七人の島
翌日の昼前、先行した七人は、二つの黒岩に分かれていた。
手前の岩に王国兵が三人。十歩向こうに、アダルを含む灰色外套が四人いる。
その間も周囲も、白い地面だった。
昨日までは一本の黒い尾根だったらしい。夜の反潮が中央を削り、二つの島にした。手前では一人が腿を押さえ、向こうでは若い兵が横向きに倒れている。
武器は、どちらの岩にも残っていた。
王国兵が救援隊を見ると、剣を掲げた。
「こちらからだ!」
向こうのアダルも声を張った。
「近づくな。地面が二度鳴った」
イェルが脈針を耳へ当てた。今度の震えは、さっきより早く来た。
マレクは赤縄車を止めた。
迂回路は南にある。イェルによれば一刻半で灰口の関へ出られる。ただし、迂回して戻る前に次の震えが来る。二つの岩が残っている見込みは低い。
「セナ」
マレクは怪我人を指した。
「手前の脚は血が止まっている。向こうは呼吸が浅い。胸か腹。先に診るなら向こう」
王国兵が聞きつけた。
「近い者を先に出せ。三人を渡せば、こちらから縄を回せる」
「向こうの一人が、その間に息を止めるかもしれない」
「敵兵だぞ」
セナは言い返さず、男へ聞いた。
「腿の人、名前は。意識はある? 足先を動かせる?」
「ロシュだ。話せる」
「なら待てる。胸の人から」
王国兵は剣を下ろさなかった。
マレクの舌に錆びた味が触れた。二つの岩の間で、白い石粉が地面から浮く。
金属音が、白地の下から返った。
七人の武器が一斉に震える。アダルが自分の短剣を外し、白い地面へ投げた。刃は立たず、粘土へ落ちたように沈んでいく。
「全員、武器を捨てろ」
「停戦地で丸腰になれと?」
「救援を呼ぶ鉄を減らせ」
アダルの側では、槍三本が白地へ置かれた。青い火が穂先を包み、柄まで沈める。
手前の兵は動かなかった。
アダルは肩の二色紐を外した。
「停戦巡回責任者アダルが命じる。七名全員、武器を放棄。民間救援の指示に従う。捕虜扱いを認めない」
「その命令を誰が承認した」
「今、私がした。異議は関へ着いてから書け」
王国兵は歯を食いしばり、剣を投げた。残る二人も続いた。
マレクは三台を白地の手前へ扇形に置いた。昨日なら、自分で縄を持って岩へ渡った。
膝を曲げた途端、内側が焼けた。
「行けません」
トーマが言った。
「まだ何も」
「親方が渡るなら、向こうへ着く前に僕が引き戻します」
トーマは黒縄車の側板から、荷積み用の渡し板を一本外した。麻布を通し、人一人を横向きに載せる橇へ変える。
「この子を二本の縄で吊ります。結ぶ場所は、イェルさんが決めてください」
マレクは口を閉じた。
イェルが杖で黒岩の縁を探り、赤縄車と青縄車を半台ぶん動かした。二本の白縄を、左右から別の角度で張る。片方が沈んでも、橇が白地へ落ち切らない位置だった。
細縄の先へ、金具を外した革袋をつける。
一投目は手前の岩へ。王国兵が受け取る。
二投目は向こうへ届かなかった。
トーマが拾いに出ようとするのを、イェルが腕で止めた。白地の端が波打ち、革袋を呑む。
「次は風が止まってから」
イェルは空を見ず、地面の粉を見ていた。
待つあいだに、向こうの若い兵の呼吸が一度途切れた。
セナが大声で名を尋ねる。
アダルが本人の耳元へ屈み、返事を聞いた。
「ネイ。二十。右脇を打った。息が苦しい。運ぶことに頷いた」
セナは短く指示を返した。
風が落ちる。今度はトーマが投げ、アダルが細縄を掴んだ。
太い縄を二本渡す。ネイを板へ横向きにし、痛む側を上へする。胸は巻かない。アダルが一つずつ本人へ告げ、ネイは目を閉じたまま頷いた。
橇を引くのはトーマと、手前の王国兵だった。
「なぜ俺が」
「その人が待てると言ったから、あなたの仲間は今も岩にいられる」
セナの声が飛ぶ。
男は縄を握った。
板が白地を擦る。青い火が一度、縄の下を走った。
マレクは赤縄車の車止めへ体重をかけた。膝が震える。結び目へ手を出さず、トーマの合図を待つ。
ネイが黒地へ着くと、セナは本人の頷きを待ち、封印紐を切った小刀で外套を開いた。呼吸音を聞き、脇腹へ手を置き、丸めた布を抱かせた。
「次、ロシュ」
腿を傷めた王国兵を同じ板へ移す。本人は向こうを先にしたことへ何も言わなかった。板を押し出すとき、ネイの名を一度呼んだ。
残る五人は、一人ずつ二本の縄を伝った。
アダルは最後まで向こうの岩に残った。部下が渡り終え、捨てた武器が全て沈んだのを見てから、白縄へ手を掛ける。
彼女の踵が離れた直後、向こうの黒岩が二つに割れた。
七人全員がこちら側へ着いた。
アダルは座り込まず、マレクへ記録板を求めた。
「三台の白縄を外して」
「外せば関で止められる」
「今のままでも止められる。決まっていない印を、私が通した」
彼女は腰の記録箱から無地の木札を六枚取り出した。三枚には短く切った白縄を結び、全てへ同じ文を炭で書く。
混成巡回七名を民間救援が収容。武器は放棄。捕虜なし。行先は本人に確認。三車の一時通行を停戦代表アダルが命じる。
王国兵の一人が文字を読んだ。
「会議で席を外されるぞ」
「席だけで済めば、夕食は食べられる」
アダルは札へ自分の印を押した。
一枚は灰口の関へ見せるためアダルが持ち、一枚ずつは後で両側の詰所へ戻る部下に預けた。白縄つきの三枚は、それぞれの車へ下げた。
三枚とも、責任者欄の先頭はアダルだった。




