こしそうな厄介なタイプ

・マイケル
執事。実はギャルゲーでは一切登場しなかった、クロイスにとってイレギュラーの存在。

・シャーリィ
実はギャルゲーで言うところのメインヒロインの一人。でもこの世界ではアルフォンスがマイケルを連れてきたせいでNTRれたと、クロイスは逆恨みしている。


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