第6話 ステータスと、相棒の鳴き方
「はぁ」
現在、鑑定待ちで控え室にいる。
一人一人が待てるようにプライバシーが守られているので、チロを解放して羽を伸ばさせている。
椅子と地面を行ったり来たりしている。
「受付するだけで疲れすぎなんだよな」
いや、俺にも悪いところはあったよ? だけどさ。
「知らんうちに、魔力の圧くらってんだもん……」
確かに魔力の圧って言ってた。
たぶん、意図的に圧を当てられたとき、明らかに自分の体が強張る感じがしていた。
前回の注意のときも、間違いなくやられたってことか……。
だとしても、俺の前のナンパ男たちがなぜ
平然としていたのか分からない。
最後尾の俺でも、最前列からの圧の欠片だけで嫌すぎて別の列に並びたかったのにだ。
実際、両サイドの人たちは意図的に避けてた感じもあったし、違いが分からん。
「ナンパ男の下心が勝ったわけでもないし、他には……」
お姉さんより格上だった、はちょっと現実味がない。
そもそも異世界から転移してきたお姉さんが、
俺たち地元民より弱いはずないし、魔力の意識的な使用もいうまでもない。
他に不平等な差があるとすれば……。
「ステータスか?」
俺の耐久が防御力の他に免疫力などの高さがあるように、
次いでステータスの魔力も高めだからだろうと思う。
たぶん、おそらく、メイビー。
――いや、本丸はそっちじゃなくて、魔力の感受性かもしれない。
今回のナンパ男たちと俺の差が、感受性の違いだとしたら、あれだけいた探索者の中からあの人数だけが平然としてたのも筋が通る。
魔力の数値そのものが平均より低いのか、感受性が鈍いのか、は分からんが。
そこでふと、さっき戦ったこん棒ゴブリンが頭に浮かんだ。
「あいつはたぶん俺の魔力に反応してた。今回の俺みたいに」
決して俺がゴブリンとおそろっち(死語)なわけではなく。
モンスターも俺たちと同じように、相手の強さを肌で弁える感覚を持ってるらしい。
受付のお姉さんを前にした前回も今回も、俺の体は嫌でも「格上だ」って分からされてたのと同じで、
魔力の感受性の高い自分なら、モンスター側の強さも肌感で掴めそうな気がする。
実際、こん棒ゴブリンの接敵のとき、そんなに近くなかったのに最初の違和感を感じ取った。
筋肉量やこん棒の扱いは遠目では分からないのに感じた違和感の真の正体は、モンスターのレベルアップ時の魔力量増大による圧の強さの変化。
世間じゃモンスターは魔力の塊、なんて言われるし、そのくらい魔力の密度が高いなら、
俺のレベルはまだ低いが魔力適正の高さで感じ取れたとみて、割といい線いってると思う。
ナンパ男たちの中にも、俺よりレベルが高い奴らはいただろうし。
今後は、モンスターと出会ったときの最初の肌感を大事にした方が良いかもしれない。
実際、レベルアップ個体は今までの二回とも、意外な行動や知性、あるいはステータスの片方が突出してた。
「パーティーだったら、ここら辺を役割分担できんだろうけど」
ないものねだりだ。
虚しすぎんだろ。
「チリンチリン」
呼び鈴の音だ。
「チロ、おいで。見てもらいにいくよ」
チロを呼び出して抱え、鑑定室に向かう。
◇
鑑定室の空気はとても静かだった。
蝋燭みたいな匂いと、薄い香。
机を挟んだ椅子には、神瞳族のドワーフさんが座っていた。
「よくぞ参られた。私はガルド・ブルグム、火口炉神アグナヴァル様に仕えておる」
第一印象は、髪と髭が白髪で、法衣を着たサンタクロースって感じだ。
自己紹介の声は優しさの中に威厳や包容力が滲み、緊張はしないが恐縮してしまう不思議な感じだ。
「遅れました。探索者のクマと言います。こっちは相棒のチロです」
俺は一礼したあと、チロを前に出して挨拶させる。
「よろしくのう。して今回は一名と一匹の鑑定となっているが……」
チラッとチロを見るガルド様。
「クマ殿と、そちらのチロ殿という事でよろしいかな?」
「はい、そのとおりです。間違えてダンジョンで魔石を飲んでしまって……」
俺は今回の経緯を説明する。
「なるほどのう。戦闘に参加し、その後魔石を飲み込んだと」
考え込み、チロを凝視するガルド様。
不安が募る。
「やっぱり危険な状況なのでしょうか、ガルド様」
意を決して聞く。
「ん? ああ、危険かどうかはこちらでも断定しにくい。前例が無いのでな。まずは撫で……触診させてもらおうかの」
ん? またデジャブか? 夢でも見たかこれ。
でも見てもらわんことには始まらん。
いけ! チロ君に決めた!
「お願いします!!」
差し出したチロを優しく包み、これまた優しく頭やお腹を触っていくガルド様。
髭で分かりづらいが、笑っているかも。
たまに小声で「よしよし」って聞こえて、チロもぷぅぷ返事して、お返しに高貴な白いお髭を齧り……。
「おわぁっ! 齧っちゃだめ!! ガルド様、申し訳ありません!!! 悪気は決してないんです!!!」
とっさに一瞬で土下座をして、決してこちらが舐めているわけではないと姿勢で示す。
どうする? チロの分の謝罪も兼ねて、お腹も出して服従ポーズも必要か?
マジの天罰が降ってくるのはシャレにならん。
捨てられるプライドは全部、この場で捨てられるぞ!
「ほっほっほ、何。子供のしたことでな、怒っとらんわい」
俺は恐る恐る顔を上げて、ガルド様の表情を穴が開くほど観察する。
初めてこんなに現実の他人の顔を凝視したぞ。
眉間や鼻や目の周りの皺は、最初と変わらなそうだ。
さっき聞いた声も穏やかだった感じがする!
見落としはないか? 他には……魔力! さっき控室で考えてた魔力だ!
今必要だろ、感受性。
俺は受付で刺激された魔力の肌感を頼りに、意識してみる。
相手は圧倒的上位者。何か感情の機微ぐらいは感じ取れるかもしれない。
顔を上げて数秒たったが、相変わらずチロがお髭をハミハミする音が聞こえるだけ。
嘘だろ? まだ噛んでんの?
いや、けどずっと噛まれて、肌感に魔力の圧は伝わってこない。
たぶん最初から感じた声を聴いたときの威厳や包容力の温かみが、この人の魔力の影響なら、今もずっと同じだ。
同じはず。だから気にしてないってことで大丈夫だよね?
神様も同じ意見ですよね? 髭の持ち主の本人が気にしてないって言ってるから、不意打ちはやめてくださいね?
頭あげますよ~、人間の姿勢に戻りますよ~、もどりますからね~~~。
「寛大なお心、感謝いたします」
俺は手を組み合わせ、もう一度頭を下げ、椅子に座り直した。
◇
「では、見ていこうとするかの」
ガルド様は姿勢を正し、目を閉じ、額の文様に指を当てた。
瞬間、額の文様の上を魔力が走ったような気がした。
見られてる。
触られてる。
巨大な存在に撫でられたような感覚。
最初の鑑定時は感じなかったし、魔力の感覚も分からなかったが、こんな不思議体験してたんだな。
「分かったのじゃ」
落ち着いて御言葉を待つ。
「まずはチロ殿」
「端的に言うと、探索者と同じ状態になっておる」
「それって……」
「ゴブリンとの戦闘に参加したことで経験値が分配され、ステータスを獲得しておる」
「あ、あのっ、魔石を食べたのはどうなりましたか!!」
「ん? ああ、食べとらんよ。収納しとるだけじゃ」
「え? チンチラに頬袋とかありませんよね?」
「スキルじゃな。極々小さいが、確かに収納系じゃよ」
ほれ、と鑑定の写しをもらう。
チロ:レベル0⇒1
| 項目 | 評価 |
| -- | -: |
| 攻撃 | F |
| 耐久 | D |
| 器用 | D |
| 敏捷 | B |
| 魔力 | B |
| 幸運 | A |
| スキル | Lv | 説明 |
| ------- | -: | ----------------------------- |
| 1 | 小物を隠す |
| 1 | 魔力を匂いとして感じ取る |
称号
《小さな同行者》|効果なし
「はぁあ!??」
??? 意味が分からん。
「何コレ」
「優秀じゃのう」
俺と違い、耐久以外の項目すべて兼ね備えていらっしゃる。
もしこれが人間のステータスなら、攻撃耐久は武具で補えるとして、魔力の適正や敏捷優秀。
あともしかしたらこいつが一番悪さをしていると少し思い始めてる幸運、
これがいっちゃん高い。
まるでチロに運吸い取られてますやん。どしたんマジで。
「最初からスキルも2個あるとして、称号も見たことないぞ」
「小動物は人種と違い本能の高さがゆえだのう。本来低いはずの魔力も、ダンジョンの環境に適応するように上がっておる」
「……さっきの」
ダンジョンの曲がり角で、チロが鳴いたときがあった。
あれで俺は止まった。
止まらなきゃ、二体の群れに突っ込んでたかもしれない。
その前も、ゴブリン一体出てきたときも鳴いてた気がする。
「じゃあ、飲み込んだように見えたのも、この《小さな蔵》のスキルってことですか」
カラン。
「ぷっ」(チロによって机の上に吐き出される魔石)
「初めての収納で、出し方も俺も分かってなかったのか……。も、もっと早く出してくれたら、受付の悪魔と契約せずに良かったのに」
「悪魔?」
「な、何でも無いですよ! そ、それより自分のステータスもお願いします!」
「そうじゃのう。お主のはこれじゃ」
あっぶね。俺が陰で悪魔って言ってるのばれたら、ジョブがパシリに昇格しそうだ。
クマ:レベル3⇒5ステータス
| 項目 | 評価 |
| -- | -: |
| 攻撃 | B |
| 耐久 | A |
| 器用 | C |
| 敏捷 | D |
| 魔力 | B |
| 幸運 | F |
| スキル | Lv | 説明 |
| ------- | -: | ----------------------------- |
| — | 武器の心得、観察の心得 |
| 1⇒2 | 持続回復+再生効果 |
「え? バグ?」
「お主はかなり珍しいスキルじゃな。スキル一つから枝分かれする形でスキルが増えとる」
「凄いことなんですか? もしかして世に聞く勇者とか聖女とかの壊れスキルだったり……」
「いんや、単純に珍しいだけじゃ」
「ソウデスカ」
てかまって気づいちゃった。
心得ってレベル無いわけよ。
んでレベル5って、確定でスキル増えるかどうかの大台なわけだけど、
俺の場合レベルが上がらない珍しいスキルが増えたわけで、
どうせ増えるなら使い込めばレベルが上がる剣術、斧術とかのスキルの方が使い勝手良さそう。
実際、あんだけ怪我したからオートリペアは上がってる。
「てか魔力の肌感うんぬん、これの影響があったのかな?」
「新しいスキルの詳しい内容は、こうじゃ」
別で写しをもらう。
《観察の心得》
スキル効果
視界内の対象を落ち着いて観察したとき、わずかな違和感に気づきやすくなる。
ただし、答えが分かるわけではなく、気づいた情報をどう判断するかは本人次第。
「見る力ではなく、見落とさないため、文字どおり心得じゃな」
「反応に困る能力ですね……」
追放されてここまで、自分なりに頑張ってきたが、正直落ち込む。
もっと今の状況を打破できるスキルを期待していたんだ。
せめて体力に物言わせて使い込み、洗練されていく斧術とかでも良かったのに……。
「そうでもないのじゃ」
下を向き悩んでいた顔を上げる。
「お主のスキルはどれも、目に見えて攻撃性能が上がるものではない」
はっきり他の人に言われると傷つくなぁ。
「じゃがこの《冒険者の2つの心得》は、お主の体に根づくように下地や感覚を支えるように変化しておる」
「もうひとつの《オートリペア》も、レベルが上がっていかにお主がスキルと向き合って戦ってきたのかよく分かる」
「ステータスは嘘はつかん。レベル5の段階で初期のスキルがどちらも向上する者はあまりおらんぞ」
まるで教会で悩みを打ち明けたかのように、心が晴れた気がした。
やることは変わらない。ここで諦めて、クソ兄貴に笑われるような人生を今更送るつもりはない。
「腐らず頑張ります、ガルド様」
自然と手を合わせ、頭を下げた。
「うむ。精進せよ」
俺たちは感謝を告げ、部屋を後にした。
◇
チロに話しかけながらギルドの廊下を歩く
「ついてくるなら、安全第一だぞ」
「ぷぅ!」
「はは。次は変なスキル発現するなら、翻訳スキルとか便利そうだなぁ」
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