第2話 消える人々
第三王子ギル・バックス。
その名はアルヴェリア王国に暮らす者なら知らない方が少ない。王位継承権を持つ王子の一人であり、王族でありながら若い頃には騎士団に身を置いていたことでも知られている。
少なくともリオンとセレストにとっては、いまさら肩書きを意識するような相手ではないが。
「それで?」
リオンは部屋の奥に進むと、乱雑に置かれていた椅子を引き寄せて腰を下ろした。背もたれに深く身体を預け、脚を組む。
第三王子に対する態度だとは到底思えないが、それを咎める者はいない。
「わざわざこんなところまで来たんだ。なんかあんだろ?」
「そうだけど、もう少し歓迎してくれると嬉しいな。久し振りに友人とお喋り出来るんだ。楽しくやろう」
「久しぶり? つい先日も飲み屋で話しただろうが」
「昔はもっと喋ってた。それこそ毎日ね」
ギルはそう言って笑いながら、窓際を離れ、リオンの正面に座る。その横ではセレストが持ってきた鞄から、何枚かの紙を取り出して机の上に並べていた。
「ギル、遊びに来たわけではないのでしょう。リオンも、そんなに邪険にしないで」
「邪険にしてるつもりはねえ。俺は普段からこうだ。違うか?」
「昔はもっとしっかりしていたわ」
「二人揃って昔、昔ってうるせえな。そんなつまんねえ話をしに来たのか? それに、俺は昔もこんなだったよ」
セレストがギルへ呆れた視線を向けると、ギルは肩を竦めるだけだった。
リオンは二人の様子を眺めながら、内心で小さく舌打ちをする。
付き合いが長いだけに分かる。ギルがわざわざここまで足を運んだ以上、何かを頼みに来たのは間違いなく、それもいつもの場所で酒を飲みながら話せるような内容ではないらしい。
面倒事の臭いしかしなかった。
ブラッドは扉の近くに立ったまま、話に割り込む様子を見せない。大きな身体を壁際に置き、腕を組んで三人を眺めている。
「本題に入れ。何があった」
リオンが促すと、ギルの表情から笑みが薄れた。
「王都から人が消えている。正確には、スラムの南側で失踪者が増えている。ここ数ヵ月ほどの話だ」
予想していなかった内容に、リオンは眉を寄せた。
「それがどうした? 珍しくもなんともねえだろ」
リオンはそう言って机の上に目を落とした。
セレストが並べている何枚かの紙。
だが、リオンはそれを手に取ろうとはしなかった。
「スラムの日常だ。昨日まで住んでた奴が、次の日にはいなくなってるなんて珍しくもねえ。借金抱えて逃げる奴もいる。別の街に流れる奴もいる。喧嘩で殺されて、誰にも見つからねえ場所に捨てられる奴だっている」
「わかっている」
「なら騒ぐほどじゃねえだろ?」
「一人や二人ならね」
セレストが机の上に置いた紙の一枚をリオンの方へ向ける。
「私たちが把握できているだけでも、十人を超えているわ。二ヵ月ほどで」
「二ヵ月で十人?」
「ええ。ただ、これはあくまで確認できた人数よ。本当にいなくなった人間がどれだけいるのかは分からない」
「もっといるかも知れねえってことか」
「そういうことね」
そこで初めて、リオンは紙を手に取った。
名前がある者もいれば、空欄もある。年齢も職業もばらばらだった。荷運びの日雇い労働者。酒場で働いていた女。住む場所を転々としていた男。窃盗で何度か騎士に捕まったことのある者。
名前すら正確に分からず、通り名だけが書かれている人間もいた。
「こいつらが失踪したって、どうやってわかった」
「別件を調べている最中に、同じような話を耳にしたんだ。スラムの方で行方不明者が増えているって。最初は僕も偶然だと思ったよ」
「詳しくは?」
「一人は仕事場に来なくなった。別の一人は、毎日のように通っていた酒場に突然来なくなった。また別の者は、寝床にしていた場所に荷物を残したまま消えている。それぞれ単独で見れば、君の言う通り珍しい話ではない」
スラムは平穏とは程遠く、死はいつだって突然訪れる。人が何の前触れもなく姿を消すことだって日常茶飯事で、正確な住民の数を把握している者すらいない。
「でも、少し多すぎる」
リオンは紙を睨みつけたまま黙り込んだ。
ギルの言いたいことは分からなくもない。普段なら気にも留めないような話だとしても、二か月で、それも確認できただけで十人を超えるとなれば、確かに不自然だ。
「騎士団に調べさせろよ」
リオンが言うと、ギルは困ったように笑った。
「それができれば、わざわざ君のところには来ない」
「王子様だろ。命令すりゃいいじゃねえか」
「僕は何でも自由に命令できるほど偉くないんだ。それに、騎士団を大勢スラムに入れれば、まともな情報は集まらない」
その点については、リオンも否定できなかった。
スラムに住む者の多くは騎士を信用していない。
スラムの住人は、過去に犯罪を犯した者もいるし、正規の許可なく商売をしている者もいる。身元を調べられれば困る人間も多い。騎士が聞き込みに来たところで、知っていることまで知らないと答えるのが普通だった。
まして、今回の失踪者には裏社会と多少なりとも関係のある者も混ざっている。
「だから、君に調べてほしいと思って」
「断る」
ギルの言葉が終わるのとほとんど同時だった。
セレストが僅かに眉を動かしたものの、ギルは驚きもしない。
むしろ予想通りだったかのように、リオンを見つめている。
「俺には関係ねえことだ」
資料に書かれている、失踪者が増えている地区名を改めて確認し、リオンはさらに興味を失った。
「あなたの縄張りから、それほど離れてはいないでしょう?」
「距離の問題じゃねえ。そこは俺のところじゃない」
リオンが面倒を見ている地区の南側。いくつもの小規模な組織が縄張りを持ち、ここ最近、特に抗争が増えている一帯だ。先ほどブラッドから聞いた話とも一致する。
レックス・ボクサーの組織が周辺の小さな組織を潰し、急速に勢力を拡大している地域。
であれば余計に立ち入るべきではない。
「他所の縄張りにうちの奴らを入れりゃ、それだけで揉める。向こうからすりゃ、俺が何か企んでるようにしか見えねえだろ」
「できるだけ目立たないように調べてもらえれば」
「んなことできるわけねえだろ」
リオンは指先で机を軽く叩いた。
「俺は俺のところの連中を守る。それで手一杯だ。他所で誰が消えようが、そいつらの面倒まで見る気はねえ」
スラムには、リオンのような組織の方が珍しい。
縄張りを持つ者たちは、その地区に住む人間を守るために存在しているわけではない。店を脅して金を取る者もいれば、住民同士の揉め事など知ったことではないと放置する者もいる。場合によっては自分たち自身が、そこで暮らす人々にとって最大の脅威ですらあった。
リオンのように、面倒を見ると決めていること自体が珍しい。
そんなリオンですら、自分の手が届く範囲だけでそれを行っている。それ以上、手を伸ばせば、いずれ何も守れなくなる。そういうことを嫌というほど知っているからだ。
「やっぱりね」
ギルが微笑む。
「なに笑ってんだよ」
「いや。君ならそう言うと思ったから。やっぱりそう言うんだなと思って」
「喧嘩売ってんのか?」
「そんなことないよ。むしろ嬉しい。僕が知っているリオンがリオンでいてくれて」
「っち。気に食わねえな」
いつもの爽やかな笑みが戻り、リオンは眉間に皺を寄せた。
何かがおかしい。
ギルは最初から、自分が断ることを分かっていた。それなのに、わざわざ王族という身分を隠してスラムまで足を運び、こんな場所で話をしている。説得するために来たという割には、食い下がり方も弱い。
リオンがその意図を探ろうとしたところで、ギルが何気なく部屋の中を見回した。
「そういえば、シビルちゃんは?」
「知らねえよ。どっか行ってんじゃねえか? なにか用があるのかよ」
「別に。来たついでに顔でも見ようかと思って」
ギルはわざとらしく、大袈裟に部屋を見渡している。
セレストは隣で目を閉じ、小さく首を振っていた。
どうやら彼女はギルが何をするつもりなのか最初から知っていたらしい。
「シビルちゃーん! いないのー!」
「ったく、王子がなにやってんだか。国民が見たら呆れるぞ」
「はーい! ここにいますよー!」
リオンの言葉をかき消すほどの大声の返事があった。
しかも、かなり近い。
ブラッドが扉へ目を向けるが、廊下から誰かが入ってくる気配はない。
数秒後、窓の外から黒い頭がひょこりと現れた。
「呼んだ?」
開け放された窓枠に両手を掛け、一人の女が室内を覗き込んでいる。
黒い髪を顎の辺りで切り揃えた、小柄な女だった。
年齢は二十代半ば。身体つきも華奢で、黙っていればスラムの組織に所属している人間には見えない。好奇心に満ちた大きな目を忙しなく動かしているせいで、落ち着きというものは欠片も感じられなかった。
シビル・ウェイレット。
リオンの組織で、主に情報収集を担当している女だ。
「お前、何してんだ」
「いま帰ってきたところ。いい声で名前呼ばれてたから急いで来たよ!」
「だからって窓から来るんじゃねえ」
「こっちの方がカッコよくない?」
シビルは当然のように答えると、窓枠に片足を掛け、そのまま軽い動作で室内に入り込んだ。スカートについた埃を手で払うと、すぐにギルに気づいて表情を明るくする。
「あっ、ギルじゃん! やっほー、久しぶり!」
「やあ、シビルちゃん。久し振りだね。早速だけど、少し相談があって」
「相談? なになに、わたしでよければなんでも聞くよ!」
目を輝かせてギルに近付くシビルの首根っこを、リオンが掴んで止める。
リオンは嫌な予感が確信に変わっていくのを感じた。
「待てシビル。お前はなしだ。部屋から出てろ」
「なんで? ギルが相談あるって言ってるんだよ? 聞いてあげないと」
「いまのはコイツの冗談だ。お前は用なし。さっさと帰れ」
シビルは不満そうに頬を膨らませ、そのあとニヤリと笑みを浮かべる。
「はっはーん、さてはリオン。わたしにギルが取られるの悔しいんだ?」
「はぁ? なに言ってんだ?」
「安心してって! わたしとギルはそんな関係じゃないからさ!」
シビルは上着を脱いでリオンの手から逃げると、ギルに近付く。
「ってめえ!」
「実はね、シビルちゃん。スラムの南側で人が何人も消えているらしいんだ」
「ほうほう」
何事もなかったかのように、話が進む。
リオンは面倒くさそうに溜息を吐く。
「最近、一、二か月くらいかな。確認できているだけでも十人以上で」
「南側ってどの辺?」
ギルの説明を最後まで聞くことすらせず、シビルは机に駆け寄った。
小柄な身体をセレストの横へ滑り込ませ、並べられた紙を覗き込む。視線は文字から文字へ素早く移動し、時折「ふんふん」「なるほどね」と小さく頷いていた。
その様子を眺めながら、ギルの視線がリオンへ向けられる。
「お前、最初からこれが狙いだったな」
「何のことかな?」
「とぼけんな。俺が断ると思ったから、わざわざここまで来たんだろ。シビルに話せば食いつくと思って」
「そんなことないよ」
「だったらいつもの場所で話せば済むじゃねえか」
「たまには君の職場を見るのも悪くないと思ってね」
「もう二度と来るな。もう出禁だ」
「王族を出入り禁止にする人間なんて、君くらいだろうな」
「うるせえ。ここらにいる奴なら誰だって王族と関わりなんて持ちたがらねえよ」
「シビルちゃんは違うと思うけど?」
「こいつが特別バカなだけだ」
悪びれる様子は一切ないギルに、リオンは舌打ちした。
ギルは昔からこういうところがある。
普段は柔らかく、誰に対しても人当たりがいい。だが、一度こうすると決めれば、意外なほど強引に物事を進めることがあった。
真正面からリオンを説得しても動かない。ならば、勝手に動きそうな人間に話を聞かせればいい。そしてシビルほど、その役に向いている人間もいない。
「消えた人って、本当にこの辺なの?」
案の定、シビルは資料を読んでから顔をあげていた。
「そうよ」
答えたのはセレスト。
シビルは机の端に置かれていた紙へ指を滑らせる。
「この人と、この人。それからこっちの三人も?」
「確認できた居住場所については間違いないわ。ただ、定住していなかった者もいるから、正確ではない人間もいると思う」
「ふーん。なるほどねー……」
先ほどまで騒がしかったシビルが、珍しく真剣な顔で紙を見つめている。
やがて指先を口元に当て、少し首を傾げた。
「変だなあ。この辺って、最近レックスのところが取った場所じゃない?」
部屋の空気が僅かに変わった。
ブラッドが腕を組んだまま、シビルを見る。
「確かになさっきボスにも話した、小さいところを二つ潰した場所と一致する」
「そうだよね、やっぱり。そこから人が消えたってわけね」
シビルはもう一度資料へ目を落とした。
「あと、この辺も今揉めてるところ。こことここも、レックスの連中がちょっかい出してるって聞いたよ」
紙の上を指が走る。すべてが完全に一致しているわけではない。
それでも失踪者が出ている地域と、最近レックスの組織が動いている地域には、確かに重なる場所がいくつかあった。
「だから何だよ、めんどくせえな」
リオンは敢えて冷たく言った。
「レックスのところが縄張り広げて、それが嫌で住民が逃げ出した。それだけじゃねえか。なんにも変なところはねえ」
「そうかな? でも、失踪者の家族は残ってるかもよ?」
「残ってねえかも知れねえだろ」
「じゃあそこのところを調べないとだね!」
シビルが勢いよく顔を上げる。
「なんでそうなる。うちの縄張りじゃねえんだぞ」
「人がいっぱい消えてて、その辺でちょうどレックスたちが変な動きしてるんだよ? 絶対なんかあるって!」
「だからなんだよ。そこはうちの縄張りじゃねえんだ。嗅ぎまわってるのがレックスに知られたらどうなる? 面倒事は避けられねえぞ」
「それはそうだけど……。バレないようにやればいいじゃん!」
「バレた時の話をしてんだよ」
「だからバレなきゃいいんだって!」
「バレたらどうすんだって話だ。わからねえ奴だな……」
リオンの言葉に、シビルは心底納得できないらしい。今にも飛び出して調査を始めそうな顔をしている。
「ギル、覚えとけよ」
「何のことだろう? 僕はシビルちゃんと少し話したら帰る予定だっただけだよ」
「気に食わねえことしやがって」
相変わらず涼しい顔をしている。
リオンは諦めたように息を吐き、椅子の背に身体を預け直した。
「そもそもよ」
机の上に広がった資料を顎で示す。
「スラムで十人、二十人消えたくらいで、なんで王子様が必死になってんだ」
ギルの表情から、笑みが少し薄れた。
「言っちゃ悪いが、こいつらの中には犯罪者もいるんだろ? 家族もいねえ。昨日までどこにいたのかも分からねえ奴だっている。普通に生きてりゃ、消えたことにすら気付かれねえ連中だ」
セレストが何も言わず、ギルを見る。
「スラムの人間なんざ、王族様には関係ねえだろ。むしろ、消えてくれた方が都合がいい。そういう奴等の集まりだ。違うか?」
今度ばかりは、ギルもすぐには答えなかった。
窓の外では日が完全に沈み始めている。遠く王都の中心部に並ぶ魔力灯の光が、狭い窓の向こうで小さく揺れていた。
やがてギルは、いつもの柔らかな声で言った。
「彼らも、私の国の民だ」
それだけだった。大義を語るでもなく、王族としての責任を説くでもない。
けれどリオンには、ギルが何を言いたいのか十分に分かった。
昔から、この男はそうだった。王城に住む貴族も、路地裏で眠る浮浪者も、ギルにとっては同じ国に暮らす人間だった。それを青臭いと思ったことは何度もある。
実際、いまでもそう思う。
「……相変わらずだな、お前は」
「そうかな?」
「ああ、なにも変わってねえ。あの頃のままだ」
「リオンにそう言ってもらえると照れちゃうな」
「気持ちわりい。褒めつもりはいっさいねえよ」
リオンは椅子から立ち上がった。
「話は聞いた。でも俺は動かねえ」
「うん」
ギルは意外にも素直に頷いた。
「最初から言っている通り、他所の縄張りだ。うちの連中を危険に晒してまで首突っ込む理由はねえ」
「分かった」
「本当に分かってんのか?」
「もちろん」
その返答があまりにも素直で、逆に腹が立つ。
リオンは横を見る。
シビルはまだ資料を覗き込んでいた。
「調べんなよ」
「なんでそういうこと言うの!」
「絶対やる顔してるからだよ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「お前の場合、言う前に動くから言ってんだ。シビルが好き勝手動いたせいで、どんだけこっちが尻ぬぐいしてきたかわかってんのか? そうだろブラッド」
「はい。コイツのせいで俺達は何度も死にかけてます」
「だそうだシビル。だから今回はジッとしてろ」
「それは無理」
「ってめえ。それがボスに対する態度かよ」
リオンが溜息を吐く。
ブラッドはなぜか頷いていた。
セレストは口元を押さえて僅かに笑っている。
そして今回の張本人であるギルは、何も知らないという顔で窓の外を眺めていた。
「ギル、次から相談があるならいつも通りの手順で連絡しろ」
「うん。考えておくよ」
「あと、二度とシビルを巻き込むな」
「僕は名前を呼んだだけなんだけどな」
「悪質なやり方しやがって」
ギルが微笑む。
その後ろで、シビルはすでに資料の一部を自分の手元へ引き寄せている。
「シビルさん。これ、資料の写しだから。持って行って」
「ありがとう、セレスト! あとこれと、こっちと……」
彼女は紙に書かれた地区名を一つずつ確かめながら、何やら楽しそうに頷いていた。セレストが細かく事情を説明している。
「シビル、そいつを受け取るな。さっさと返せ」
「なんで! ただなんだよ? ただより安いものはない!」
「ただだからって厄介事をもらって来るんじゃねえんだよ。ただで借金背負ってるようなもんだぞ」
「いいじゃん、これは情報屋として知っておくべきことだと思います!」
「お前が誰の組織に所属してる情報屋か言ってみろ」
「みんなの組織!」
「バカ野郎が。全く話が通じねえ」
リオンが手を伸ばすと、シビルは紙を抱えてするりと身を翻した。
ブラッドの脇を抜け、開いていた扉から廊下へ飛び出していく。
「じゃ、ちょっと見てくる!」
「おい!」
「大丈夫! 見るだけだから!」
足音が階段の方へ遠ざかっていく。
「……ブラッド、南の警備を増やせ。さっきの馬鹿二人を使っていい。必ず誰か一人まともな奴をつけろ」
「了解」
ブラッドがすぐさま部屋を出る。
リオンはしばらく扉を睨みつけたあと、ゆっくりとギルへ顔を向けた。
ギルは爽やかに笑っている。
「……何かな?」
「ぶん殴るぞ、王子様」
「そんなことしたら大問題になるよ?」
「誰も見てねえ」
「私は見ているわ」
セレストが冷静に口を挟んだ。
「お前は黙ってろ」
「無理ね」
「だったら二人して始末してやってもいいんだぞ?」
リオンの脅しに、ギルとセレストは平然と答える。
「やれるものなら」
「やってみせてほしいものね」
その言葉を聞いて、リオンは深く息を吐いた。
「本当に……。面倒な奴等だ」
どうやら、本人が望むかどうかに関係なく、この話はもう少し続くらしい。
窓の外では、レグナリアの夜がゆっくりとスラムを覆い始めていた。




