八つの列
ドムは八本の列縄を、同じ長さには切らなかった。担架が止まる場所へ荷駄を入れない。
二台の荷車が狭所を抜ける間は、肩を借りる者を白い帯へ立たせない。子どもが転んでも、後ろの短橇が避けられる間を空ける。出発前に声にしたのは、その三つだけだった。
午前十一時十五分、先頭が鐘割れ棚を出る。
サラは三列目にいた。セイが左側を歩く。右腕には触れず、息が崩れた時だけ肩を出す。
「今は要らない」
「要るまで触らない」
セイは前を向いたまま答えた。ヴェスとイェルが先で黒岩の位置を開き、ドムは列の間を行き来する。オナの水運びは車列から離れていた。
ユラの赤縄車には百リットル樽二本と、横になった五人。若い馬の黒縄車には樽一本、天幕と工具、五人。バロの荷鞍は炭線を越えず、六つの桶は三本の天秤で運ぶ。患者を載せた六つの枠へ、水は括らなかった。
十一時四十五分。
最後尾の縄が棚を離れた。
共同巡回は灰封の五十リットルとともに空になった場所を見回る。青縄車の車輪と車軸には回収札が残った。サラは振り返らなかった。
三枚棚の手前で、先頭が止まる。
ドムの決めた順では、赤縄車、担架、肩を借りる者、黒縄車のはずだった。
ヴェスが赤縄車を通さない。
「左の石が浮いた」
「試行では鳴らなかった」
「今、鳴る」
ヴェスは踵で叩いた。乾いた音の下に、細い震えが続く。
荷車を先に入れれば途中で止められない。担架なら一組ずつ向きを変え、右の黒岩へ逃がせる。ドムは後ろを見る。最初の小反潮まで、列を組み直す余裕は少ない。
「担架一から三、先行。赤は待て。四から六は入口の黒へ戻せ」
人間兵の並びを先にする、という昨夜の案を自分で崩した。
ヴェスは理由を繰り返さず、三枚棚へ入る。
担架が三組抜ける。次に薪橇、赤縄車、肩を借りる者。
黒縄車が入口へ来ると、トーマが右車輪の白縄を指で測った。輪金と輻へ渡した印は、出発時と同じ位置にある。
「悪くなってない」
若い馬を急かさず、車輪を左へ寄せる。
三台目は来なかった。試行で白地へ残った四人が、今日は全員黒岩へ入る。
サラの胸へ低い震えが届いた。
「止まって」
セイの肩には触れず、左手で脈針を黒岩へ当てる。
三呼吸あと、白い土が薄く盛り上がった。人の足首へ届く前に崩れ、元へ戻る。
「通れます。次の二群まで」
ドムが二群を送る。三群目は止める。
サラは脈針を布へ戻した。三群目を止める声は、ドムから出た。
次の広い黒岩へ着くころ、歩幅の差が大きくなった。
言葉の通じない二人が水札の向きを逆に持ち、担架の交代手が一か所へ偏っている。ヴェスが道の順のまま進めようとすると、今度はドムが止めた。
「ここは俺が替える」
「次の黒岩は左だ」
「分かっている。左へ着くまで持たない者を、先にする」
ドムは所属の縄を外した。
「ベルクの橇、二列目。フィアと母親はその後ろ。ラカの伴歩を交代。ヴェス、道札を持って先頭から下がれ」
ヴェスは長く黙った。
それから、道札を胸へ戻し、列の脇を空けた。
幅の狭い場所ではドムが従い、休める場所ではヴェスが従った。列の先頭は、黒岩ごとに入れ替わった。
午後三時を過ぎると、サラは息を吸うたび右の肋が擦れた。
セイの肩が近くにある。
触れれば歩ける。触れずに倒れれば、二人ぶんの手を使う。
サラは左手を置いた。セイは何も言わず、歩幅を半分にした。
オナが配水札を見て、二人を黒岩の端へ止める。
「医療追加」
「私の通常分からでいい」
「よくない。あんたが返した分を、次の人が受け取っていい顔するから」
オナは皆の椀を減らさず、医療印の革袋からセナへ渡した。セナがサラの呼吸を聞き、一口ずつ決める。ユラ、若い馬、バロには十リットルずつ配り、人の記録とは別の紐へ結んだ。
黒縄車が止まるたび、トーマは白縄へ指を当てた。最後の長い下りでも、印はずれなかった。
午後五時十五分、先頭が黒鈴窪へ入った。ヴェスは一つの窪地へ全員を詰めず、三つの黒岩へ列を分ける。担架と橇は水場の近く、馬と完成車は風下、自分で歩ける者はその間へ置いた。
サラは先頭の人数を数えなかった。
最後尾が着くまで、到着とは呼ばない。
五時四十五分。黒縄車の白い印が夕方の影から現れ、その後ろに最後の二人担ぎ天秤、ドム、共同巡回へ返す空の板が続いた。
ドムが八本の列縄を束ね、百五十人の名を二度なぞった。三頭の馬は立ち、二台の完成車、六枚の担架、二つの短橇、六つの背負い枠から予定どおり返事がある。セナの赤い印は一枚も増えていなかった。
オナは先に水を配らない。
ナドとペルの量水棒を、現地の水面へ当てる。ヴェスが底石を掻き、イェルが匂いを確かめた。白砂はない。
煮沸した皿にも、濁りは残らない。
そこで初めて封を開く。道中に使った水は百九十五リットル、残り二百六十一。三つの樽、六つの桶、四つの革袋へ黒鈴窪の水を足していく。
水容器を担当する十人が交代で量り、患者を載せた六つの背負い枠は寝床のそばから動かなかった。
六時二十分、最後の革袋が満ち、四百五十六リットルへ戻った。
火を三か所へ分け、到着食を百五十人へ配る。バロから下ろした束と、歩行者が運んだ束を同じ札へ戻す。
灰色の緊急袋は開かない。午後七時、残る食料は二百四十食。そのうち十五食は灰封のままだった。
サラが夜番表の先頭へ自分の札を掛けると、オナが外した。
「地脈の番はここ」
表の中ほどへ、脈針の印だけを残した。空いた先頭には、別の者の札を掛ける。
サラは取り返さなかった。




