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騎士団を辞めた俺、今はスラムのボスをやっています ~王都の連続失踪事件を追ったら、王国の闇に辿り着いた~  作者: すなぎも


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第9話 交わる線

 リオンがギルに連絡を入れた翌日の夜、三人は王都中央部から少し外れた場所にある小さな酒場に集まっていた。


 表通りから一本入った細い路地に建つ古びた店。看板は文字が半分ほど消え、初めて訪れた者なら営業しているのかさえ迷うような外観をしている。


 だが、料理と酒は悪くなく、何より店主が余計なことを聞いてこない。騎士団にいた頃からリオンたちは、人目を避けて話したい時に何度もこの店を使っていた。


 一番奥にある個室もその頃からほとんど変わっていない。四人掛けの木製テーブルと椅子、壁際の小さな棚、酒を置くためだけの細い台。扉も客席からは直接見えない位置にある。


 だからこそ、今でも使える。


 今夜は念のため、リオンの組織から一人を店の前に立たせていた。店に入る人間を止めるほど露骨な真似はさせていないが、見慣れない連中が近づけば知らせるよう命じてある。


 ギルが第三王子だと知っている者は組織内でも限られており、ここで会っていることも余計な人間には伝えていない。


「それで」


 テーブルの向こうに座ったギルが、運ばれてきた酒には手をつけずリオンを見る。


「僕を呼び出すくらいだから、何かあったんだよね」


「驚いたわ。あなたから連絡してくるなんて」


 隣に座るセレストも同じように視線を向けていた。


 二人とも私服だった。ギルは質を落とした濃紺の上着に地味な外套を重ね、金髪も普段より無造作に下ろしている。王宮で見ればどうということのない変装だが、夜の酒場で一目見ただけなら王子とは気づかれにくい。


 セレストも騎士時代から使っているような灰色の外套を羽織っており、腰に剣こそ差しているものの、王族付きの秘書官には見えなかった。


「そりゃ用事がなきゃ呼ばねえだろうが。第三王子を」


 リオンが答えると、ギルは少し眉を上げた。


「それはそれで寂しいな。昔は毎日くだらない会話ではしゃいでたのに」


「じゃあどう答えりゃいいんだよ」


「そこはギルに合わせなさいよ、いい感じに」


「お前は昔からギルに甘すぎるんだよ。だからこんな我儘王子に育っちまったんだ」


「僕ってそんな我儘かな? セレスト」


「ギルが我儘な訳ないじゃないですか。自分をよく律していると思いますよ」


「けっ。今日はくだらねえじゃれ合いをしに来たんじゃねえ」


 リオンがめんどくさそうな顔をすると、ギルとセレストが楽しそうに笑った。


 リオン、ギル、セレスト。三人は昔、騎士団の同じ部隊の同僚として腕を磨き合っていた仲だ。


 スラム組織のボスと、第三王子、その秘書官。頻繁に顔を合わせられる関係ではないが、今でも三人で酒を飲むこともあれば、ギルが何か相談を持ち込むこともある。

 

 ただ、今回のようにリオンの方から急ぎの連絡を入れることは珍しい。


「本題に入るぞ。……こっちでも一人消えた」


 ギルの表情から笑みが消える。


 セレストも紙に視線を落とした。


「あなたの縄張りで?」


「ああ。四日ほど前だ。串焼きを売ってる婆さんでな。俺がこっちに来た時にはもう店を出してたから、付き合いだけならかなり長い」


 リオンは老婆について分かっていることを順番に話した。四日前まで普段通りに商売をしていたこと。翌日分の肉や炭まで用意しており、店を畳む予定も遠出する予定もなかったこと。金や衣服は家に残ったままで、住居を荒らされた形跡もない。しかし本人だけではなく、毎日使っていた商売道具までまとめて姿を消している。


「家族は?」


「いねえ。夫は昔に死んで、子供もなし。近い親族がいるって話も聞いたことがねえ」


「一人暮らしで、身寄りがいないってわけか」


「ただし、今までお前が調べてた連中とは少し違う」


 リオンがそう続けると、ギルとセレストは顔を上げた。


「目立つんだよ。独り身ではあるが、毎日同じ場所で商売してる。客も多いし、近所の連中ともよく喋る。何日か姿を見せなきゃ、誰かが気づく」


「これまでの失踪者は逆だったわね」


 セレストが資料を見ながら続ける。


「行方を気に掛ける家族がいない。住居も一定じゃない。犯罪に関わっている者も多く、突然いなくなっても、逃げたのか死んだのかの判断がしにくい。発覚するまで時間が掛かる人間が大半だった」


「ああ。婆さんはその条件から大きく外れてる」


 ギルは手を顎に当て、考えてから口を開いた。


「対象の選び方が変わった?」


「可能性はある」


「何か事情が変わって、以前ほど慎重に選べなくなった、とか?」


「そこまでは分からねえ。似た消え方をしたってだけで、婆さんが同じ連中に攫われたって証拠すらまだねえからな。なんとも言えねえんだ」


「相変わらず慎重だね、リオンは」


「まともな情報が集まってねえ、妄想を広げるのは時間の無駄だ」


 リオンは椅子の背に身体を預ける。


「シビルに探させたんだが、自分から消える理由は今のところ一つも出てねえ。今は少しでも情報が欲しい状態だ」


「それで僕を呼んだわけか」


「ギル、お前が持ってる情報が欲しい」


 その言葉に、ギルが微かに笑った。


「それはつまり、僕のお願いを聞いてくれるってことかい?」


「勘違いすんな。こっちの人間を探すのに使える情報が欲しいってことだ」


「僕としては同じだと思うけどね。僕がリオンにお願いした件と、お婆さんが居なくなった件。同じ事件の可能性はかなり高いと思うけど」


「高いだけで、今ある情報だけで言い切れることじゃねえ」


「そうかな?」


 軽い調子に戻ったギルの横で、セレストだけは表情を崩さなかった。


「ギル」


「わかってる。この問答は不要だね」


 短く答えたあと、ギルは足元に置いていた鞄から数束の書類を取り出した。それらをテーブルの中央に並べ、最も上に置かれていた王都の簡易地図を開く。


 地図にはいくつもの印が付けられていた。


「前、リオンに話した時より増えてる。騎士団や役所が把握しているだけで二十人近い。正式に届けられていない人間を含めれば、もっといると思うけどね」


「シビルが調べてる時、この前もらった資料には載ってない失踪者もいるって言ってた。そう考えると、もうかなりの人間が消されてるかもな」


 印の多くは王都西側、その中でも南寄りに集中していた。


 改めて見るとレックスが勢力を伸ばした地域と重なる部分が多い。ただ、完全に一致するわけではなく、離れた場所にも失踪者はいる。


 仮にレックスの組織が関わっているとしても、それだけで全てを説明するには足りないように見える。


「最初に確認できる失踪は二か月ほど前。そこから少しずつ増えてる。年齢も職業もバラバラだけど、今リオンが言った通り、一人暮らしや身寄りの薄い人間が多い」


「金は?」


「共通点なし。借金持ちもいるけど、金を持っていた人間もいる。犯罪者、浮浪者、日雇い労働者」


「魔力は」


 リオンの問いに、ギルが首を横に振る。


「記録が残っている人については調べたけど、特別高い人ばかりじゃない。低い人も普通の人もいる。年齢にも偏りはない」


「売るために攫ってるにしちゃ雑だな。人攫いに老人は選ばれねえ」


「人身売買の線も調べたわ。城門の出入り記録に不審な荷馬車がないか、裏で人を扱う商人が最近動いていないか。少なくとも今のところ、それらしい線は出ていない」


 セレストが資料の一つをリオンの前に滑らせる。


「だから騎士団側も事件として掴み切れていないの。個々で見れば、スラムでは珍しくない失踪に見えるから」


「共通点が見つからねえな。貧乏人から金持ちまで。若いのから老人までいやがる」


 リオンは地図を見ながら答えた。


「婆さんが住んでた家はここだ」


 リオンが自分たちの縄張りの南寄りを指した。


 ギルが新しい印を書き込む。それまで南側に集中していた点の群れから、北へ一つだけ線が伸びたように見えた。


 三人とも、しばらくそれを見つめた。


「……南側の境界を越えたね」


「そういうことだ。それと、もう一人いる」


「もう一人?」


「こいつは生きて俺の縄張りまで来た。そこで死んだがな」


 ロイ・セイガー。


 その名前を告げても、二人に心当たりはないようだった。


 リオンはダンから聞いた話を必要な部分だけ説明した。


 レックスに壊滅させられた組織の一員であり、抗争の最後にはまだ生きていたこと。その場で武器を取り上げられ、複数の仲間と共に拘束されていたこと。ダンはその後全員殺されたと思っていたが、ロイだけは数週間後まで生存していた。


 そして、リオンの縄張りに逃げ込んできた時には腹部に異様な傷を負っていた。


「腹が開かれていたのかい?」


 ギルの声が僅かに低くなった。


「斬られた傷じゃねえ。意図的に腹を開いて、そのあと縫われてた。逃げてる途中で傷が開いたらしい。見つけた時には大量に血を流してた」


「誰が診たの?」


「ヴェロニカだ」


 セレストの眉が僅かに動く。


「彼女が言うなら間違いないね」


「ああ。傷だけじゃ中で何をされたのかまでは分からねえと言ってたがな。治療かもしれねえし、何かの処置かもしれねえ。臓器を抜かれた可能性も否定はできねえが」


「縫い直されているわけだしね」


「ヴェロニカもそこを気にしてた。殺すだけなら閉じる必要がねえ。縫った時点では、生かすつもりだった可能性が高い」


 個室の空気が重くなる。


 セレストの指が、手元の資料の端で一瞬だけ止まった。


「臓器売買なら、摘出後に縫合する場合もあるでしょうけど」


「病院が裏で臓器売買してる可能性は探ったのか?」


「一応ね」


 セレストが答える。


「ただ、今のところ繋がりは見えなかった。王都には公的な病院だけでもいくつもあるし、民間の診療所や研究所まで含めれば相当な数になる。全てを当たり終えてはいないけど」


「臓器と言えば、魔力関係の研究もある」


 ギルが続ける。


「魔臓の疾患、魔力回復、戦傷治療、加齢による魔力減衰。王宮が援助しているものだけでもいくつかある」


「研究施設はまだ当たれてなかった」


「病院と合わせたらかなりの数になるからね、セレスト一人じゃとてもじゃないけど探しきれないよ」


「ならまず病院からだな。まともな治療だったら記録が残る。取引以上に臓器の手術が増えてるとかな」


「ええ、私もその方が可能性が高いと思う」


 セレストは同意するように頷く。


「リオン、ロイの遺体はどうなったの?」


「騎士団が持ってった」


「検視は終わってるかな?」


「知らねえな。持ってかれてから話は聞いてねえ」


「どの隊が回収したの?」


「隊はどこだか知らねえが、エディが指揮してた」


 その言葉に、二人の視線がこちらへ向く。


「副団長本人が回収しに来たの?」


「たまたま西側にいたから、騒ぎを聞いて寄ったとか言ってたぜ」


「珍しいわね、副団長が死体回収に行くなんて。聞いた通り、たまたま近くにいただけなんでしょうけど」


 セレストも少し意外そうに呟く。


「部下も連れてた。まだ調べ終わってねえって言っても、正式な検視は騎士団でやるって押し切って持っていかれたよ」


「なるほど。じゃあ、僕から記録を確認してみるよ。エディなら話も早いだろうし」


「頼んだ。……にしても相変わらずムカつく野郎だったな、あいつ」


「昔からよくぶつかってたわね。リオンとエディは」


「言い方がいちいち癪に障るんだよ。いらねえことまで言ってきやがる」


「人付き合いが上手な人ではなかったものね。お互いにだけど」


「ま、今はあいつのことなんてどうでもいい」


 昔の思い出をかき消すように頭を振ってから、リオンは地図に視線を戻した。


 老婆、ロイ、これまで確認された二十人近い失踪者、それにシビルが聞き込みで見つけた記録外の人間や、レックスに潰された組織の構成員たち。


 現状では、それらすべてが一本の線で繋がっているとは断定できない。


「なんで婆さんだったのか。そこを調べる必要がありそうだな」


 誰が、どうやって人を消し、どこへ運んでいるのか。その途中に必ず残る痕跡を拾う。今はとにかく、それをするしか新しい情報を得る手立てはなさそうだ。


 しばらく資料を見ていたセレストが、静かに口を開いた。


「ギル。ここから先は、慎重になった方がいいと思うわ」


「というと?」


「組織的に人を連れ去っている可能性が高くなってる。レックスの勢力まで関わっているなら、単なる失踪事件では済まないわ。あなた自身が直接動くには目立ちすぎる」


「またその話?」


「あなたは第三王子なのよ」


「知ってるよ」


「だったら」


「だから調べるんだ」


 声は穏やかだった。


 だが、セレストの言葉を退けるには十分だった。


「リオンに全部押し付けて、僕は安全な場所から結果だけ聞く。それで済むなら最初からここに来てないよ」


「あなたが危険に近づけば、問題はあなた一人では済まない。どれだけの国民があなたに期待しているか」


「分かってる。だから、無茶をするつもりもないよ」


 セレストは何か言いかけたが、結局口を閉じた。


 リオンはそのやり取りを黙って聞いていた。


 似た会話を昔から何度も聞いている。ギルが前に出ようとし、セレストが止める。立場が変わっても、その部分だけは昔と大して変わっていない。


 セレストは騎士として同僚だった頃から、友人である以前にギルを第三王子として扱うところがあった。


 だが、立場など知ったことではないと完全に友人扱いしているリオンの方が、むしろ異端なのだろう。


「喧嘩なら帰ってからやれ」


「喧嘩じゃないよ」


「喧嘩です」


「どっちだよ。……どっちにしても、じゃれ合いなら俺がいないところでしろ」


 ギルが苦笑し、セレストは小さく息を吐いた。


 そのまま話を戻す。


「役割を分けよう。僕は正式な失踪記録、それとロイの検視結果。騎士団側で他に似た遺体が出ていないかも確認する」


「私は役所と騎士団の記録を照合するわ。過去数か月まで範囲を広げて、失踪として処理されていない事例も探してみる。あと、病院や研究機関も引き続き調べる」


 二人の視線がリオンに向く。


「俺はレックスの周りと、人の流れを追う。どっかに連れてってるなら、人間一人抱えて消えるわけじゃねえ。荷車でも馬車でも、何か使ってる。足跡を完全に消すことなんてできねえからな」


「表と裏からだね」


「そうだ。だから、スラムに入ってくんじゃねえぞ」


「そこまで信用ない?」


「残念ながら、お前には前科ができた。もう信用しねえ」


「ひどいなあ」


「だから言ったのよ。前回も私は止めたのに」


 セレストまで加わり、ギルは不満そうに肩をすくめた。


 三人で話していると、時折こういう瞬間がある。


 騎士団にいた頃と何も変わっていないような。


 あの頃はリオンも制服を着ていた。ギルも一般の騎士として中に混ざり、セレストも剣を腰に下げて共に歩いていた。立場も暮らす場所も変わったが、同じ机を囲んで一つの問題をどう片付けるか話している光景だけは、妙に昔と似ている。


「それにしても」


 ギルが口元を緩めた。


「ようやく一緒に調べてくれるんだね」


「なに嬉しそうにしてんだよ」


「だって、この前はあんなにはっきり断られたからね」


「事情が変わっただけだ」


「うん。分かってる」


 ギルの声から軽さが少し抜ける。


「串焼きの人、見つかるといいね」


 リオンはすぐには答えなかった。


「……見つけるさ。必ずな」


 それだけ言い、テーブルの上の資料を手元に引き寄せる。


 三人の間に短い沈黙が落ちた。その時だった。


 ――リン、リン、リン。


 甲高い鐘の音が続けて鳴ると、すぐにリオンの顔から表情が消えた。


「店のベルって、この部屋まで届いたっけ?」


「今のは客を呼ぶ音じゃねえ」


 この店には、通常の入口に小さな鐘が付いている。


 だが今鳴ったのはそれではない。


 カウンターの内側に置かれた、店主が緊急時にだけ使うベルだ。リオンたちが昔からこの店を使っていることを知る店主と決めた合図で、三回なれば――。


「ギル、セレスト。今すぐ裏から出ろ」


「何が来たの?」


「理由を話す時間はねえ。今のはそういう音だ」


 声を荒らげてはいない。


 それでもギルはそれ以上尋ねなかった。


 セレストはすでに椅子を引き、腰の剣を確認している。


「廊下を奥に進めば裏口がある。お前らはそのまま東に抜けろ」


 押し出す勢いでリオンは二人を裏の扉へと追いやる。


「リオン」


 急かすリオンに、ギルは名前を呼ぶだけで言葉を止める。


 ギルは数秒だけリオンを見つめ、やがて諦めたように息を吐いた。


「無茶しないでよ」


「誰に言ってんだ」


 セレストが扉に向かいながら振り返る。


「何かあったら連絡して」


「ああ。……セレスト、ギルを頼むぞ」


 リオンの真剣な目つきに、セレストは深く頷く。


 二人が個室を出て廊下の奥へ消えた。


 リオンは残された資料をまとめて上着の内側に入れた。椅子の横に置いていた剣を腰に携えたところで、部屋の外から複数の足音が聞こえて来る。


「まったく。どこのどいつだ」


 リオンは個室の扉を開けた。


 広いフロアには複数の男達が立っている。


 バーカウンターの中にいる店主は、目を閉じて両手をあげていた。


「なんだ。そこにいたのか」


 黒髪を後ろに撫でつけ、派手な柄の上着に濃色のズボンに黒革のブーツを合わせている。夜の屋内だというのに、目元には色の濃い眼鏡を掛けていた。太い首には金属の鎖が覗き、口元には笑っているのか馬鹿にしているのか分からない薄い笑みが浮かんでいた。


 その後にいる四人はいずれも武器を隠す気すらない。


 リオンは男の顔を見た瞬間、誰なのか理解した。


「派手なご登場だな。相変わらず騒がしい奴だ」


「久しぶりだってのに随分な挨拶じゃねえか、リオン」


 その肩越しに見えた、店の入口付近。


 床に一人、男が倒れている。リオンの組織から見張りに立たせていた男だ。頭から血を流しているが、胸は僅かに上下している。死んではいない。だが、まともに動ける状態でもなさそうだ。


 リオンの視線がそこへ向いたことに気づいたのか、大男が肩をすくめる。


「通してくれなかったあいつが悪い。俺は話し合おうとしたんだぜ?」


 笑みを浮かべたまま、眼鏡の奥からリオンを見据える。


「ちょっとお前と話がしたかっただけなんだ。信じてくれるよな?」


 リオンは何も答えなかった。


 出口を塞ぐように立つ男たち。


 倒された自分の部下。


 そして、その中央に立つ大男。


 どう見ても、酒を飲みに来た客ではなかった。


 リオンはゆっくりと個室の扉を背後で閉める。


「ああ、信じてやるよ。仲良くしようぜ、レックス・ボクサー」


 名を呼ばれた大男の笑みが、深くなった。

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