半分しか読めない
最初の結び目を、マレクは通り過ぎた。
枝は大人の膝より低く、色の抜けた麻紐は泥と同じ色をしている。イェルが杖で枝を押さえなければ、黒縄車の後輪が踏んでいた。
「娘のか」
輪が三つ。末端は西。ここまでは、マレクが十歳のサラへ教えた荷結びと同じだった。
三組に分け、西へ送る。
そう読んで手を離しかける。
輪の中央に、細い横結びが一つあった。
「三組じゃない」
イェルは紐へ触れず、周りの足跡を見た。
「前と後ろに歩ける者。弱い者を真ん中へ置いた。列は分けてない」
「横結び一つで、そこまで分かるのか」
「分からない。足跡がそうなってる」
泥には、裸足の小さな跡と、杖をついた穴が残る。その両側を、靴底の違う者が挟んでいた。王国兵の踵。魔族の幅広い足袋。どちらも同じ方向へ続いている。
マレクは古い地図へ手を伸ばさなかった。
地図はイェルが持っている。昨日、自分からイェルへ渡した。
「この列が通った道を使う。荷車の幅だけ、別に見る」
トーマが青縄車の前輪を枝の位置へ合わせた。
「人の肩は通っても、車軸は当たります。右の黒岩へ半輪寄せます」
三台を一台ずつ送る。先頭のユラが枝を嗅ぎ、紐を揺らした。マレクは結びを高い所へ移さず、同じ枝へ戻した。
次の印は、道の分かれ目にあった。
平たい輪へ黒石二枚と白石一枚が差してある。黒二つの間に白があるなら、危険を二度越える。昔の読みはそれだけだった。
末端には、サラが知らなかったはずの返し結びが足されている。
ドムの軍で使う負傷者交代の印を、マレクはイェルから教わった。
「二つ目の黒場で、担ぎ手を替える」
イェルは頷かなかった。
「たぶん」
「違うか」
「白石は一枚だ。危険は一つかもしれない。黒二枚は、待つ場所が二つとも残ってる印かもしれない」
断言しない声だった。
マレクは昨日まで、その「たぶん」を遅さだと思っていた。北枝道で豆箱を失ったあとも、イェルは一度もそれを責めなかった。確かでない場所では、前と同じように「たぶん」と言った。
「どちらでも困らない進め方は」
「一つ目の黒場で、次が見えるまで止まる」
「それで行く」
馬を休ませる間、マレクは紐の輪へ指を入れた。
サラが幼いころ作った輪は、固すぎて解けなかった。褒める前に全部ほどかせ、冬の庭で何度もやり直させた。
目の前の輪には、厚い手袋でも読めるだけの余地がある。結び方を知らない者のため、隣の石には二つの言葉で短い線が彫られていた。
父へだけ残した印ではない。
父から覚えた形を、百四十八人が使える形へ変えている。
マレクが読めるのは、その半分だった。
昼前、黒岩の幅が狭くなった。
右は白い泥、左は切り立った斜面。トーマが三台の腹帯を締め直し、荷を低くする。マレクは車輪の沈みを一台ごとに測った。
近道は探さなかった。地面へ足を入れて試すこともしない。イェルが杖を置き、トーマが車幅を見て、二人とも通ると言った場所だけへ車輪を載せた。
三つ目の印は、黒岩の先端にあった。
紐の輪は一つ。長い末端が西へ垂れ、その先に布の切れ端が結ばれている。乾いた褐色が染みていた。
マレクは、人数が一人減った印だと思った。
「違う」
言ったのは自分だった。
イェルがこちらを見る。
「まだ聞いていない」
紐の下には、担架を置いた跡がある。四人の膝。中央に身体一人分。だが、いつ、どちらへ運んだかまでは分からない。
道の向こうから、靴底が石を擦る音がした。
一度。間を置いて、四度。
イェルが返答の音を打つ。救援四人、停戦代表一人。
霧の中から、担架の先が現れた。
マレクは結びから手を退けた。
「次は、先に聞く」




